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第46話~皇子様と狐少女~

 俺たちは『対ヤマタノオロチ』アンド『皇子救出』について作戦を考えることにした。


 とはいえ、これが中々難しい。

 邪悪な力に支配され暴れまわる神獣にどう対処すればいいか。

 はっきり言って、いいアイデアが浮かんでこなかった。


 そして、しばらく考え込んだ後にふと気付く。


 うん?『邪悪に支配され、暴れまわる神獣』?このシチュエーション、最近どこかであったような。

 ……そうか!『海の主』だ。これって、もしかしてあの時と同じことが起こっているのではないか。


 そのことに気が付いた俺は自分の考えを口にする。


「みんな、聞いてくれ。今回『ヤマタノオロチ』が暴れた原因がわかったぞ」

「本当ですか?旦那様」

「ああ、そうだ。今回の件、海の主の時と同じことが起こっていると、俺は考えている」

「海の主の時というと……たしか食事に邪悪な魔石を混ぜられて……あっ。そういうことか、ホルスト君」

「そういうことです。リネットさん」

「そのことに気が付くなんて……さすがはホルストさんです!ご褒美に頭ナデナデしてあげましょうか?」

「それは別にいい」

「うう」


 俺にナデナデを拒否されたヴィクトリアは残念そうに顔をプクッとさせる。

 お前そんなに人の頭を撫でたかったのか。ここには白狐がいるんだぞ。恥ずかしいじゃないか。


 『ヤマタノオロチ』が暴れている原因がわかり、はしゃぐ俺たちに対して。


「ちょっと、皆様。自分たちだけではしゃいじゃって。私にもわかるように説明してくださいよ」


 一人蚊帳の外の白狐が説明を要求してきた。

 なので説明してやる。


「俺たちだけではしゃいで悪かったな。許してくれ」

「いえ、別に謝ってもらうようなことではございません。それよりも」

「うん。それでは、俺たちが経験したことを手短に説明するぞ」


 俺は白狐に旅の途中で起こった出来事を話してやった。


 正気を失った海の主との出会い。

 海の主が正気を失った原因が邪悪な魔石だったこと。

 そして、海の主から魔石を取り出してやって、元に戻してやったこと。

 今回の『ヤマタノオロチ』も同じ原因である可能性が高いこと。

 ゆえに魔石さえ取り出せば元に戻るだろうこと。


 それらを手短に話してやった。


 俺が話してやっている間中、白狐はうんうんと頷き、真剣に話を聞いていた。

 そして、俺の話が終わると、涙を流しながら土下座するのだった。


「この白狐。皆様のお話を聞き、感服いたしました。まさか、皆様がそこまですごい方だったとは存じ上げませんでした。皆様のお話を聞いて、絶望の中に一筋の光明を見た気がします。ここは、改めて皆様に敬意を表させていただきます」


 そう言うと、白狐は一度座り直し、深々と土下座した。


「どうか、『ヤマタノオロチ』をお救いください」


 さすがにこう何度も土下座されるとこちらの方が恐縮してしまった。

 手を振り、もういいよと合図して土下座を止めさせて、話を続けることにする。


「『ヤマタノオロチ』については原因もわかったことだし、こちらの方は何とか対処方法を練ることができそうだが、問題は皇子様の方だな。そちらの方は何か手掛かりはないのか」

「ご安心ください。そちらに関しましてはすでに私の手の者を送り込んでおります。その者に任せておけば有力な情報を得られると思います」

「手の者?」

「はい。私の娘にございます。まだ『九尾の狐』には慣れておりませぬが、中々の力を持っております。特に化けるのが上手で、虫や小動物と色々と化けられます。きっと皆さまのお役に立てると思います」

