表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/801

第47話~生贄の儀式~

 フソウ皇国の聖地『火の山』。


 ここに1軒の石造りの建物があり、その前の開けた土地には広場が広がっていた。


 その広場の中央。

 そこには祭壇が設けられており、更に祭壇の前には1本の杭が撃ち込まれていて、その杭には一人の少年が縛り付けられていた。

 少年はこの国の後継ぎであるアキラ皇子である。


 この少年を囲うように周囲には人が群がっている。

 全員が神官服らしき装束を着て、集団内での身分に応じた仮面を被っている。


 この集団に属す全員が今か今かと、その時が来るのを待ちわびていた。

 そして、ついにその時が来た!。


 太陽に月が重なり、太陽が徐々にかけ始める。

 皆既日食が始まったのだ。


「司祭長、お願いします」

「うむ」


 部下に促された司祭長が祭壇の前に立ち、部下たちに宣言する。


「諸君、時は来た!ついに我らの悲願達成への扉が開かれるのだ!さあ、刮目せよ!そして、神事を見守るのだ!」

「司祭長万歳!」

「我らに栄光あれ!」


 司祭長の言葉を受け、会場が歓声に包まれる。

 その歓声は永遠に続くかとも思えたが、司祭長が手を上げ合図すると、さっと収まった。

 それを確認した司祭長は、祭壇の上に置かれていたナイフを手に取る。


「さて、始めるとするか」


 ナイフを手にした司祭緒はアキラ皇子の前までゆっくりと進み、アキラ皇子をじっと見つめる。


「さあ、皇子。覚悟はよろしいですかな。これからあなたには我らのため、生贄になってもらいますぞ」


 司祭長は嗜虐心むき出しの口調で、いたぶるように皇子に死を宣告する。


 司祭長としては、1国の皇子が最後に死の恐怖で泣き出すさまを見たいという思いからそういうことをしたのだが、司祭長の意に反して、皇子は泣き叫んだりはしなかった。

 逆に力強く鋭い視線で司祭長を睨み返して言う。


「この人面獣心の狂信者どもが!すべてがそなたらの思い通りになどど決してなると思うなよ。そなたらに非道な行いに対して必ず天罰が下るであろう」

「ほう」


 皇子の発言を聞き、司祭長が驚いた顔になる。


「もっと無様に泣き崩れるかと思っていたが……さすがは次期皇王というべきか。肝が据わっておりますな。あのつまらない大臣よりもはるかに為政者として優れておりますな」

「口を慎むがよい。私はすべてをお見通しだぞ。その大臣もどうせそなたらと手を組んでいるのであろう。大臣と手を組み、私を殺して皇王の地位を奪い、国を支配するつもりなのだろう。そなたたちの魂胆などわかっておるぞ」

