第20話~北部砦防衛成功! そして、20年~
「シンイショウカンプログラム?リミッター?」
なんだそれは。突然のことに俺は訳が分からなかった。
「もしかして『神意召喚』ですか」
「知っているのか」
「はい」
ヴィクトリアは頷くと説明を始めた。
「『神属性魔法』にはリミッターがかけられています」
「リミッター?」
「はい。ホルストさんは勇者ユキヒトが世界を滅ぼしたのを覚えていますか」
「ああ」
「あの悲劇を繰り返さないよう神々は『神属性魔法』にリミッターをかけたのです。未熟な者が、己の力量以上の力をふるえないように。そのリミッターを外すのが『神意召喚』です」
「そっか。でも、なんで急にそんなものが発動したんだ」
ヴィクトリアは首を横に振る。
「わかりません。ワタクシもよく知らないのです。ただ、『神意召喚』の効果がある今なら、普段使えない魔法を使えるはずです。自分の使える魔法を見てください。この事態を打開する魔法が必ずあるはずです」
俺は自分の頭の中をのぞいた。
『神属性魔法』
『神強化+1』
『天火+1」
『天凍+1」
『天雷+1』
『天爆+1』
なんか全部+1って書いてある。その中から俺は新たに出現したものを選ぶ。
俺は立ち上がって、モンスターたちを見る。どいつもこいつも殺気に満ちていて、いつでも準備オーケーという感じだ。
だが、そんなものを見せられては遠慮する必要はない。
俺は意識を集中する。モンスターたちが吹き飛ぶさまをイメージする。
「『天爆+1』」
★★★
モンスターたちの中心で光が生まれる。
光の中心にいた魔物は苦しむ暇もなく一瞬で蒸発する。
中心にいなかった魔物たちは高熱と爆風にさらされる。
大量の魔物たちが炎に包まれ、焼き尽くされる。
「一発でか」
魔法一発でモンスターの軍団が消滅してしまった。かろうじて生き残った魔物もいたが、その数はわずかだ。
「何事だ」
ワイトさんが現れた。リネットさんもいる。今幹部連中で会議中だったはずだが、異変を察して慌ててきたのだろう。
「こ、これは?」
ワイトさんたちはモンスターたちの惨状を見て絶句した。
「俺がやりました」
「君が?いや、しかし」
ワイトさんは本当かというような顔をしているが、本当なのだから仕方ない。
「疑問に思うのはわかりますが、見ていた人も大勢いますよ。それより、今はすべきことがあるでしょう」
「そうだな。よし、全軍突撃しろ」
やはりワイトさんは優秀だ。よくわかっている。
こうして突撃が敢行された。もちろん俺たちも一緒に突撃した。
★★★
そいつは突然やってきた。
「おのれ、よくもわが軍団を」
なんか負け惜しみを言っている。
「魔物か」
残敵掃討中の兵士たちがそいつに気づく。
そいつは一体だけで現れた。
一体だけなら恐れる必要はない。兵士たちはそう思った。
「かかれ」
兵士たちはそいつに一斉に飛び掛かった。
「笑止!『黒火炎』」
暗黒の炎が兵士たちを飲み込んだ。
★★★
「ぎゃあああ」
悲鳴が聞こえた。
急いでそちらに向かうと、兵士たちが黒い炎に飲み込まれていた。
「なんだ。あいつは」
「旦那様、あれはリッチではありませんか」
「あれが?」
リッチ。アンデッドの王などと呼ばれている魔物である。こんなところにいていい存在ではない。
「ということは、あればモンスター軍団のボス?」
「『わが軍団が』とか、さっきから叫んでいるから間違いないです」
最後に大物が来た。
「エリカ、アンデッドは聖属性と火属性が弱点だったな」
「はい、そうかと」
「よし」
『神強化+1』を剣にかけ、聖属性を付与する。そして。
「『天火+1』」
リッチに魔法を放つ。同時に駆け出す。
「む、『魔法障壁』」
しかし、敵もさるもの。防御魔法を使って魔法を防御する。
まあ、この程度は想定内だ。
十分接近する時間が稼げた。俺は一気にリッチの懐に潜り込むと、剣を振り下ろす。
ズサッ。
片腕を吹き飛ばす。飛ばされた片腕は黒い霧となって消滅する。
「くっ」
リッチが苦悶の表情を浮かべながら俺と距離を取る。だが、その表情にはまだ余裕がある。
「小僧。人間にしてはやるではないか」
「当然だ。お前の軍団をぶっ潰したのも俺だしな」
「ほう、貴様が」
ガハハハ。リッチは大声で高笑いをした。
「なにがおかしい」
「まさか人間にそんなことができるとはな。しばらくぶりに我とまともに戦える奴に出会えた。楽しくてたまらぬわ。これは本気を出さねばなるまい。はあああ」
リッチの体が変化していく。どんどん体が大きくなっていき、最後には全長10mほどの巨大な骸骨の化け物になった。
「さあ、かかってこい。小僧」
「うおおおお」
俺は斬りかかった。足を切断してやろうと全力で振り抜く。
ガコン。
固いもの同士がぶつかった音がした。当然足は斬れなかった。
「その程度か。次はこちらの番だ。くらえ。『黒火炎』」
リッチが無数の黒い炎を飛ばしてくる。
俺はそれをよける。よける。ひたすらよける。よけきれない分は剣で切った。
