第152話~地脈封印~
「ここが地脈を制御する場所か」
グランドタートルを再度封印した後、俺たちは遺跡の中へと入って行った。
遺跡の中はそんなに広くはなく、すぐに目的の部屋へとたどり着いた。
ただ、もちろん目的の部屋にすぐに入れたわけではない。
「扉、開かないな」
目的の部屋には封印が施されて開かなかった。
「というか、扉にかかれているこれって『神㈹文字』じゃない?ヴィクトリア、ちょっと読んでくれ」
「ラジャーです」
俺に言われて、ヴィクトリアがすぐに扉の文字を呼んでくれる。
「『Show the power of god』、『神の力を示せ』と書いていますね」
「神の力を示せ、か。希望の遺跡でも同じことが書いてあったな。となると、やることは同じか。『天火』」
俺は扉に向かって『天火』の魔法を放つ。
すると、扉がぽわっと光ってギギギと開いた。
「行くぞ」
俺たちは部屋の中に入った。
★★★
「旦那様、素晴らしい魔法陣ですね」
部屋の中へ入ると、エリカがそう感嘆の声をあげた。
エリカの言う通り、『地脈の封印をつかさどる部屋』には、部屋中にびっしりと魔法陣が描かれていた。
しかも一つ一つが緻密だ。
それはまるで芸術品でも見ているような感じだった。
「と、魔法陣に見とれている場合じゃないな。さっさと封印するぞ」
俺は部屋の中央にある水晶玉に近づく。
これが、地脈の制御を司る封印の中核らしかった。
「『地脈操作』」
俺は水晶玉に手をかざし、『地脈操作』の魔法を唱える。
なにげに本格的に『地脈操作』を使うのは初めてだったが、
「お、なんだか地脈の流れが正常になっていく気がする」
なんとなく上手く行っている気がする。
本当にこれでいいのかとも思ったが、それに対してヴィクトリアがこんなことを言う。
「大丈夫です。『地脈操作』の魔法で重要なのは感覚です。ホルストさんが上手く行っていると感じているのなら、それで上手く行っています」
うん、女神であるこいつがそう言うのならそうなのだろう。
俺は『地脈操作』の魔法を続けた。
30分後。
「お、水晶の光が消えたな」
水晶の光が消えた。
どうやら、再封印の作業が終わったようだ。
「終わったな」
これで南の地脈の封印は完了だ。
「ようやくアリスタ様の依頼を一つ終えましたね」
「ああ、それじゃあ、帰るぞ」
「「「「はい」」」」
今回も大変だったなあ。
そう思いながら俺たちは遺跡から離れるのだった。
★★★
「おお、無事だったか」
「これは宰相様」
遺跡を出た後、再びカリュドーンの猪に乗って『地底湖のへの洞窟』へと俺たちが戻ってくると、宰相が洞窟の所で一軍を率いて待っていた。
「ええ、何とか、ここを荒らして魔物を送り込んでいたたやつらは排除しておきましたよ」
「そうなのか?まあ、詳しい話は戻りながら聞こうか」
俺たちは洞窟を戻りながら宰相に事の顛末を話した。
「ほう、まさか伝説の魔獣を退けたというのか、それに伝説の神獣様のことと言い、信じられないな」
宰相の反応は当然だった。俺だって宰相の立場なら同じ感想を持つだろう。
だから、俺は証言者を出すことにした。
「まあ、そうでしょうね。でも、実は今もその神獣のうちの一匹がいますので、会ってみますか?ネズ吉」
「はい、ここに」
