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第161話~王都への旅3 王都到着とあいさつ回り~

 王都への旅は順調に続き、いよいよ王都へ着いた。


「わー、町が真っ白ですね」


 王都を見て、ヴィクトリアが感嘆の声をあげる。


 ヴァレンシュタイン王国の王都ベラ・エレオノは白亜の町として知られている。

 というのも、近くには良質の大理石が取れる場所があるので、それで王城や建物、城壁を装飾しているのだ。


 もちろんすべての建物というわけでなく、貧民街や庶民の住む裏通りへ行けば普通の石壁の建物も多いのだが、目立つ場所、城壁やメインストリートの建物はすべて真っ白だ。


 特に、町の中心の小高い丘の上にある王城は人目を引く。

 白色を基調として、所々に赤や黒を施された建物が国王の権威をよく顕している。


「ヒッグス筆頭魔術師様の御一行ですね。どうぞ、お通りください」


 門番の兵士に誰何されることもなく、行列はフリーパスで王都へと入っていく。


 これは当然の処置だ。

 エリカのお父さんは国王陛下へのお礼言上という公務のために来たのだ。

 行列ともめごとなんか起こせば、罰せられるのは兵士の方だ。

 だから、丁重に扱ってくれる。


「うわー、何かおいしそうなものを売っているお店がたくさん並んでいます~」


 馬車の中からヴィクトリアが、町の情景というか食い物屋を見てよだれを垂らしている。

 もうそろそろ昼飯時だから腹が減っているのだと思う。

 それを見て、エリカがたしなめる。


「ヴィクトリアさん、いい加減にしなさい。屋敷に着いたらお昼ご飯は食べられますから、もうちょっと我慢しなさい」

「え~、まあお昼ご飯はいいんですけど、ワタクシはあまり食べたことがない美味しそうなものを食べたいのです」

「そうですか。まあ、用事をこなして自由時間になった後なら、別に構いませんよ」

「本当ですか?やったー。楽しみです」

「ただ、しばらく自由な時間などありませんけどね」

「え?そうなんですか?」


 驚いた顔になったヴィクトリアに対してエリカは大きく頷く。


「当たり前ではないですか。旦那様は私の父のお供ということで来ているのですよ。当然、父のあいさつ回りにもついて行かなければなりません。それなのに旦那様の側室という立場であるあなたが遊び惚けていていいと思っているのですか?一応側室なので、相手の方に顔を見せたりして挨拶までする必要はないですが、一緒についてきて挨拶が終わるまで待機しておかなければなりませんよ」

