閑話休題75~カエル公爵冒険記2 子供は恐い~
ヒッポカンプ公爵である。
セイレーン様の手によりカエルの姿にされてしまった私は、水槽の中から飛び出て以来、自分では冒険と称する放浪の日々を送っている。
この生活はそんなに悪いものではなかった。
水槽の外では餌に困るのではないかと思ったがそんなことはなかった。
町の路地裏へ行けば、残飯にたかるハエ共がたくさんいたので、そいつらを食べれば食欲を満たすことができた。
それに愚民共が私の悪口を言いに現れることもないし、何より自由なのが良い。
本当、自由って最高!
狭い水槽に閉じ込められて自由のない日々を送っていた私にとって、思わずそう叫びたくなるくらいには最高の日々だった。
★★★
しかし、そんな日々は長く続かなかった。
ある日、何の前触れもなく私は町の子供に捕まってしまったのだった。
その日、私は町の公園の片隅の茂みの中で惰眠をむさぼっていた。そこへ……。
「カエル、つ~かまえた!」
「ゲコ、ゲッコー!(な、何だ!)」
背後から町の子供たちが近づいて来て、そうやってあっさりと捕まってしまったのだった。
子供たちに捕まった後、私は子供たちのおもちゃにされた。
「吊るせ!吊るせ!」
「こいつで魚を釣っちゃえ!」
そうやって私は魚を釣るための餌にされたのだ。
トリトンの町の下水溝には通称『トビウオ』という名の魚が住んでいて、水中から飛び跳ねて空中に出て来ては空を飛んでいる虫などを捕食するのだ。
ちなみに、こいつが食べる餌にはカエルも含まれていたりする。もっとも、トビウオがカエルを捕食する場合、水の中を泳いでいるのを捕食するのが一般的みたいだが。
ただ、この町の子供たちはカエルを使って、水中から飛び出てきたトビウオを釣るという釣りをするのだ。
ということで。
「ゲー、ゲコココ(ヒー、お助け~)」
釣り糸でがんじがらめに縛られ、釣り竿に引っ掛けられ、下水溝の上で吊るされるという地獄を私は味わったのだった。
釣り竿で吊るされるのは、正直言ってとても苦痛だった。
まず落ちないようにきっちりと縛られているので、糸が体に食い込んできてとても痛い。
それはもう痛い。
さらに言うと、釣り竿に吊るされているためブラブラと揺れ続けているので、糸がこすれて体に傷がつくのもとても痛かった。
その上、体が揺れている関係で脳みそも揺れていて脳震盪を起こしそうな感じなのもつらい。
三半規管が激しく揺れて今にも吐きそうなのだ。
とどめとして、いつトビウオに襲われるかもという恐怖が常に付きまとっているのもきつい。
トビウオは思ったよりも凶暴な魚だ。
獲物を見つけると急に飛び掛かってくるのだ。
そうなると私など一飲みにされるに違いなかった。
ああ、私の最期は釣り竿に吊られてトビウオの餌となる運命なのか。
釣り糸に縛られ、その痛みと吊るされて体を揺さぶられたことによって意識が朦朧としつつも、これで私の人生も終わりか、そう思うと何だか泣けてくるのであった。
★★★
結局、私がトビウオに食べられることはなかった。
「ちっ。このカエルでか過ぎるから、きっとトビウオのやつ食いにくいと思って食わなかったんだぜ」
釣り糸から解放された後、虫かごに入れられた私を木の棒で突っつきながら、子供たちがそんな風に文句を言っている。
どうやら私の体がでかかったため、トビウオの食指が動かず食べられなかったみたいだ。
とりあえずはホッとした私だが、まだ助かったとは言えない。
相変わらず子供たちに捕まったままなのだから。
というか、子供たちよ。棒で突っつくのは止めてくれないか。
それ地味に物凄く痛いので……。
私がそんなことを考えていると、子供の一人が突然こんなことを言い始めた。
「それはそうと、こいつどうする?トビウオの餌にならないんじゃ役に立たないし解放するか?」
「う~ん。そうだな。……そうだ!俺の兄ちゃんって、蛇飼っているじゃん」
「ああ、飼っているな。それがどうしたんだ?」
「兄ちゃんさあ、時々蛇に生餌として生きたカエルを食べさせているんだよ。だからこいつを持って行ったら喜ぶかも」
「おお!いいんじゃないか。是非そうしよう」
その子供たちの会話を聞いた私は恐怖した。
え?蛇の生餌?結局私食われるの?
新たなる死の予感に私は恐怖し、ただ震えるのみであった。
★★★
「こいつを生餌にするのか?そいつはいい考えだが、今日はちょっともったいないかな」
子供たちがその兄とやらの前に私を連れて行くと、私を見た兄はそんなことを言い始めた。
なお、この兄とやらは子供たちの話通りに蛇を飼っており、私が行った時にはちょうどその蛇のゲージに餌として生きたカエルを入れている所だった。
ケージに入れられたカエルたちの運命は悲惨だった。
「ゲコゲコ」
蛇に睨まれた恐怖で動けないうちに丸飲みにされるか、気力を振り絞って逃げ出そうとして後ろから丸飲みにされるか、その二択である。
要するにどうやっても食われるしか道は残っていないのだった。
私もいずれああやって蛇に食われる運命なのか。
そう思うと、恐怖で震える事しかできなかった。
そんな風に私が生餌としてケージに入れられたカエルたちの運命に恐怖している間にも兄の話は続く。
「このカエルはとても大きいからな。普段の生餌にするのはちょっともったいないなあ」
「ふ~ん、じゃあどうするの?」
「ほら、今度海神祭があるじゃないか。あの時に特別な餌としてこいつを食べさせてやればいいんじゃないかと思っている」
「海神祭の時に食べさせるの?いいんじゃない」
これで私の運命は決まったようだった。
海神祭の時、特別な餌として目の前の蛇に食べられる。
そんな残酷な運命が私を待ち受けているようだった。
そうと知った私は必死に祈るのだった。
ああ、誰か、私のことを助けてください!
もちろんその私の願いに誰も応えてくれず、海神祭の日まで私は蛇の餌となる恐怖と戦い続けることになるのであった。




