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第44話~火の山 その広大な山の中で出会ったのは……~

「旦那様、本当にここは暑いですね」

「本当です。さっきから喉が渇いて、堪らないです」

「汗がすさまじく出るな。鎧の下は汗だくだよ」


 火山地帯なのだからだろう。本当に、ここ『火の山』と呼ばれるフソウ皇国の聖地は暑かった。


 エリカとヴィクトリアは普段髪の毛をそのまま下した髪型にしているのだが、ここではそれでは暑いのか、それぞれ髪型をツインテールとポニーテールにしてすっきりとまとめていた。

 普段の髪を下ろした姿も女の子らしくてかわいいと思うが、これはこれでよかった。


 水も先程から全員がひっきりなしに飲んでいる。

 水筒が何度も空になり、その度にエリカの魔法で補充してもらっている。


 皇都で皇王陛下と謁見してから数日後。


 俺たちは皇子殿下が目撃されたという『火の山』へと来ていた。

 火の山は女神アリスタの神獣が棲むというこの国の聖地である。

 禁忌の地とされており、一般人は立ち入り禁止の場所である。


 ただ、人の手が入らない割には自然豊かな地というわけでもない。

 というのもここは火山地帯で、有毒ガスが発生したりするような場所も多く、生物が気軽に生きていける場所でもないからだ。


「それにしても、あの大臣はムカつく奴でしたね。今思い出してもイライラします」


 暑さのせいでむしゃくしゃしているからなのだろう。

 今更ながらヴィクトリアがあの大臣について思い出して怒っている。


「ヴィクトリアさん、落ち着きなさい。そんなにイライラしてもしょうがないでしょう。まあ、あの方が気に食わないのは、私も同意見ですが」

「本当です。なんであの人、あんなに偉そうなんですかね」

「なんでも、ああ見えて、皇族らしいよ。しかも最有力の。だから、あそこまで偉そうなんじゃないかな」


 皇族。要は皇王陛下の親戚ということだ。

 ギルドマスターのタカノリさんに聞いた話だと、大臣の家は大公家らしく、この国の貴族の中でも一番の家柄なのだそうだ。


「しかも皇位継承順位は皇子殿下に次ぐという話だ。偉そうなわけだ。もし、皇子殿下に何かあって、あの大臣が皇王になったりしたら、この国の将来は暗いだろうね」

「私もリネットさんの意見には賛成ですね。あんなのが自分の国の王だったらと想像すると、ゾッとしますね」

「エリカさんの言う通りです。ワタクシだったら、あれが王様だったらさっさと国から逃げ出しますね」


 あの大臣、うちの女性陣にはすこぶる評判が悪かった。


 醜悪な外見、粗野な言葉使い、傲岸不遜な態度。何一つ女性受けする要素がないのだから当然だった。

 というか、男受けする要素もない。

 俺だって、あれと友達になりたくないし、関わりたくない。


 顔だってできれば二度と拝みたくなかった。


「皇子誘拐の犯人って、あいつじゃないんですか」


 ヴィクトリアがそんなことを呟く。


 確かにその線はあると思う。

 皇子さえいなくなればあいつに皇王の座が回ってくる可能性が高いわけだし、動機としては十分にあり得た。

 そうなると、大臣が俺たちの依頼を邪魔しようとしたのも皇子を見つけさせないためではと思えてしまう。


 ただ、それだとひとつ気になる点がある。


「『アルキメデスの鍵』だっけ?そんな物、どうするつもりなんだ。持っていても厄介なだけだろうに」


 大臣犯人説をとる場合、この点だけが不可解であった。

 そんな物、普通の人間が持っていても何の役にも立たないからだ。


「どっかのミステリー小説だと、『真犯人は一番利益を得た人物』で決まりなんですけどね」

「ヴィクトリアさん、またよくわからないことを言って」


 ヴィクトリアの『ミステリー小説』という単語に反応してエリカが呆れたように言う。

 こいつは以前から時々俺たちにはよくわからないことを言う。

 いい加減にしてほしいとも思うが、これがヴィクトリアなのだと思うとかわいくもある。


「まあ、犯人の詮索は官憲にでも任せるとして、アタシたちは皇子殿下の捜索に全力を尽くそうじゃないか」


 そうだった。俺たちは皇子捜索の仕事中だった。

 リネットさんに促された俺たちは、火の山の奥へと進んで行くのであった。


★★★


 それから数時間後。


 俺たちは火の山の中をさまよっていた。


「もう、いい加減にしてほしいです!」


 暑さのせいで更にイライラが募ったヴィクトリアが騒ぎ始める。

 俺もその気持ちはわかる。


 そもそもこういう事態になることは予想できていた。

 一応、俺たちは皇子の目撃情報をもとにここへきているが、火の山のどこら辺にいるとか具体的な情報は一切持っていなかった。


 実質ノーヒントだ。


 だからできることとしては、火の山をくまなく探し、何か変わったことがないか探索するくらいのことしかなかった。


 ちなみに今回、パトリックは連れてきていない。

 この辺りには道らしい道がなく、馬車を走らせるのが困難だからだ。

 だから近くの町のギルドに預けてきている。


 こういう場合、普通だと見も知らない人間の馬車など中々預かってくれないものなのだが。


「タカノリ様のご紹介ですか」


 タカノリさんの紹介状を見せたらすぐに預かってくれた。

 さすが皇都のギルドマスターである。顔が広くて助かる。


 それは置いておくとして、というわけで今回は歩きでの探索である。


「旦那様、ここは歩いて探すには広すぎですね」


 エリカの言う通りだった。

 ここは人一人を見つけるには広すぎた。


「ここは皇都の何倍もの面積があるそうですよ」

