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第22話~エリカの風邪 そして、ヴィクトリアの危機! 伝説の剣を手に入れようと考えたきっかけ前編~

「あわわわわ」


 ヴィクトリアが慌てふためきながら家の中を駆けずり回っている。


 ガチャン。


 皿が割れる音がする。


「ぎゃああ」


 ヴィクトリアの悲鳴が響く。どうやら皿を落としたようだ。


 バタン。


 今度は転んだ。派手に転んで、スカートがめくれ、パンツがちらりと見える。

 純白の清楚な感じのパンツだった。


「あちゃー」


 俺は慌てて両手で目を覆う。まあ、男としての礼儀というやつだ。

 ヴィクトリアが慌ててパンツを隠し、目に涙をためる。


「ふええええん」


 ヴィクトリアが泣き始めたところで俺は席を立つ。


「大丈夫か。手伝ってやろうか」


 ヴィクトリアに声をかけてやる。ヴィクトリアは一瞬喜びに満ちた顔になるが、すぐに顔をブンブンと左右に激しく振り、変な意地を張る。


「ダメです。これはワタクシにとって試練なんです。主婦としてかなえの軽重を問われているのです。だから、ホルストさんに手伝ってもらうわけにはいけません」

「主婦としてのかなえの軽重ねえ」


 誰もお前にそんなものは求めていないけどな。そもそも主婦でもないしな。

 大体そういうセリフは一人前にできる人間が言うからこそ意味があるのだ。

 家事全般落第点のお前が言うべきことではない。


 俺も家事が得意というわけではないが、上級学校で防衛軍の訓練をしただけあって、軍隊生活に必要な簡単な家事のやり方は習っているので多少はできるつもりだ。

 だから要請があれば手伝うつもりだが、こいつは妙なプライドからそれをしない。


 困ったものである。


 そんなくだらないプライドなど捨ててしまえと、本当言ってやりたい。


 さて、今現在、わが家がこんな惨憺たる状況になっているのは、エリカが風邪でダウンしているからだ。

 結構熱があるようで、俺とヴィクトリアが交代で濡れタオルを持って行って冷やしてやっている。


 風邪に効く治癒魔法はない。

 『体力回復』の魔法をかけてやれば多少は楽になったりするのだが、病気が治らない限り

結局また弱ることになり、元の木阿弥である。



「後は頼みます」


 そんなわけでエリカに後を任されたヴィクトリアであったが、ご覧のとおり、結果は惨憺たるものであった。


「できましたよ」


 ヴィクトリアが夕飯を作った。



「今日は病気のエリカさんにも食べてもらえるように、ビッグコッコのスープですよ」


 どうやら今日は鳥のスープらしい。鳥のスープはあっさりとしているので、この国では病人食としてよく作られる。これならば、病人であるエリカにも食べやすいだろう。


「どれどれ」


 俺はヴィクトリアが作ったスープを飲んだ。


「……お前、これ、味見したのか」

「やだなあ。当たり前じゃないですか」


 ヴィクトリアは自信満々に言う。偉く誇らしげな顔だった。


「本当か?じゃあ、食べてみろ」


 ヴィクトリアもスープを飲む。


「ほら、おいし……あれ?辛い?」

「そうだよ。味が濃すぎるんだよ。病人にこんなのを食べさせたら、病気がひどくなるだろうが。俺たちだけならともかく、エリカにこんなのを食わすな。リメイクだ!リメイク!」

