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第37話~夏祭りへ行こう~

 ナニワの港町は夏祭りの真っ最中であった。


 通りには屋台が並び、大勢の人々が行きかい、とても賑やかだ。


「しかし、この浴衣というのは、中々いいものだな」


 そんな中、俺たちも人ごみに紛れて神殿に参拝するために歩いていた。


 俺以外の女性陣は浴衣というこの国の伝統装束を着ている。

 何でも祭りとかの時に着る衣装らしい。

 温暖湿潤なこの国の気候ととてもマッチングした服で、大変涼し気で、髪型もアップにしているのとも相まって、3人ともとてもかわいらしかった。


 というか、この国の連中は着物とかいうちょっと変わった風俗をしていて、浴衣もその亜種なのだ。


 ちなみに3人の浴衣は購入したものだ。

 最初はレンタル衣装屋で借りようとしたのだが、レンタル品の中に3人のお気に召すものがなかったようで、結局、レンタル衣装屋の隣のレンタル衣装屋を経営しているという着物屋で買った。


 もちろん、金を出したのは俺だ。

 浴衣を買わせるためにレンタル屋の方にはあまりいいものを置いていないのではとも疑ったが、まあ、3人ともかわいくなったので良しとしよう。

 そんなに高いものでもなかったし、海竜の件ではみんな頑張ってくれたから、そのお礼だと思えば何でもないことだ。


「たこ焼きを1つください」

「あいよ。毎度あり~」


 ヴィクトリアがまた買い食いをしている。

 これで本日5回目だ。


「ヴィクトリアちゃんは食欲旺盛だね」

「そうですか?普通だと思いますよ」

「普通かどうかはともかく、神様にお参りする前にそんなに物を買うのは、お参りに来たのではなく、物を買うのがメインみたいで神様に失礼ですよ」

「大丈夫です。お……、アリスタ様はそんなことくらいで怒ったりはしません」


 なお、アリスタ様とは主神クリントの妻で豊穣の女神だ。今日の祭りはアリスタに豊穣を願う祭りなのであった。


 というか、そのアリスタもお前の関係者なのか。

 気にはなるが本人は言いたくなさそうなので聞かないでおくことにする。


 それはそうとして、一つ気になることがある。


「ところで、そのたこ焼きってうまいのか?なんか、いい匂いがするんだが」

「おいしいですよ。食べてみますか」


 そう言うと、ヴィクトリアはたこ焼きになぜか2本ついている爪楊枝のうちの1本を俺に渡してきた。

 俺はそれを受け取ると、たこ焼きに突き刺し口に運ぶ。


「どれどれ、……これは、うまいな」


 甘辛いソースが柔らかい生地に絡んでとてもおいしかった。


「本当ですか」


 俺の反応を見て、エリカとリネットさんの目が輝きだす。どうやら彼女たちもいい匂いがするので気になっていたみたいだ。


「一つ、もらいますよ。先程から気になって仕方がなかったのです」

「アタシも」


 エリカは俺から、リネットさんはヴィクトリアから、それぞれ爪楊枝を強奪すると、たこ焼きを食べ始めた。


「これは、おいしいですね。この甘辛いソースの味が何とも言えませんね」

「それに、この柔らかくてもちもちした生地が食感もいい」


 二人ともとても満足したようで顔をほっこりとさせる。

 二人はさらにたこ焼きを追加で食べようとしたが。


「ダメですよ!これ以上食べられたらワタクシの分が無くなっちゃいます」


 そこはヴィクトリアも自分の分を死守すべくがっちりとガードするのだった。


「そんなに食べたければ自分で買ってください」

「そうだな。帰りに買うとしようか」

「これは帰りの楽しみが増えましたね」


 これで帰りは買い食いタイムとなることが決まった。


 本当に今から楽しみだ。


★★★


「ここの神殿は変わっているな」


 本当にここの神殿は変わっていた。


 まず木造であるという点が変わっている。ヒッグスタウンでもノースフォートレスでも、神殿と言えば石造りのものだったのに、それがここでは木でできていた。


 それに神殿の入り口には神域の境界を示すため鳥居とかいう奇妙な形をしたものが置かれている。


 拝殿も変だ。

 大抵どこの神殿や教会でも普通は神像を置いて拝むものなのに、ここにはそれがなく、代わりにひも付きの鈴と賽銭箱が置いてあり、人々はその鈴を鳴らし、賽銭を入れ、神に祈るのだ。


