第498話~海神祭 その5 海神祭メインイベント後編~
仕出し弁当を食べた後、のんびりとしているとヴィクトリアたちが帰って来た。
「屋台巡りとても良かったわ。昨日あれだけ屋台を巡ったはずなのに、まだまだ食べたことがない食べ物を売っている屋台を発見できて大満足だったわ」
「そうですね、セイレーンお姉ちゃん。未知の食べ物を食すのって本当楽しいですね。ワタクシも大満足です!」
セイレーンもヴィクトリアも屋台巡りで新たな発見ができたようで、大変満足そうな顔をしていた。
「銀姉ちゃん。このイチゴ飴、とってもおいしいね」
「うん、おいしいね」
ホルスターと銀もおやつをたくさん買ってもらえたようで、両手にいっぱいのお菓子を抱えて満足そうにしている。
唯一ヴィクトリアのおじいさんだけは。
「とても、疲れた」
と、とてもしんどそうな顔をしていた。どうやらエネルギッシュなヴィクトリアとセイレーンに振り回されてあちこち歩かされ荷物持ちまでさせられて、疲れ果ててしまったようだ。
食い物がかかったヴィクトリアとセイレーンにかかわったらそうなることは分かっていたのに、のこのことついて行くからですよ。
しんどそうなおじいさんを見て俺はそう思ったが、もちろんそんなことを口に出したりはせず黙っておいた。
そんな感じで屋台巡りから帰って来たヴィクトリアたちと合流した俺たちは、再びセイレーン神殿へと出かけたのだった。
★★★
海神祭のメインイベント。
それは厳かな雰囲気の中で行われるセイレーンのへのお祈りの儀式を中心に行われる。
神殿前の大広場。そこには儀式を一目見ようと、トリトンの町中から大勢の人が詰めかけて大層賑わっていた。
広場の神殿の方にはセイレーンの神像が置かれ、その前には華麗な装飾が施された祭壇と台座が設けられている。
その台座に初老くらいの神殿の女性神官長が立つと儀式が開始される。
「天におわします海神セイレーン様。我ら海底の民にどうかお恵みを」
神官長はそう言葉を発すると、目を閉じ、手をギュッと握り込むと、台座の上に座り込み、一心不乱にお祈りする。
それに合わせて、神官長の後ろに控えていた楽団が演奏を、合唱団が合唱を開始する。
奏でる歌は海神セイレーンを称える讃美歌。
とても厳かな雰囲気の歌で聞いていてとても心地が良かった。
讃美歌が始まったのに合わせて会場にいた人々もお祈りを開始する。
「セイレーン様。どうかまた一年、我らをお守りください」
そうやって各々の願い事を口にしながら必死にお祈りする。
人々がお祈りっを始めたのに合わせて俺たちも一応お祈りをしていく。
本物のセイレーンがすぐ横にいるのにセイレーンの神像にお祈りしてどうするのだろうと思ったりもしたが、そこは俺たちも『セイレーンの戦士』様として海底では知られている冒険者。
皆に合わせておくことにする。
しばらく皆でそうやってお祈りしているうちに楽団の音楽が止まる。
どうやらお祈りの時間が終わったようだ。
神像にお祈りするために膝まづいていた神官長が立ち上がり、民衆に対してこう宣言する。
「これで今年の海神祭も終わりです。それでは……」
そうやって神官長が祭りの終わりを宣言しようとした時、それは起こった。
「何だ!あの光は!」
民衆の誰かが神殿のの上空を見てそんなことを叫んだ。
すると、強烈な光を放つ物体が上空からこっちへ降りてくるところだった。
この現象には見覚えがあった。
俺は横にいたセイレーンのやつをきっと睨みつけた。
見ると、セイレーンはいたずらを成功させた子供のようにうれしそうに笑っていた。
それを見た俺は確信した。
こいつ、またやりやがった!前の時みたいに自分の分身体を下界に降ろしてきやがったな、と。
★★★
下界に降りてきたセイレーンの分身体は自分の神像の前へゆっくりと降りてくると、居並ぶ民衆に対してにっこりとほほ笑む。
その笑顔は完璧でまさに女神様の笑顔と言った感じだった。
セイレーンは俺たちの前ではあまりこんな顔をしたりはしない。完全に外向けの顔だ。
本当にネコを被るのが上手いやつだと思う。
それはともかく、セイレーン(仮)が、まあ普通の人はこいつが本物だと思い込んでいるのだが、再び降臨したことで民衆がざわめいている。
「セイレーン様が再び我らの前にご降臨くださったぞ!」
「ああ、さすがはセイレーン様。何とお美しいことか!」
そうやって再び自分たちの前に降りて来て呉れたセイレーンのことを褒め称えていた。
セイレーン(仮)はそうした人々の行動を手で制すると、人々に優しい声で話しかける。
「海底王国の人々よ。急に現れて驚かせてしま申し訳ありませんね。私は女神セイレーンです」
「おおおおーーーー。やはりセイレーン様だ!」