「そんなあ。せっかく作ったのに」

「一体何を騒いでいるのですか」


 俺たちが口論をしているとエリカがひょっこりと現れた。


 俺たちと鍋を見比べ、何があったのか察したのだろう。ふーんという顔をしている。

 よく見ると、まだ治っていないのだろう。顔色が蒼い。

 ゴホゴホと、苦しそうに咳もしている。


「エリカ、まだ治ってないのに無理するな」

「そうです、エリカさん。ゆっくり休んでいてください」


 俺たちはエリカに休むように促したが、エリカは聞かない。

 俺たちの横をするりと通り、スープ鍋の所へ行き、一口味見をする。


「うーん」


 飲んだ後渋い顔をするものの、すぐに調味料を2,3足してから、もう一度味見をする。


「うん、これなら大丈夫です」


 そう太鼓判を押す。


「ヴィクトリアさん」

「はい」


 ヴィクトリアが3人分のスープを皿に注ぐ。


「おいしいです」

「うまいな」


 エリカが手を加えたスープはとてもおいしかった。

 あのまずいスープに何をどうしたら、これ程うまいスープになるのだろうと不思議でならなかったが、まあ、それはいい。

 とにかく、俺とヴィクトリアは朝からエリカの世話をしていてまともに食事をとっていなかったので、無我夢中で食った。


「ごちそうさまでした」

「それでは、私は休ませてもらいますね」


 食事が終わると、エリカは部屋に戻っていった。


「ワタクシたちって、もしかして全然ダメですかね」

「ワタクシたちじゃなくて、お前がな」

「そんな!ひどいです!」

「静かにしろ。エリカが休んでいるだろうが」


 ヴィクトリアは慌てて口をつぐんだ。


 やれやれ、本当仕方がない奴だ。しかし。いつまでこの状況が続くんだろう。


 結局、エリカが回復する3日後までこの状態は続くのであった。


★★★


 やっとエリカが回復した。


 ということで今日は快気祝いの飲み会だ。

 いつものギルドの酒場に来て楽しく飲んでいる。


「じゃんじゃん持ってきてくださ~い」


 ヴィクトリアが張り切って注文している。

 どんどん酒や料理を注文し、どんどん胃袋に詰めていく。


「おい、注文するのはいいが、食える分だけにしろよ」

「だい、だい、だ~いじょうぶです」


 顔を赤らめながら全然大丈夫ではないセリフを言う。


 こいつは飲みだしたら潰れるまで止まらないタイプである。

 普通ならそうなる前に止めるのだが、今日はおめでたい席だ。心行くまで飲ませてやろう。そう考えている。

 なので、放っておくことにする。


「エリカは、病み上がりなのにそんなに飲んで大丈夫か」


 一方エリカの方はというと、既にエールをジョッキで5杯と、ワインとリキュールのボトルを2本ずつ空にしている。

 いくらエリカが酒に強いとはいえ、病み上がりでいきなりそんなに飲んで大丈夫なのかと心配になった。


「はい、問題ありません」

「そうか。よかった」


 エリカはものすごく上機嫌で、ニコニコしながらそう答えた。どうやら問題ないようだ。


 そうなると今夜の楽しみができた。

 というのも、酒が入るとエリカは非常に積極的になるのだ。主にベッドの上で。

 普段なら絶対に許してくれないことでも……してくれるはずだ!

 それを思うと。……今から気持ちが高ぶって堪らない。


 俺は少し落ち着こうと、エールをあおった。


 ドン。


 その時、何かがぶつかる音がした。


「痛いです」

「イタタタ」


 ヴィクトリアが青髪の青年とぶつかり、転んでいた。


「その姉ちゃん、あんたの仲間だろ。危ないから通路で変に腕振りながら歌うのはよしてくれ」


 隣で飲んでいた冒険者のおっちゃんにそんなことを言われた。

 どうやら酔いに任せて、オーバーアクションで歌っていて青年にぶつかったらしい。


 本当にこいつは目を離すとやらかしてくれる。


 俺は慌ててそちらに向かった。


「すみません。お怪我はないですか」


 まず、青年を引っ張り起こす。ついでにヴィクトリアも起こす。


「お前は何をしているんだ」

「ごめんなさい」

「俺に謝っても仕方ないだろ。この人にちゃんと謝れ」

「本当にごめんなさい」


 俺はヴィクトリアに頭を下げて丁寧に謝らせたが、青年はそれでは気が済まなかったらしい。


「このくそアマ!」


 青年がいきなりヴィクトリアを殴ろうとしたので、俺が二人の間に入り、ヴィクトリアの代わりに青年に殴られた。


 ドン。ドゴ。


 青年の拳が2発俺の頬に入るが、青年の腕が未熟なせいだろう、青年が顔を真っ赤にしながら全力で殴っているはずなのに大したダメージはない。せいぜい後で青アザでもできるかなという程度で、いつかエリカをかばったときに食らったオークの一撃の方が余程こたえたくらいだ。


