第502話~大海溝の遺跡 入り口~
とうとう『大海溝の遺跡』へとたどり着いた。
遺跡の外観は王都などの一流の神殿と言った感じで、とても立派な建物だった。
その建物の入口に近づくと、立派な石の扉が遺跡の入口を閉ざしているのが確認できた。
どうやって入るのかと思っていると、セイレーンが俺にこんなことを言い始める。
「ホルスト君、『王家の徽章』を持っているでしょ?あれをかざしなさい。そうすれば扉が開くわよ」
「わかりました。ヴィクトリア」
「ラジャーです」
俺はヴィクトリアに『王家の徽章』を出してもらうと、セイレーンの言う通りに『王家の徽章』を扉へ向けてかざす。
すると。
「お、扉が開くぞ!」
ゴゴゴ、という音とともに扉が開くのだった。
さて、これでようやく遺跡に潜入できるな。
ということで、俺たちは潜水艇を遺跡の中へと侵入させるのだった。
★★★
遺跡の入り口をくぐるとその先はちょっとした水路になっていて、さらにその水路を通り抜けると遺跡内の船着き場に到着した。
船着き場には空気があり、普通に息ができた。
遺跡の構造上、無理がある感じがしないでもなかったが。
「まあ、ここは私やお父様が造った遺跡だからね。神の力を使えば、その点はどうにでもなるのよ」
と、セイレーンに言われてしまったので、そんなものかと思うことにした。
遺跡の船着き場に上陸した俺たちはとりあえずノーチラス号を回収する。
「最深部まで行けば転移魔法で出られるかもしれないし、とりあえず潜水艇は回収しておくべきだろう」
そんな理由で回収したのだった。
仮にここへ戻ってくる必要がないのなら、潜水艇を回収する機会が無くなってしまうわけだから、この判断は間違っていないと思う。
さて、これで船着き場ですることはもうない。
さっさと次へ行くことにする。
★★★
船着き場を離れ奥の方へ向かうと、また神殿のような建物があった。
神殿のような遺跡の中にまた神殿のような建物?セイレーンとおじいさん、こんな感じの建物がそんなに好みなのか。
また同じような建物を見た俺はそんな感想を抱いたものだが、よく考えると神殿って神聖さを感じさせる建物だから、こういう場所にはちょうど良いのかもしれない。
まあ、他にも神聖さを感じさせる類の建物はあると思うが、二人の内特にセイレーンは結構適当な所があるので、考えるのが面倒くさくて、この建物にしたのではないかと思う。
と、俺の妄想はこれくらいにして、神殿の中へ入ろうか。
★★★
「ホルストさん、また扉みたいですね」
神殿の入口にまた扉があるのを見て、ネイアがそんなことを言う。
遺跡の中の神殿に入り口にもまた扉があった。
遺跡の入口の扉は石造りだったが、ここのは金属製だ。
扉からは若干の魔力が漏れ出ていて、しかも銀色なのでミスリル製ではないかと思う。
そして、扉の真正面には何やら紋章が描かれている。
俺はこの紋章には見覚えがある。セイレーンの紋章だ。
ということで、俺はセイレーンに問いかける。
「セイレーン様。この扉に描かれている紋章はセイレーン様のみたいですけど、もしかして、この扉を開ける方法を知っていたりしませんか?」
「ええ、知っているわよ」
「本当ですか!教えてください」
「いいわよ」
そう言うと、セイレーンはコホンと一つ咳払いをして、もったいぶった感じで話し始める。
本当ヴィクトリアと言いセイレーンと言い、何か自分の知っていることを話す時にもったいぶる癖があって困ったものだと思う。
「そこの扉の横に私の紋章が刻まれた魔石があるでしょ?そこに魔力を流し込めば扉が開くわよ」
「わかりました。やってみます」
セイレーンの話を聞き終えた俺は早速その言葉通りに魔石に魔力を流してみる。すると。
「お!扉が開いたぞ!」
ようやく目の前の扉が開いたのだった。
これで神殿の内側に入れるようになったので、中へと入って行くことにする。
★★★
神殿の中に一歩入るなり、何となく周囲の空気が重くなった気がした。
急に何だろうと思った俺だったが、そんな俺にプルプルと小刻みに震えるヴィクトリアのやつが抱き着いて来て、こう囁くのだった。
「ホルストさん!この神殿の地下から何か変な声が聞こえませんか?」
「声?そう言われれば、そうかも」
そう言われた俺は地面に横たわると、耳を床に当ててみる。すると。
「確かに……地面のはるか下から、う~とかひ~とか人の悲鳴のような声が聞こえるな」
確かに人の悲鳴のような声が地面の下から聞こえてくるのだった。
ただその音は非常に小さく結構注意しないと聞こえない感じだった。
実際、うちのメンバーの中でその悲鳴みたいな声を怖がっているのはヴィクトリアとセイレーンの二人だけだった。
「セイレーンお姉ちゃん、ワタクシ怖いです!」
「私も悲鳴とか気味が悪いわ」
そんな風に二人して抱き合ってプルプルと震えている。
ただ、他の嫁たちにはあまり気にならないようで。