『神強化+1』で強化された俺にはこの程度造作もない。
100発近くそれを続けると、リッチが焦れた。
「おのれ、ちょこまかと。これでもくらえ」
リッチが両手をあげた。大魔法を放つつもりみたいだが、それは俺にとって逆にチャンスだ。
「『天火+1』」
魔法をリッチの顔面に向かって放つ。
「ひぎゃああ」
リッチが悲鳴をあげ、顔が炎に包まれる。
しばらくして炎が収まってから現れたのは、あんまり見た目に変化がないリッチだった。
「驚いたが、我にその程度の炎は効かぬわ」
なんか悲鳴をあげてたけど、本当かな。俺は疑問に思ったが、これで困ったことになった。決め手を
欠くことになってしまったからだ。
さて、どうするか。俺は考えた。そして一つ思い出した。
「確か、ユキヒトはこうしていた」
『神強化+1』をもう一度剣にかける。
すでに聖属性が付与されている上に、火属性を付与する。異なる属性が反発しあい、スパークが飛び散り、剣が発光する。
「2属性付与」
ただの『神強化』の時はできなかったが、『神強化+1』だとできた。
俺は剣を横に薙ぎ払う。
「なに!」
ビュッ。今度はリッチの足を斬り飛ばすことができた。リッチは体勢を崩して膝をつく。
「よし、やれる」
俺は速攻でリッチを切り裂いていく。足、手、胸と切り裂いていく。
切り裂かれたところから黒い煙が噴き出し蒸発していくが、何だか一向に倒せる気がしない。
「なんか、決め手に欠けるな。このままだと」
剣が持ちそうになかった。かかっている魔法の威力が強すぎるのだろう。剣が溶け始めていた。
そんな俺を見たエリカがアドバイスをくれた。
「旦那様、リッチを倒すには魔力が集中した核を砕かねばなりませんよ。ほら、魔力操作の訓練でやる魔力感知ってあるでしょう。あれで、魔力の一番濃い部分を探ってください」
「なるほど」
エリカのアドバイス通り、俺は意識を集中した。
「見えた」
俺は核に剣を突き刺した。
徐々に剣が核を分断していく。
だが、同時に本当に剣がやばくなってきた。真っ赤になって今にも溶けそうだ。
「こうなったら、核が砕けるのが先か、剣が砕けるのが先か。勝負だ」
俺は剣を持つ手にさらに力を込めた。
パリン。ボキッ。
核が砕けると同時に剣が折れた。
よかった。間に合った。
「ぎゃあああああ」
断末魔の悲鳴を残しながら、リッチは黒い煙となって消滅した。
これで、北部砦周辺のモンスターはすべて討伐された。
★★★
「お前たち大丈夫だったか」
戦いが終わった後、俺は二人の元へ急いで駆け寄った。
リッチが魔法を放ちまくっていたので、巻き込まれてけがをしていないか心配だったからだが、外見に異常は認められない。よかった。杞憂だったみたいだ。
「ええ、旦那様。なんともありませんよ」
「ワタクシも大丈夫……あれ」
ヴィクトリアが、へっという顔をして、自分の体をあちこち触りまくる。俺は慌てた。
「なにがあった」
「なんだか。神気が減ったような」
「神気が減るって。お前元々ゼロだったろう。これ以上何が減るんだ」
「そうなんですけど、確かに減った気が。ああ!」
ヴィクトリアがさらに身を悶えさせる。
「どうした」
「神気の量がマイナスになっちゃってます」
「マイナス?」
「ゼロより下の数字のことです」
ゼロより下にさらに数があるのか。知らなかった。って、そこは問題じゃない。
「なんで、そのマイナス?になったんだ」
「どうやら『神意召喚』を発動する時にワタクシの神気が使われたようです。それで……」
なんということだ。俺は頭を抱えた。
「というか、無いものをさらに使用するって反則だろ。魔法だって魔力がゼロなら使えないのに」
「そこは、まあ。腐っても神、というか。そういうことです」
この子、自分で腐ってもとか言っちゃったよ。
あまりにも神としての自覚がなさすぎる。どうやら、アホに磨きがかかってしまったようだ。
「まあ、それは置いとくとして。マイナスになったら何か不都合があるのか」
「はい。天界に帰るための日数が伸びましたね。この分だと、20年かかります」
「20年」
つまりその間、こいつの面倒を見なければならないというわけか。
こいつのおかげで助かったみたいだし、俺はいいのだが。エリカはどうなのか。
「20年。本当なのですか。ヴィクトリアさん」
「はい、多分」
「そうですか。それなら、その間一緒に暮らせますね。これからも仲良くしましょう」
「はい!」
どうやらエリカも賛成のようだ。むしろ喜んでいるし。
うん。めでたし、めでたし、かな?
「でも、今度こそ面倒な仕事は終わったな。さあ、わが家へ帰るぞ」
「「はい」」
俺たちは爽やかな気分で家に帰る支度を始めた。
午前の投稿は以上です。
面白かったでしょうか。
夜は20時ごろと22時ごろに1話ずつ投稿の予定です。
ご期待ください。
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