「ここでは、神社と呼ぶんですよ」


 ヴィクトリアがそう説明してくれる。


「この国はちょっと変わっているという話は聞いていたが、他とはだいぶ違うね。これは、お父さんやギルドの皆へのいい土産話になるね」

「ここまでの出来事だけで、近所の奥様方との井戸端会議の話題が1か月は持ちますね」


 リネットさんとエリカも俺と似たような感想を抱いた様で、しきりに頷いている。


「何はともあれ、祈る気持ちが大切なのです。さあ、お祈りしましょう」


 ヴィクトリアが真面目な顔でそう言うので、俺たちはお祈りすることにする。


 まず賽銭を入れる。


 相場がよくわからないのでとりあえず銀貨1枚入れておく。

 そこでふと気が付いて周囲を見ると、他の参拝客はみな銅貨を入れていた。

 しまった。入れすぎたかと思ったが、今更返してくれとも言えないので、涼しい顔でやり過ごすことにする。


 まあ、賽銭が多い方が願いが叶いやすい気もするしね。


 賽銭を入れた後は、事前に教わっていたここ流のやり方でお祈りをする。

 2回お辞儀し、2回手をたたくという変わったやり方だ。


 それが終わるとお願いをする。


 何にしようかと迷ったが、エリカに早く子供ができますようにと祈っておいた。

 エリカは早く子供を授かることを望んでいたし、俺も欲しかったからだ。


 エリカも多分俺と同じことをお願いするのだろうが、他の二人は何を願うのだろうか。


 リネットさんなんかはいつも恋人が欲しいとか言っているから、それでもお願いしているのだろうが、ヴィクトリアはどうだろうか。


 まあ、あいつのことだからおいしいものが食べられますようにとかお願いしていそうだ。

 あいつ、食いしん坊だからな。

 というか、そもそも神様が神様にお願いして効果ってあるのか?


 そんなことを考えながらもお祈りを済ませると、最後に1回お辞儀する。


 これで、終わりだ。


「さあ、帰るか」

「「「はい」」」


 俺たちは帰路についた。


★★★


 そして、お待ちかねの買い食いタイムである。


 まず、最初に買ったのはたこ焼きだ。


「やはり、うまいな」

「ですね」


 今度は1人1パック(8個入り)を買って食べる。


「本当最高だったな」

「ですよね」


 みんなあっという間に平らげてしまった。


 というか、ヴィクトリア。さっきも散々食っていたのに腹は大丈夫なのか。


「お祭りの時は胃袋の大きさが普段の倍になるから、へっちゃらです」


 俺の心配をよそに、当の本人はそうのたまうのであった。

 うん、心配してやる必要は皆無だったようだ。


 さて、たこ焼きの次に食したのは。


「焼きそば4つください」

「毎度あり」


 焼きそばである。


 これもおいしかった。

 たこ焼きと似た感じのソースが麺や肉、野菜になじんで素晴らしい味を醸し出している。


「たこ焼きと似たソースなのにこちらの方がちょっと塩辛いですね。これは、家に帰っても食べたい味ですね。何とか麺やソースの作り方や、この鉄板とかいう調理器具を手に入れられないでしょうか」


 焼きそばを食べたエリカなど、家でも焼きそばを作ってみたいようだった。


「いいですね。ぜひ作りましょう」

「アタシもこれは帰って食べたい」


 ヴィクトリアとリネットさんもエリカの提案に賛成のようで、3人で焼きそば屋のおじさんに詳しく聞いたりしている。


 これは帰ってからの楽しみが増えた。

 今から本当に楽しみだ。


 たこ焼きと焼きそばを食べたことで大分お腹が膨れた。ということで次に欲しいのは甘いものだ。


「イチゴ味、レモン味、宇治金時味、メロン味、マンゴー味、どれにしますか。練乳を追加の場合は銅貨一枚追加でいただきます」

「ワタクシはメロンがいいです」

「私はマンゴーがいいですね」

「アタシはこの宇治金時というのに興味があるな」

「俺はイチゴにするか。あとこの練乳というのも気になるからかけてくれ」

「毎度!」


 このかき氷というのは不思議な食べ物だ。


 ただ氷を削っただけのものに甘いシロップをかけただけの食い物なのに、この国の暑い夏によく合う最高のデザートだ。

 好きなシロップを自分で選べるという点も非常によい。


「うまかったな」


 かき氷をぺろりと平らげた後は、屋台で行われている娯楽を楽しむ番だ。


「旦那様、頑張ってください」


 今俺が挑戦しているのは輪投げだ。


 5つの輪を5つの異なる棒に入れる遊びだ。

 全部入れることができると景品として小さなぬいぐるみがもらえるのだ。


 エリカがどうもこれを欲しいらしく、俺が頑張っているというわけだ。

 奥さんにカッコいい所を見せたいしね。


 ただ、これがなかなか難しい。


「くそ、またダメだったか」


 輪のコントロールが難しい上に距離の目測が上手くいかず、思うように棒に入らないのだ。


「よし、やったぞ!」


 ようやく成功したのは7回目の挑戦でだった。


「これがいいです」


 エリカが景品の中から選んだのは小さな白ウサギのぬいぐるみだった。


 目を輝かせ、ぬいぐるみを頬ずりしている姿はとても愛らしかった。

 この光景を見られただけで苦労して取ったかいがあるというものだ。


 そんなエリカを物欲しげに見つめる2つの視線がある。


「エリカさんだけズルいですう」

「いいなあ。アタシも欲しいな」


 ヴィクトリアとリネットさんだった。


「お前たちも欲しいのか?」


 俺がそう聞くと、二人ともコクコクと頷くのであった。


「さて、もうひと頑張りだな」


  二人のためにもぜひぬいぐるみを取ってやらなきゃな。

 そして、できる事なら二人にカッコいいところを見せたい!

 そんな野望を心の中に抱きつつ、俺は再び輪投げに挑戦することになるのであった。


 夏祭りはまだ始まったばかり。

 俺達のささやかな休息はままだ続く。


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