第41話~魔物の砦を攻略せよ!~
夜明け前。
夜の闇が一番深いとされる時間だ。
ついでに生物が一番深く眠っている時間でもある。
ここの砦もその例外に漏れない。
上空から砦の様子をうかがうと、要所要所にかがり火がたかれ、見張り役の魔物が巡回しているのが見える。
「あれは、ゴブリンウォーリアですね」
ゴブリンウォーリアはゴブリンの上位種である。
昼間偵察した時には、他にもゴブリンメイジ、ゴブリンアーチャーなどの姿も確認している。
「上級のゴブリンを中心とした魔物の部隊か」
もちろん上級のゴブリンだけでは数が足りないのだろう。普通の雑魚ゴブリンやオークなんかの姿もある。
「普通に戦ったら簡単には勝てないだろうね」
とは、リネットさんの意見だ。
俺もその意見に賛成だ。
だからこそ昼間準備をしたうえで、夜中に攻撃を仕掛けるのだから。
「いくぞ」
俺は『天火』の魔法を唱える。+1になったことでより強力な威力の魔法を放てるようになっている。
巨大な火球が目の前に出現する。
これを分割して放つ。
目標は昼間仕掛けを施した所。
「行け!」
俺の命令とともに炎が放たれる。
★★★
爆弾石。
それが今回の仕掛けの正体だ。
爆弾石は数日前の花火の原料に使われている鉱物で、強い衝撃を与えたり、火をつけたりすると爆発する取扱注意の物質だ。
俺はこれを大量に仕入れてきて、昼間こっそりと建物に仕掛けておいたのである。
ドゴオオオン。
俺の放った炎が建物に次々に命中していく。
そこは+1となった『天火』の魔法。
建物に命中すると同時に巨大な火柱となり、建物を覆うように燃え広がる。
さらに数瞬後。
ドンッ、ドンッ。
爆発が立て続けに起こり、建物が跡形もなく吹き飛んでいく。
炎が爆弾石に引火したのだろう。
兵舎、食糧庫、武器庫と次々に爆発していき、後には小さなクレーターだとがれきの山だけが残された。
多少えぐい話だが、魔物の体の一部がそこら中に散乱しているのも確認できる。
この状況を鑑みるに、建物の中にいた魔物たちはほぼ一掃できたのだろうと推測できた。
それらを見届けた俺たちは魔物たちの司令部と思われる建物の前に降り立つ。
敵の司令部だけをわざわざ残したのは、敵の幹部クラスの生死についてはなるべく確認したかったのと、敵の総大将の首級をあげたかったからだ。
その方が賞金を多くもらえるし、俺たちの名もあげられるからだ。
この旅で結構お金を使っちゃっているから、今後のためにも稼げるときにはなるべく稼いでおきたいからな。
司令部からは魔物軍団の幹部と思われる連中が慌てて出てきて、状況を確認しようとしている。
「俺は右から行きますから、リネットさんは左から行ってください。そしてエリカは俺たちを魔法で援護。ヴィクトリアは防御魔法でエリカを守ってくれ」
「心得た」
「はい.。畏まりました」
「ラジャーです」
地面に降り立った俺は仲間に手早く指示を出し、幹部連中の掃討にかかる。
「『神強化』」
自分に魔法をかけて戦いに備える。
「来た」
最初に出てきたのはゴブリンウォーリアだった。
普通のゴブリンより体がでかく、生意気にも金属鎧で武装している。
多分見た感じで鋼の鎧だと推察できた。
だが、俺は気にせず、鎧ごとぶった切っていく。
何せ俺の『神強化』をかけた武器ならば鉄より硬いとされるドラゴンの皮膚でさえ切り裂けるのだ。
今更この程度の武装をされたところでどうということはない。
ズバッ、ズバッ。
10体ほど切り捨てたところで、周りの戦況を確認してみる。
「うおりゃ」
横の方ではリネットさんが敵の部隊を叩き潰していた。
今リネットさんが使っている武器は、両手持ちの大斧で、これを力任せに兜や鎧の上から振り下ろすのだ。
文字通り相手を叩き潰すような戦いをしていた。
別に彼女自身剣などが使えないわけではないのだが、それは俺との訓練でも実証済みである、ドワーフの血を引き膂力が普通の人間よりも強い彼女には、重いが頑丈な鎧を身にまとい、力を生かした攻撃を繰り出すこの戦い方が一番合っているのだそうだ。
と、本人が言っていた。
まあ、彼女らしいと思う。
そうやって俺とリネットさんが前衛の敵を相手にしている間、エリカとヴィクトリアは敵の前衛の後ろに隠れてこちらを攻撃してくる相手に対応していた。
「エリカさん、あいつがこっちを狙ってます」
「『風刃』」
ヴィクトリアは防御魔法を展開しつつ、敵の動きを観察し、エリカに指示を出していた。
建物の奥は暗く見えづらかったのでそう役割を分担したのだった。
エリカの魔法で建物の奥に構えていた連中が次々に倒れていく。
弓を構えていたゴブリンアーチャーが弓ごと切断され、魔法を唱えようとしたゴブリンメイジの首が飛ぶ。
そして、後衛からの支援が無くなったことを確認した俺とリネットさんがさらに踏み込んでいく。
その繰り返しで、どんどん建物の奥へと進んでいく。
30分後。
俺たちは2階の大きな扉の前に立っていた。
★★★
「ここが総大将の部屋だな」
「多分、そうですね。すごく派手な扉なので間違いないと思います」
件の部屋の扉は大きくて派手であった。
金や宝石で装飾されていてとにかく目立つのだ。
「成金みたいで趣味が悪いですね」
「同感だ」