目の前に現れた女神がセイレーンだと名乗り、再び人々が歓声を上げる。
人々の気持ちはよく分かる。
自分たちの崇める神がこうして自分たちの前に姿を現してくれたら、人間誰であろうと感動するだろうからな。
ましてやその女神様が声までかけてくれたものだから大歓迎だと思う。
そんな人々の歓迎を受けてセイレーンは言葉を続ける。
「我が可愛い海底王国の人々よ。よく聞きなさい。最近、暗黒海竜や幽霊海賊団が跳梁跋扈したりと、海底王国では大変な出来事が続きました。その出来事に対して私も心を痛めていましたが、私の派遣した選戦士たちがどちらも解決してくれたようですね。海底王国が抱えていた問題が解決したようで私もホッとしております」
そうやって人々に話しかけるセイレーン(仮)の声はとても慈愛に満ちていて、聞いているだけでとても気持ちが良くなってきた。
正直本当のセイレーンの姿を知らなければ、目の前のセイレーン(仮)が完全完璧な女神様に見えてしまうところだった。
「このようにして今回は問題が解決しましたが、これから先もまた様々な問題が起こるでしょう。また私が派遣した戦士たちもずっとここにいるわけではありません。彼らは私が与えた使命を果たさなければならなければならないからです。これから先の問題は海底人たち自らの手で解決して行かなければならないのです。海底王を中心に頑張って困難を乗り越えて行きなさい。私が言いたいことは以上です。それでは頑張りなさい。私のかわいい海底王国の民たちよ」
そこまで言うと、セイレーン(仮)はもう一度民衆に微笑みかけた後、再び光輝き始め、そのまま天界へと戻って行ったのだった。
それからしばらくの間人々のざわめきが止まらなかったのだが、そのうちに我に返った神官長が人々に話しかける。
「皆さん、今年の海神祭では何とセイレーン様がご降臨くださり、ありがたいお言葉をおかけくださいました。その言葉に従い、我らもこの先も努力し続けましょう。さて、海神祭はこれで終わりです。本日は皆さんのために温かいスープを用意していますので、それを食べ、食べ終わったらセイレーン様にお祈りしながら家へ帰りましょう」
神官長の厳かな言葉が人々を落ち着かせたのか、これで人々のざわめきは収まり、海神祭本番は無事終了し、最後のイベント、炊き出しのスープをみんなで食す会が始まったのだった。
★★★
炊き出しのスープの提供が始まった。
これを楽しみに集まっていた人々が五列の列に並んで順番にスープを受け取って行く。
「キチンと順番は守りましょうね」
「ほら、押さないで。まだまだたくさんありますからね」
こういう行列にはつきものの順番を巡るトラブルも多少は発生しているようだが、神官たちの的確な誘導によって概ね順調にスープの配給は行われているようだった。
そんな中。
「『セイレーンの戦士』様のお席はこちらになります」
俺達は特別席に招待され、そちらでスープを飲んでいた。
この特別席は神殿内に設けられた神殿の偉い人たち向けの席だった。
本来なら神殿関係者ではない俺たちが入れない席なのだが、特別に入れてもらえていた。
どうやらセイレーン(仮)が演説の中で名指ししていた人物を外で食事させるなどとはとんでもないということで神官たちの意見が一致したらしく、こういう待遇になったらしかった。
別に外でもよいのにと思ったが、折角の好意を無碍にするわけにもいかないので特別席で食事をとることにする。
とは言っても特別なメニューがあるわけではなく、外の人たちと同じくスープ一杯のみである。
それでも神官の人たちが随分配慮してくれたらしくスープの中の具については上等な部分をかき集めてくれたようだった。
「うわー、貝柱にイカにドラゴンのお肉ですか。たくさんの具からよい出汁が出ていて、とてもおいしいですね」
「本当ねえ。これならお腹いっぱいになりそうね」
そうやってヴィクトリアとセイレーンの二人が満足するぐらいには良い具材だったようで、本当神官さんたちの心づかいには感謝するしかない。
というか、セイレーン様。さっき演説の時妙に俺たちのことを褒めていたのは、あそこで褒めておけばこうやって神官さんたちが気を使ってくれて、スープのおいしい部分を食べられると考えた、とかそんな理由ではないですよね?
まさかね。いくらセイレーン様がヴィクトリアと同じくらい食い意地が張っていてもそこまでしないですよね。
しないよね?
まあ、いいや。スープのおいしい部分と言っても他の人とそこまで変わるわけではないし。
それよりも、このスープを飲めば海神祭も終わりだ。
セイレーンの言っていた通りそろそろ『大海溝』付近の海流の流れも変わるころだと思うので、早速準備を整えて出発!、と行こうと思う。