「そうか。それでは、具体的な作戦は情報待ちということか。それじゃあ、しばらくの間は休息して、次の段階に備えるとするか」


 こうして俺たちは情報が入ってから具体的な作戦を立てることにして、それまでの間休息することにした。


★★★


 『火の山』中心部から少し外れた場所に洞窟が一つある。


 そこのすぐそばに建物が一軒ある。

 この国では珍しく石造りの建物であり、城砦のようにしっかりとした造りになっていた。

 ちなみに、この火の山には良質の石切り場があり、この建物に使われている石材はそこから運んできたものだ。


 その建物の中。入口から大分奥の方に牢屋があった。

 牢屋の入り口は頑丈な鉄格子で封鎖されており、屈強な大人でもこれを破壊して逃げるのは不可能であった。


 牢屋の壁の高い位置には小さな窓があり、ここが牢屋から外界を覗き見れる唯一の場所だ

 もちろんここにも鉄格子が嵌められているので、ここから逃げ出すのは不可能だ。

 そもそも窓は通風孔用でとても小さく、人が通るのはそもそも無理なのであるが。


 今現在、この牢屋には少年が一人閉じ込められている。


 フソウ皇国の皇子アキラである。


 皇位継承権第1位を持ち、次の皇王と目されているがまだ皇太子ではない。

 まだ「立太子の儀」を行っておらず、正式な跡取りではないからだ。


 ここに連れてこられて以来、アキラ皇子はずっと塞ぎ込んでいる。

 自分を愛してくれている両親と引き離され、両親が付けてくれた幼馴染たちとも交流を絶たれた。

 一人ぼっちになり、寂しくて寂しくて堪らなかった。

 だから、何をする気にもなれず、牢屋の隅で膝を抱えて座り込み、ただじっとするのみである。

 たまに食事が運ばれてきても食欲が湧かず、生きるのに必要な最小限だけしか食べず、ほとんど残していた。


 ただ、それは3日前までの話だ。


「こんばんは。またお会いできましたね。皇子様」


 アキラ皇子の目の前に一人の少女が現れた。


「こんばんは。白狐ちゃん。よく来てくれたね」


 少女の顔を見て皇子がにっこりと笑う。


 アキラ皇子の言葉通り、少女は普通の人間ではない。

 白髪赤目なのはまあいいとして、ふさふさの耳と尻尾が生えている。

 これが噂に聞く南方の国に住むという獣人かとも思ったが、本人は自分の正体は白い狐で人間に化けているのだという。


 ただ、皇子にとってそんなことはどうでもよかった。

 一人ぼっちの自分に話し相手ができた。それだけで十分だった。


 ちなみに、この狐少女の姿は皇子にしか見えていないし、声も皇子にしか聞こえていない。

 この狐少女にとってその程度は些事でしかなかった。


 だから、牢番が二人の会話を聞いても、とうとう皇子が狂って独り言をつぶやくようになったとしか思っておらず、上司に報告すらしていなかった。


「皇子様、今日は大事なお話があります」

「何だい?」

「実は、ここの連中が皇子様を殺そうとしています」

「そうか」


 自分が殺されようとしていると聞いても、皇子は顔色一つ変えなかった。

 それよりもやはりかという感情の方が顔に出ていた。


「自分が死ぬと聞いても、皇子様は怖がったり泣きさけんだりしないんですね」

「そんなことはない。僕だって死ぬのは怖いと思っているし、本当なら泣き叫びたい。ただ」


 君のようなかわいい女の子の前で泣くなんて男として情けないじゃないか。


 皇子はそう言いたいのをぐっと我慢して、狐少女をじっと見ると、話を続ける。


「ただ、ここに来た時から何となくそうなるんじゃないかとは思っていた。だから、ある程度の覚悟はできているつもりだ」

「皇子様はお強いんですね。カッコいいと思いますよ」

「そうかい?そう言ってくれると嬉しいな。それで、僕はいつ殺されるんだい?」

「2日後の真昼間。ちょうど数十年に一度と言われる皆既日食が起こる日、起こった時にやつらは皇子様を殺すつもりらしいですよ」

「つまり、僕の命はあと2日ということか」


 狐少女は首を横に振る。


「そんなことにはならないと思いますよ」

「なぜだい?」

「それはあなたのお父様がとてもお強い方々にあなたの救出を依頼しているからです。それにその方々には、あたしのお母様も協力しています。だから必ず助け出してくれると思います」

「へえ、そんなに強い人たちなのかい?」

「お強いですよ。何せ、この国の海を守る海の主様とも互角に戦える方々です。ここの連中など相手にもなりません」

「海の主?」


 その単語が何のことか一瞬皇子はわからなかったが、すぐに思い出すと、ポンと手をたたく。


「海の主と言えば、伝説の神獣じゃないか。そんなのと戦える人だなんて。父上はすごい人を雇ってくれたんだね」

「そのとおりです。だから、皇子様も気を落とさず頑張ってくださいね」

「ああ」


 狐少女の言葉に皇子は力強く頷いた。


「それでは、堅苦しい話はこれくらいにして、後はいつものように楽しいお話でもしましょうか。実は今日ですね。あたし、そのお強い方の所へ行って海竜と戦った時のお話を聞いてきました。今日はそのお話でもしましょうか」

「それは楽しみだな。ぜひお願いするよ」


 こうして牢屋での長い夜は過ぎていくのであった。


★★★


 一方その頃。


 同じ建物の別室では、この怪しげな集団の幹部会が開かれていた。

 全員神官服のような服を身に着け仮面を被っている。

 何とも不気味な連中であった。


「司祭長、いよいよあと二日ですな」


 幹部の一人が上座に座る初老の男に声をかける。


「うむ。これもみなの貢献のおかげである。感謝するぞ」


 幹部の言葉を受けて司祭長が謝意を述べる。


「しかし、皇国の始祖とやらも面倒なことをしてくれますな。『血封印ブラッドシーリング』ですか。厄介な封印ですな」

「ふむ。血封印を解くには、皇王が直接封印を解くか、直系の皇族の血が必要だとはな。しかも、その血は皆既日食の時に手に入れなければならないとか、条件が厳しすぎるからな。だから皇子を攫ったわけだが、うまくいってよかったのである」

「まあ、普通に考えて皇王がカギを引き渡すとは思えませんからね。だから、皇子を攫って正解ですな。しかし、大臣は役に立ってくれましたな」

「ああ、彼が手引きしてくれなかったら、転移陣を仕掛けることができず、皇子を攫うことができなかったからな」

「これで彼が皇王になることができたら、我々にも更に益がもたらされるだろう」

「全くその通りです」

「それではこれからも我らの悲願達成のために全力を尽くそうではないか」

「ははっ」


 こうして会議は終了した。


 ちなみに、この会議室の隅には白狐の部下である1匹の虫がいて会議の内容が逐一ホルストたちに報告されたりしているのだが、無論、ここの連中はそんなことは知らなかった。

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