「その上、起伏が激しくて気候も悪いから、その何倍もの広さに感じるだろうね。これはお手上げだね」


 本当最悪の場所だった。


「しかし、それでも依頼として受けた以上頑張らなければな」


 改めて俺たちは探索を再開する。


「ホルストさん。あんなところに泉がありますよ」


 そしてしばらく歩くと、ヴィクトリアが大きな泉を見つけた。


「ここは涼しそうですね。ここで少し休んでから行きましょう」


 いい加減暑いのに辟易しているのだろう。泉を見つけるなりヴィクトリアがそうせがんできた。


「お待ちなさい。ヴィクトリアさん。休むのには私も賛成ですが、その前に魔法で調べてからですよ」


 はしゃぐヴィクトリアにエリカが待ったをかけた。


 何せこの辺りには有毒ガスが噴き出る場所も多いと聞く。

 見た感じきれいな泉であるが、毒に汚染されていないという保証はない。

 はしゃぎたいという気持ちはわかるがここは慎重に行動すべきである。


「どうっやら、問題ないようです。毒などは検知できませんでした。飲んでも大丈夫ですよ」

「わーい」


 エリカのお許しが出たので、早速ヴィクトリアが大声を上げながら手を泉に突っ込んでいる。


「冷たくて、気持ちいいです」


 泉に手を入れたヴィクトリアが恍惚の表情を浮かべる。心底幸せそうだ。


「どれどれ。それじゃあ、俺も」

「私も」

「アタシも」


 ヴィクトリアが気持ちよさげなのを見て、残りの3人も泉に手を入れる。


「これは、……いいな!」

「素晴らしいです」

「最高だな」


 3人が3人とも歓喜の声を上げる。

 こんな暑い場所でこんな最高の場所を見つけられるだなんて本当にラッキーだった。


 しばらくはそのまま泉に手をつけていたが、やがて体の温度が下がって落ち着いてくると、泉のすぐ側にある大きな木の陰に移動した。


 移動すると4人全員木にもたれかかった。

 疲弊しきった体には体を支えてくれる木は非常にありがたかった。

 ちょうど泉の方から涼しげな風が吹いてくるのも心地よかった。

 休憩するのにはちょうど良い場所である。


「結界石を使いますね」


 もちろん、危険な場所なのは変わらないので、結界石も使って魔物の襲撃への備えも怠らない。

 さらに俺は立ち上がると、周囲をぐるりと回って脅威の有無を確認し、その上で警鈴も設置しておく。

 これで準備万端だ。


 それら準備を整えた上で、熟睡とまではいかないが、全員が目を閉じしばしの休憩を楽しんだ。


 そのうちに体力が大分回復してくると、ヴィクトリアがこんなことを言い出した。


「何だか、お腹すいちゃいましたね。ここらでおやつでも食べませんか」

「それはいいな。俺も腹が減った」

「そうですね。私も何か食べたいですね」

「アタシもお腹が空いて堪らないかな」


 ということで、急遽おやつタイムとなった。


「それでは、ヴィクトリアさん。おやつを出してください」

「はい、は~い。承りました」


 エリカの指示でヴィクトリアが張り切りながら収納リングからおやつを取り出す。


「今日のおやつはクッキーとアイスティーです」


 ヴィクトリアの収納リングの中では時間が経過しない。

 だから、アイスティーはまだキンキンに冷えていていかにもおいしそうだった。


 ただ、ここは暑い火山地帯。

 多少涼しい場所にいるとはいえ、このままではすぐにぬるくなってしまう。


 俺は自分のマジックバッグから小さなたらいを取り出す。


「『天凍』」


 そしてそこに魔法で氷を作り入れた。更に。


「エリカ、頼む」

「はい、畏まりました、旦那様。『水球生成』」


 そこにエリカに水を入れてもらう。

 これで即席の冷却器の完成だ。


 この中にお茶の入ったポットを入れる。これでお茶がぬるくなる心配は無くなったわけだ。

 こうして楽しいおやつタイムがスタートした。


★★★


「やっぱり疲れた体には甘いものが一番ですね」


 おやつタイムが始まると早速ヴィクトリアがクッキーをがつがつ食べ始めた。

 これ自体はいつもの光景だが、今日ちょっとだけ違うのは他の3人もヴィクトリアに負けず劣らずがつがつ食べているという点だ。


 酷暑の中を歩いたせいで体力をかなり消耗したからなのだろう。

 いくらでも食べることができた。


「次、出しますね」


 クッキーの箱が空になるたびにヴィクトリアが収納リングから次のクッキーを取り出すのだが、それでも、本当に食べても食べても腹が膨れなかった。


「ふう、食ったな」


 全員の胃袋が満足する頃にはクッキーの箱が5つとアイスティーの入ったポットが3つ空になっていた。


「さすがにちょっと食べすぎましたね。少しみんなで横になりましょうか」


 お腹がいっぱいになった俺たちは食休みということで、再び木にもたれかかった。

 少し休んだ後、再び探索に戻る予定だ。


 そして、これから全員で目をつぶろうかという時。

 カサ、カサ。

 泉の側の草むらで物音がした。


 俺たち全員ハッとした顔になり、すぐに立ち上がり、武器を手に取る。


 一応結界石がまだ有効なはずなので邪悪な魔物たちはこちらへ近づけないはずだが、油断は禁物だ。

 全員、五感を総動員して事態に備えている。


「コーン」


 何かが草むらから飛び出してきた。


 全員、一斉に身構える。


 だが、その何かは、俺たちの予想に反して、俺たちの方へ襲い掛かってくることはなく、その場でじっとしているだけであった。


 そのうちに何かの正体に気づいたヴィクトリアが声を上げた。


「あ、狐さんだ」


 何かの正体は白い狐であった。

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