ここの扉はヴィクトリアとリネットさんにも不評だった。
俺も品がないと思う。
まあ、目印としてはわかりやすいので侵入する側としては好都合だった。
「では、行くか」
俺は扉を開けようと手をかけた。
「旦那様、少しお待ちください」
扉を開けようとした俺にエリカが待ったをかける。
「私の探知魔法に引っ掛かりました。中で敵が待ち構えているみたいです」
成程、部屋の中で待ち伏せして扉を開けて中へ入ってから襲い掛かってくるつもりというわけか。
さて、どうすべきか。
俺はしばし考え、結論を出す。
「魔法で吹き飛ばそう」
この司令部のある建物は司令部だけあって立派で頑丈だ。
何せ他が木造なのに対してここだけ石造りなのだ。
「威力を弱めにして爆発魔法を使えば建物が崩壊するようなことも無いだろう」
そう判断する。
やると決めた以上、善は急げである。
早速手に魔力を集中させる。
「『天爆』」
そして扉めがけて魔法を放つ。
ドガーン。
凄まじい轟音とともに扉が吹き飛び、部屋の中から阿鼻叫喚の声が聞こえてきた。
★★★
部屋の中へ入ると中は粉塵と魔物の死体で溢れていた。
普通の一般人なら思わず目を背けてしまうような光景である。
最もそんなことで動揺する俺たちではない。
こういうのは北部砦でもさんざん見た光景であり、今更だからだ。
無視して奥へ進む。
奥へ進むと大きくて立派な椅子が置いてあり、そこには1匹の魔物が座っていた。
金銀で刺繡された衣服に派手な冠をかぶっており、一目でここのボスだとわかる風体をしていた。
「ゴブリンキングですね。旦那様」
「そのようだな」
ゴブリンキング。
ゴブリンの集団を率いるリーダーゴブリンのことである。
一口にゴブリンキングと言っても色々らしく、普通のゴブリンに毛の生えた程度のやつでもゴブリンキング扱いされることがあるらしい。
まあ、ここのゴブリンキングはゴブリンキングの中でも比較的上位の存在ということなのだろう。
むしろ狩り甲斐があるというものだ。
「オマエタチハ、ナニモノダ」
俺たちがそんな風に相手をうかがっていると、向こうから話しかけてきた。
「ワガセイキョウナルグンダンヲコウモカンタンニイッシュウスルナド、カンガエラレヌ」
「考えられぬもくそもないだろうが。それが現実なんだから。単にお前の軍勢が思っていたよりも弱かっただけの話だ」
「オノレ、ナマイキナ。ゼイジャクナニンゲンノブンザイデ」
「脆弱って……その脆弱な人間にやられるお前たちの方が脆弱じゃないのか」
「クチノヘラヌヤツメ」
「それはこっちのセリフだ。悔しかったらかかって来いよ」
「イワセテオケバ」
俺の挑発に乗ったゴブリンキングが壁にかけてあった剣を抜いて襲い掛かってきた。
刀身が銀色に輝く剣だった。多分俺のと同じミスリル製の剣である。
だが、質はそれほど良くないみたいだ。
キン、キン。
俺と剣をほんの2,3合交えただけで相手の剣にいくらか傷がつき始めている。こちらは無傷なのにもかかわらずだ。
同じ材質なのにここまで武器の性能に差があるということは、作った工匠の差ということなのだろう。
本当、リネットパパに感謝である。
それに剣を交えた瞬間にわかってしまった。
このゴブリンキングは大したことはないと。
別に俺はこのゴブリンキングを評価していないわけではない。
何回か冒険者の討伐隊を撃退していることからもわかるように、こいつは指揮官としてはそれなりに優秀なのだと思う。
だが、それと個人の武芸の腕は別だ。
俺はあっという間にゴブリンキングを壁際まで追い詰めた。
「コンナハズハ」
「一思いに始末してやるから、覚悟しろ」
そう言うと、俺は苦しまなくて済むようにゴブリンキングの喉を一突きにしてやった。
ゴブリンキングの首から大量の血が噴き出し、ゴブリンキングは絶命した。
★★★
ゴブリンキングを討伐した後はほとんど流れ作業であった。
「ギルドへの証拠提出のために死体を回収しないといけないよ」
そうリネットさんが言うので、まずゴブリンキングの死体を回収する。
その後は司令部の外へ出て残敵の掃討をする。
すでに魔物部隊の統率は崩壊していて、バラバラな状態である。
簡単に各個撃破できた。
もっともすでに砦から脱出して近くの山に潜伏している魔物もいるとは思う。
さすがに4人ではそこまで手が回らないので、それについては帰ってからギルドに討伐隊を出してもらう予定である。
いわゆる、山狩りというやつだ。
もう指揮官がいないのだから、低ランクの冒険者たちでも人数を集めればそう難しくない仕事である。
なのでそちらについては俺たちは放っておくことにする。
俺隊が残敵を倒しつつ、ついでに残った建物を焼却処分しながら砦の中を一周しているうちに夜が明けた。
「大体終わったかな」
「そのようですね、旦那様」
「それじゃあ、帰るとするか」
「賛成です。ワタクシ、疲れて結構眠いです。早く馬車の中で布団にくるまって寝たいです」
「アタシも早く鎧を脱いでゆっくりしたいよ」
「それでは、皆さんの意見が一致したことですし、さっさと帰りましょうか。旦那様」
「異議なし」
これに手俺たちの魔物討伐依頼は完了した。
とりあえず馬車に帰った後は、一休みしてからギルドに報告に行くつもりである。