 でも、精神的にはむかつく。これをヴィクトリアに当てるつもりだったのだと考えると本当にイラっとする。

 ぶつかって転んだくらいでいきなり女の子の顔を傷つけるつもりで殴ろうとするなんて本当クズだと思う。


 しかし、それでも俺は冷静に対応する。


「これで、そっちは転がされて、こっちは殴られた。もう気が済んだだろ?これでお相子だということにしてくれないか?」


 俺の方が殴られたのが1発多いが、ここで引いてくれるのなら、俺は良しとするつもりだった。

 だが、こちらが下手に出ていることで調子に乗ったのだろう、青年はさらなる要求をしてきた。


「お相子なわけがないだろう。こんなもので済むと思うな」

「ほう。では、何が望みだ」

「そうだな。その女を今晩俺たちに付き合わせろよ。かわいがってやるからよ」


 さすがぶつかったくらいで女の子をボコボコにしようとするクズだ。あろうことか、調子に乗ってヴィクトリアを要求してきやがった。

 多少の要求なら聞き入れてやろうと思っていたが、ヴィクトリアを要求とかありえない。。

 あまりの要求にさすがの俺もキレた。


「断る」


 すごい剣幕で睨みつけてやった。


「ひっ」


 青年は目に見えて動揺した。

 2歩、3歩と後ずさりする。

 そのまま逃げそうな感じもしたが。


「待たせたな」

「おう、待ってたぜ」


 その時、青年の仲間が現れた。仲間が現れたことでどうにかなると思ったのだろう。青年は息を吹き返した。


「こいつの仲間の女が俺を転ばしてきたんだ。それなのに謝りもせずに俺を脅してくるんだ」


 青年はでたらめな嘘を仲間に吹き込む。


 結果的にヴィクトリアは青年を転ばせてしまったがわざとではない。ヴィクトリアにもちゃんと謝らせたし、報復に俺を殴らせてやったし、追加の要求を聞く姿勢を見せてやった。


 こちらとしては精いっぱいの譲歩をしたつもりなのに、こういう嘘を平気でつかれるのは本当にないと思った。


「なに。そいつは大変だ。俺たちがお仕置きをしてやるよ。ぐえへへ」


 下卑た笑顔を浮かべながら、青年の仲間が俺を取り囲む。全部で5人いる。


 皆、青年のでたらめを何の疑問も持たずにうのみにするだけあってアホそうな面構えだ。

 というか、自分の仲間のこととはいえ、事情もよく知らないのに赤の他人にいきなり危害を加えようとするとはどういうつもりだろうか。


 多分、こいつらはこれまで何かトラブルがあった時に、暴力を使って解決してきて、今回もそれが通じると思っているのだろう。


 本当、精神の腐ったやつらだ。


 お仕置きが必要なのはお前らのその根性の方だ。


「どうだ。これで要求を呑む気になったか」


 青年が勝ち誇った顔でそう言ってくるが俺は無視して、手を振って挑発する。


「かかってこい。まとめて相手をしてやるよ」


 俺のヴィクトリアに手を出そうとするやつは許せない!


 ヴィクトリアに手を出されたことに怒った俺は、この青年とついでに仲間に世間というものを教えてやることに決めたのだった。


いよいよ3章スタートです。どうでしょうか?楽しんでいただければ幸いです。


明日も2話投稿です。1話目は10時ごろです。ご期待ください。

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