「そこまでわかっておいでか。幼い割にはなかなか賢いではないか。大したものだ。だが、わかっていようがいまいが関係のない話だ。お前は今から死ぬのだからな」


 その時、日食が進み、ちょうど太陽がほとんど見えなくなった。

 死刑執行の時間だった。


「さあ、今こそ時は来た。お覚悟を!」


 司祭長はナイフを振りかざし、皇子の心臓を一突きにしようとした。

 その時だった。


「『風刃』」


 上空から一陣の真空の刃が司祭長の腕めがけて降り注いだ。


 ピュッ。


 真空の刃はすさまじい速度で降下してくると、司祭長の腕を斬り飛ばした。


「ぐぎゃあああああ」


 腕を斬り飛ばされた司祭長は絶叫を上げ、その場にうずくまった。


「間にあったな」


 司祭長が戦闘力を喪失したのを確認した司祭長の腕を斬り飛ばした連中が、司祭長と皇子の間に入ってくる。


「くそ、殺せ!」

 何者かの侵入を確認した司祭長の部下が何者かに対して攻撃を命令する。


「『風刃』」

「『火矢』」


 何者かに対して魔法が次々と放たれる。


「『防御結界』」


 だが、それらは防御魔法に阻まれてすべて雲散霧消する。


 ここで初手の不意打ちから立ち上がった司祭長がようやく立ち上がり、何者かを睨み、大声で叫ぶ。


「うぬらは何者だ」


 それを聞いて奇襲してきた連中のリーダーらしい若い男が不敵な笑みを浮かべる。


「俺たちはお前たちに天罰を運んできた者だ。さあ、覚悟しろ!」


 そう言うと若い男はゆっくりと剣を抜き、司祭長たちと対峙するのであった。


★★★


 日食が始まった。


「エリカ、『姿隠し』の魔法を」

「はい、旦那様」


 その時を待っていた俺たちは、エリカに魔法をかけてもらうと、一斉に空へと飛び立った。


「おっ、情報通りにナイフで皇子を殺すつもりみたいだな。エリカ、やれ!」

「はい。『風刃』」


 俺の指示でエリカが魔法を放つ。


 魔法は乱れることなく目標へと向かって行き、司祭長の肘から先を斬り飛ばす。

 かつては外れることも多かったエリカの『風刃』の魔法だが、長い研鑽の結果、今では百発百中の精度を誇るようになっていた。


「うぎゃあああ」


 司祭長が絶叫を上げ、その場にうずくまるのを確認すると、俺たちは皇子の壁になるように司祭長と

皇子の間に割って入っていく。

 地面に降り立つと同時に『姿隠し』の魔法を解除し、皇子に話しかける。


「皇子殿下!ご無事ですか」

「うむ、余は無事である。そなたらが父上が派遣してくれた者たちか」

「その通りです。皇子殿下」

「感謝するぞ」

「もったいなきお言葉。では、早速皇子を楔から解き放ちますゆえ、もうしばらく辛抱なさってください。リネットさん、お願いします」

「任せな!」


 俺の指示で、リネットさんが皇子を縛り付けている鎖を次々と破壊していく。

 鎖自体は普通の鉄の鎖だったみたいで、リネットさんの斧の一撃で簡単に壊れて行った。


「殺せ!」


 俺たちを邪魔しようと敵が魔法を放っても来たが。


「『防御結界』」


 ヴィクトリアが最近覚えたばかりの魔法ですべて防ぎ切った。

 この『防御結界』という魔法は、魔法を防ぐ魔法障壁を張る魔法だ。様々な魔法を防げる強力な魔法だが、その分魔力の消耗も激しく、持続時間も短いという欠点も持っている。


 はっきり言うと初心者には扱いきれない呪文だ。

 こういう魔法を使えるようになったのを見ると、ヴィクトリアのやつも少しは成長したのかなと思う。


「ホルスト君、終わったぞ」


 そうこうしているうちにリネットさんが皇子の拘束を解いた。


「それでは、皇子のことは頼みます」


 3人に皇子の安全を任せると、敵の目の前に立った。


「うぬらは何者だ」


 敵の親玉が偉そうにそう聞いていたので、こちらは余裕の表情を見せ、剣を抜きながら答えてやった。


「俺たちはお前たちに天罰を運んできた者だ。さあ、覚悟しろ!」


 それは3日かけて考えた決め台詞だった。


★★★


「さあ、このまま全員この場で討ち死にするか、大人しく捕まって皇都で皇子暗殺未遂犯として裁かれるか、好きな方を選べ。もっとも、裁判を受けても死ぬのは確定だろうけどな」

 決め台詞に続いてそうやって煽ってやると、司祭長は顔を真っ赤にする。

「若造がえらそうに!」

「その若造にも勝てないくせに、どっちが偉そう何だか。まあ、どのみちお前らに待っているのは目的も達成できず、惨めに地獄に行く運命だけだけどな」

「我らが惨めに地獄に行く、だと?」

「そうだろ?だって、お前らこの皆既日食中に皇子を殺さないと鍵の封印を解けないんだろ?皆既日食はあと数分で終わる。つまりお前たちはあと数分で皇子を殺さなければならないわけだが、俺たちが守っている以上それは無理というものだ。まあ、諦めることだな」


 俺の発言を受け、司祭長の顔が青ざめた。ようやく理解してくれたようで何よりだ。

 ついでにこのまま戦意喪失して大人しくお縄についてくれれば面倒くさくなくてよいのだが。


「そこまで知っているとは……。おのれ、こうなったら」


 だが、司祭長はまだ戦意を失っていないようだ。


 敵意をむき出しにしながら、司祭長が懐から棒のようなものを取り出した。

 何かの武器かと思って俺は身構えたが、司祭長はそれで攻撃しては来なかった。

 ただ単に取り出した棒を折っただけであった。


 このおっさんは何がしたいのかとは思ったが、それを皮切りに周りの連中の動きが急にあわただしくなったので、多分総攻撃の合図だったのだろうと思う。

 それはともかく。


「『神強化』」


 強化魔法を使う。

 体に力が満ちてくるのが感じられる。

 いける!


 敵との距離を一気に詰める。

 最初の目標は司祭長だ。


「ぐへ」


 腹に一撃入れてやると、あっさりとその場に倒れる。


 こいつだけは殺さない。

 後で色々聞かないといけないからな。


 次に狙うのは魔法使いだ。30人くらいいるだろう。もちろん全員始末するつもりだ。


 魔力探知を使い、魔力の高い奴から狙っていく。

 と言ってもせいぜい中級くらいの魔法使いしかいない。


 おまけにリーダーの司祭長が倒れたので、ろくに連携も取れておらず、バラバラに攻撃してくるだけだ。

 はっきり言って俺の敵ではない。

 2,3分で全員切り伏せてやった。


 残ったのは100名にも満たない前衛部隊だけだが、こいつらも大した実力はなさそうだった。


 というか、本当に前衛部隊なのか?


 剣を持っているだけでろくに構えられていないのも多いし、明らかに文官にしか見えないのが混じっている。

 おまけに俺がちょっとじろっと睨んだだけで逃げ出す者までいる始末だ。


 もちろん、逃がすつもりはないよ。こいつらにはどのみち、悲惨な末路しか待っていない。

 それならばここで楽にしてやるのがせめてもの情けというものだ。


「『天火』」


 とりあえず逃げ出した連連中を魔法で昇天させてやると、剣を構え、残りの連中に突っ込んでいった。


 五分後。敵部隊は全滅した。


 空を見上げると、既に皆既日食は終わり、太陽が再び輝き始めていた。


 これで仕事は半分終わりか。あとはヤマタノオロチをどうにかするだけ。司祭長をたたき起こして居場所を聞き出すとするか。


 そう思い、俺は司祭長に近づいて行った。だが。


「ふははは、ずいぶんと時間がかかったではないか、小僧」


 倒れているものとばかり思っていた司祭長はすでに意識を取り戻しその場に座り込み、高笑いしていた。


「おっさん、しぶといなあ。だが、もう終わりだよ。色々聞かせてもらうぞ」

「ふはははは、本当にそう思うか、小僧」


 だが、司祭長はふてぶてしい態度を崩さず、高笑いを続けながら言う。


「小僧、よくもやってくれたな。こうなったら、うぬらも道連れにしてくれる。おいでませ!ヤマタノオロチ」


 司祭長がそう叫ぶと同時に周囲の山が揺れ始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