俺の背中に隠れていたネズ吉がひょっこりと現れ、俺の肩に乗っかってくる。
ちなみにカリュドーンの猪の方は、遺跡の守りを固めるとか言って、俺たちと別れて遺跡の方へ向かっている。
それを見て、宰相が非常に驚いた顔になる。
「このネズミは?」
「この地を守る神獣のうちの1匹、白ネズミのネズ吉です」
「まさか、あなた様は王国の伝説にある神獣のネズミ様ですか?国王の持つ儀仗の柄に刻まれているネズミの彫刻の元になったという、あの」
「柄のことは知らないが、確かにドワーフ王の先祖と拙者と、カリュドーンの猪は勇者様をお手伝いしたのは間違いないぞ」
「猪?まさか、ドワーフ王国の国旗に描かれている白い猪様のことですか」
「そうだ」
「ああ、やはりそうでしたか。あなた様がホルスト君と一緒にいるということは、ホルスト君たちの話も本当なのですね」
「その通りだ。彼らは拙者やカリュドーンの猪と共闘し、邪悪なものの復活を阻止して、この国を救ったのだ」
「それは素晴らしい」
どうやらネズ吉が現れたことで、宰相は俺たちのことを全面的に信じてくれる気になったらしい。
「ということならば、国王陛下にこのことを報告しなければならないな。ホルスト君に白ネズミ様。国王陛下に拝謁してくれないかな」
「へ?」
宰相の発言は有無を言わさないものだった。
こうして俺たちは国王陛下と面会することになった。
★★★
「よくぞ来てくださいました。神獣様。それと、よくぞ来た。ホルストとその一行たちよ」
謁見の間に参上した俺たちにドワーフの国王陛下が声をかけてくれた。
俺たちよりネズ吉に対する態度がより丁寧だが、まあこの国の初代国王と一緒に戦ったということだからこの対応について、俺たちに文句はなかった。
むしろ、そうしないと国王の権威に傷がついてしまうので、当然だと思う。
ということで、国王陛下は俺たちより先にネズ吉に声をかけた。
「我が王家の始祖様のみならず、今の時代までも我が王国を救ってくださるとは……感謝の言葉もございません。何かお礼を差し上げたいのですが」
「礼など不要だ。それに拙者はほとんど何もしておらぬ。褒美をやるのなら、ホルスト殿たちにあげてほしい」
「はは、畏まりました」
それで国王とネズ吉の話は終わったので、国王は次に俺たちの方を見た。
「ホルストよ。待たせたな」
「いえ、とんでもないことです」
「うむ、そう畏まらずともよい。宰相の話によると、そなたたちがいなかったら我が国は復活した魔獣によって滅ぼされていたという話ではないか。本当に感謝の言葉しかない。ホルストこそ、まことに現代の勇者である」
「はは、お褒めいただき、ありがたき幸せにございます」
国王にお褒めの言葉をかけられた俺たちは頭を下げるのだった。
「うむ。それにしても気持ちの良い話であるな。その方らのパーティーにいるハーフドワーフの娘はフィーゴの娘だというではないか。フィーゴの奴は元気にしているか?」
「私の父は元気ですが、国王陛下は父のことをご存じですか」
「もちろんだ。何せ幼馴染だからな。あいつはちょっと変わったやつで、よく武具とかを手作りしていたな。実は余も作ってもらったことがあってな。余の愛用のペーパーナイフはあいつが作ってくれた物なのだよ」
フィーゴさんと国王が幼馴染?