「えー、そんなあ。折角買い食いを楽しもうと思っていましたのに」


 エリカの説明を聞いて、ヴィクトリアがしょんぼりとする。

 しかし、エリカの次の話を聞くと、また表情がパッと明るくなる。


「そんなにがっかりしなくても大丈夫です。私の父の用事が終われば、私たちに優しい愛しい旦那様がどこへなりとも遊びに連れて行ってくれますよ」

「本当ですか?」


 それを聞いてヴィクトリアが俺のことをじっと見てくる。

 いや、ヴィクトリアだけではない。

 エリカやリネットまで、期待を込めたまなざしで俺のことをじっと見てきた。


 俺も男だ。

 ここまで奥さんズにお願いされては期待を裏切ることなどできない。

 3人の機嫌を取るために、堂々と宣言してみせる。


「当然じゃないか。お父さんの用事が終わったら、王都の中でもどこでも連れて行ってあげるよ。だから、楽しみにしていなよ」

「旦那様、ありがとうございます」

「うわー、楽しみです」

「ホルスト君、期待しているからね」


 俺は俺の発言を聞いて喜んだ3人にもみくちゃにされた。

 美人の奥さんたちにちやほやされて、とても気分が良かった。


★★★


 王都に着いた翌日からは、予定通りあいさつ回りに出掛けた。

 これは国王陛下に拝謁する前の恒例行事で、大臣やら相続の手続きでお世話になった人々にお礼を兼ねて挨拶に行くのだ。


「あいさつ回りって意外に大変なんだね」


 珍しくリネットが愚痴っている。

 確かにリネットの言う通りだ。

 もう朝から何軒回ったのだろうか。一々数えていられないくらいはすでに回っている。


 その間、俺とエリカはお父さんについて貴族たちに挨拶をして回っている。


「ほう。あの北部砦で活躍したり、大悪魔から国王陛下を守ったりした英雄殿がヒッグス卿の婿殿なのですか。いや、それは心強くて、羨ましい限りですな」


 何か知らんが、行く先々で貴族たちが俺のことを褒めてくれた。

 こういうのを見ると、俺も有名になったものだと思う。


 俺たちが挨拶している間、ヴィクトリアとリネットは馬車で待機だ。


「これをここに置いて……と。これでワタクシの勝ちですね」

「くそ、負けた。これで3勝3敗か。次は勝つぞ!」


 なんか二人で楽しそうにオセロをしていた。

 馬車にはチェスとか他のボードゲームも置いてはいるのだが、一番ルールが簡単で遊びやすいオセロが二人には人気のようだ。

 二人の腕は互角みたいで、一進一退の攻防を繰り返しているみたいだ。


 ちなみに今日はホルスターと銀は連れてきていない。

 二人とも家でお留守番だ。


 大体堅苦しいあいさつ回りなんて子供を連れて行くような行事ではないし、連れて行ったら相手に迷惑をかけてしまう可能性だってある。

 だから、親しい親戚の家にでも行くのでない限り、こういう行事に子供は同行させないものなのだ。


 幸い銀がホルスターと遊んでくれるということだし、おとなしく遊んでいてもらおうと思う。


「ホルスターちゃん。銀お姉ちゃんとおままごとしましょうね。銀が奥さんで、ホルスターちゃんが旦那様ね」

「うん。いいよ」

「それじゃあ、旦那様。お仕事頑張って来てくださいね」

「うん、出かけてくる」

「その前に、お出かけ前のキスしましょうね。はい、チューしてあげる」

「!」


 出かける前は、そんな風におままごとで新婚さんごっこをしていた。

 ほっぺにキスされたホルスターは恥ずかしいのか、顔を赤くしていたが、子供らしくて、とてもかわいらしい遊びだと思った。


「あら、ホルスターったら、割とおませさんね」


 エリカたちも笑いながら、ほほえましそうにその光景を眺めていた。


 さて、あいさつ回りもあと少しだ。

 もうちょっと頑張ろうと思う。


★★★


「リットンハイム公爵家か。ここで最後だな」


 ようやく長かったあいさつ回りにも終着点が見えてきた。

 リットンハイム公爵家。

 ヴァレンシュタイン王国の首席大臣の家だ。

 ここへの挨拶が終われば、後は国王陛下への拝謁で旅の主だった行事は終わりだった。


「こちらでございます」


 執事さんが応接室へ案内してくれる。

 さすがに公爵家ともなると屋敷も立派で、使用人の教育も行き届いていた。

 皆丁寧に応対してくれた。


「公爵様。ヒッグス卿がお見えになられました」

「うむ。入ってもらいなさい」


 公爵の許可が出たので、客間に入る。


「ようこそ、参られた」


 部屋に入ると、公爵自らが出迎えてくれた。

 すごい歓待ぶりだ。


 まあ、ヒッグス家は王国の経済の中枢を握っているので、仲良くしておけば恩恵は大きいからな。

 大臣と言えども、態度が丁寧になるのは当然と言えば当然だった。


「公爵様、お久しぶりです」


 こちらもお父さんが挨拶する。

 しばらくそうやって二人が談笑するのを俺たちは見守っていたが、やがて。


「あれ?もしかしてホルスト君かい?」


 公爵の隣にいた人物が俺に声をかけてきた。


「あれ?もしかして、北部砦でお世話になったワイトさんですか?これはお久しぶりです」


 その人物は北部砦での戦いのときに世話になったワイトさんだった。

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