「「「悲鳴ですか、そう言われればそんな声が聞こえてくるような気がしますね」」」
「銀姉ちゃん、何か声聞こえる?」
「う~ん。よく分からないわね」
と、ひょうひょうとした顔で二人の様子を見ていた。
そんな俺たちにおじいさんが声をかけて来る。
「ふふふ、驚いたかね。ここで聞こえてくる悲鳴は地獄にいる亡者どもの悲鳴なのだよ」
「「え?地獄の亡者の悲鳴だったのですか?それは怖いです~」
地獄の亡者の悲鳴だと聞いてヴィクトリアとセイレーンがさらに怖がっている。
俺も地獄の亡者と聞いてマジかと思い、慌てておじいさんに詳しい話を聞くことにする。
「え?地獄の亡者の声?ということは、ここの下には地獄があるのですか?」
「ちょっと違うな。別にここの地下に地獄はない。地獄は冥府の中にあり、冥府は冥府としてとしてすべての世界と独立してある。ちなみに天国は天界の中ににあって、もちろん天界もすべての世界と独立して存在しているぞ。ということで、天国や地獄へ行くには、そこへ行くための転移門を通る必要があるのだ」
「転移門を通るのですか?」
「そうなのだ。そして、この遺跡の一部は転移門を通じて地獄と繋がっているのだ」
「つまりはこの下に直接的に地獄はないのですか?」
「その通りだ。直接はない。転移門を使って地獄の一部につながっているだけだ」
地獄や天国に行くには転移門を通って行かなければならない。
なるほど、そういう仕組みになっているわけか。
そう言えば、前に銀がヴィクトリアのお使いで冥府へ行っていたが、あの時もどこかにある転移門を通って、多分白狐の神社にあった『冥界への門』がそうではないかと思うが、冥府へ行っていたという訳か。
俺はその点を確認すべくおじいさんに聞く。
「そう言えば、うちの銀が前にヴィクトリアのお使いで冥府に行っていたのですが、あれも転移門を通ったのですね」
「そうだと思うぞ。この世から天国や地獄に行くためには転移門を通る必要があるからな。生物が死んだときも、魂が肉体から分離し、転移門を通って冥府へ行き、そこでジャッジメントの裁きを受け、最終的に天国へ行くか地獄へ行くか決まるようになっているからな。まあ、死んで魂だけの存在になったとしても、この世への執着や未練があったりするとうまく転移門へたどり着けず、そういった連中はアンデッドになるのだがな」
ふーん、なるほどねえ。勉強になった。
世の中そういう仕組みになっているのだと初めて知った。
こんな貴重な情報、世の神官共に教えてやったら泣いて喜びそうな話だと思う。
それくらいにはおじいさんの話は有益だった。
まあ、それはいいのだが、ヴィクトリアにセイレーン、お前たちは何で地獄と聞いてそんなに怖がっているんだ?
お前ら一応神様だろ?地獄を怖がっていて仕事になるのか?
とはいえ、まだヴィクトリアなら話は分かる。あいつは天界でも碌に仕事をしていなかったようだから、地獄に行ったことがなくて、怖いと人に聞いていてそう思っているのかもしれない。
でも、セイレーン様。あなた、確か地獄までヒュドラの毒を取りに行ったとか言っていましたよね。
それと、この遺跡をおじいさんと一緒に作ったのもセイレーン様ですよね。
なのに、ここで怖がるとか、どういうことですか!
そう思いつつも、俺はセイレーンの心情を何となく推察してみる。
そういえば、こいつって妙に自分をかわいく見せたがるところがあるんだよなあ。
いい年して、姪っ子のヴィクトリアにもお姉ちゃんって呼ばせているくらいだし。
だから、本当は怖くなくても大袈裟に怖がっているふりをして、ホラーに怖がるかわいい女の子を演出したかっただけなのではないかと思う。
まあ、別にいいんですけどね。女の子はいつまでもかわいくありたいものですからね。
そんなことを考えつつも、それを口に出せばセイレーンが絶対に怒るだろうなと思って、口には出さない俺なのであった。
★★★
それはさておき、この下が地獄と繋がっていると聞き、俺に一つの疑問が湧いてきた。
その点をおじいさんに聞いてみた。
「それで、おじいさん。この遺跡が地獄と繋がっているのは分かりましたが、それは何のためなのですか?」
「それはな、地獄の一部を利用してこの遺跡のダンジョン部分を用意してあるからなのだよ」
「つまりは、この遺跡のダンジョンは地獄ということですか?」
「ちょっと違うな。この遺跡に別に地獄の亡者とかは出てこないぞ。単にダンジョンの施設に地獄の地形や気象を利用したダンジョンというだけの話だ。まあ、いうなれば地獄風ダンジョンと言った感じかの」
地獄風ダンジョンね。
さすがは神様。ダンジョン一つ造るのにやることが違うと思った。
それはそれとして、おじいさんの言いたいことは大体理解した。
要はこの遺跡のダンジョンを作るのに地獄の一部を利用したというだけの話ということのようだ。
そうと分かれば、この遺跡を攻略するだけの話である。
ということで、頑張って遺跡を攻略して行こうと思う。