意外……でもないか。フィーゴさんは宰相家の跡取りだったからな。
国王陛下の遊び相手として選ばれていたとしても不思議ではなかった。
「フィーゴの娘ということは、王家の子孫ということである。王家の血を引く者が、その仲間として現代の勇者とともに邪悪なる存在の復活を阻止する。実に素晴らしいことである」
そこまで言うと、国王は、心の底から嬉しいのであろう、にこやかに笑った。
「さて、待たせてしまったな。それではホルストよ。お前たちに褒美を授け得よう。何か望みの品はあるか?」
「望みの品ですか。特にはないのですが」
「ふむ、そなたは無欲なのだな。それでは、これを授けよう」
そう言うと国王は部下を呼び寄せ、ある物を受け取ると、俺たちに渡してきた。
「これは?」
「この青い宝玉は我がドワーフ王家に伝わるものでな。『青い瞳』と呼ばれている。世界が再び危機に陥ったとき、再び勇者が現れるはずだから、その勇者に渡してほしいと始祖様が女神アリスタ様から預かったものだ。何に使うものか余にはわからぬが、これをそなたたちに授けよう。どうか、これを使って世界を救ってほしい」
「わかりました。そういうことならありがたくいただきましょう」
俺は国王陛下から『青い瞳』を受け取った。
これで、俺たちと国王の謁見は終了だ。
「では、ホルストよ。世界を救ってくるのだ」
「は、必ずや」
最後にそれだけ話した後、俺たちは謁見の間を離れるのだった。
★★★
「楽しかったですね。久しぶりにお酒もたくさん飲めましたし」
「ああ、そうだな。楽しかったな」
国王との謁見の後、俺たちはパーティーで宴会を楽しんできた。
「かんぱ~い」
「「「「かんぱ~い」」」」
この前、ヨークさんたちに連れて行ってもらった酒場に行ってしこたま飲み食いしてきた。
そして、ヒッグス家の別荘に帰ってきて、今エリカと二人きりなわけだ。
男と女がベッドの上で二人きり。
となれば、やることは決まっている。
俺は早速エリカを抱き寄せようとしたが、その時エリカにこんなことを言われてしまった。
「旦那様、何か私に隠していることはありませんか?」
「えっ?」
隠していることと言われて、心当たりがあり過ぎる俺は震えあがった。
青ざめて何も言えない俺にエリカは追撃してくる。
「最近、ヴィクトリアさんとリネットさんのお二人にキスをしたらしいですね」
「それは……、違うんだ、エリカ」
「ごまかしても無駄です。二人から報告は受けていますので」
二人から報告?
バレてる。全部バレている。どうしよう。
俺は人生最大の窮地に陥ってしまった。
「旦那様、勘違いしないでくださいね。私は二人とキスをしたことを怒っていませんよ」
「え?そうなの?」
「ええ。だって、あの二人は私に旦那様のことが好きだとちゃんと話してくれて、側室でもいいから旦那様とずっと一緒に居たいと言ってくれて、私もそれを許したのですから」
「え、本当?」
エリカはコクリと頷いた。
というか、俺の知らない間にそんなことになっていたことに俺は驚いた。
「だから、あの二人とキスをしたり、男女の関係になるのは構いません。ですが、あの二人のことは大切にしてくださいね。聞けば、旦那様は二人の唇を奪ったのに、まだ告白とか、きちんとしていないそうではないですか。一体、どういうつもりですか!」
「そ、それは……二人に浮気なんかしたら、エリカが怒ると思っていたから」
「つまり、私に配慮してくれていた、と?」
「はい」
「でも、二人に結局キスとかしましたね?それは浮気ではないと?」
「ご、ごめんなさい」
俺は速攻土下座した。
「別に旦那様のしたことを怒ってはいません。あの二人に旦那様に積極的に行くように言ったのは私ですから。ですから、旦那様が二人のことを気に入ってくれてよかった。そう思っています。それに……」
「それに?」
「旦那様は十分に名声を得た身。側室を迎えては、と世間からはどうしても言われます。実際、私も父から申し込みが来ていると言われました。ですが、私は旦那様が有名になったからと言って寄ってくるような女を側室にするのは嫌だったのです。ですから、心から旦那様を愛しているヴィクトリアさんとリネットさんとなら、いい家庭を築けるなと思って、二人を旦那様に近づけたのです」
そうか。エリカはそこまで考えて行動してくれていたのか。
俺はエリカの気づかいに今更ながら感動した。
「ただ、二人のことが気に入ったのなら、私にはさっさと言ってほしかったですね。夫婦の間で隠し事はあまり持ちたいと思いませんので。私が怒っているのはその点だけです」
「それについては……本当に申し訳ありませんでした」
俺はもう一度頭を下げた。
そうしたら、エリカが俺に抱き着いてきた。
ちょっとだけ肩が震えているように感じる。
それを見て、俺はエリカが心底俺のことを愛してくれていて、だから、ちゃんと言わなかった事を怒っているのだと感じた。
それからしばらくの間、俺たちは抱き合っていたが、やがて体を離すと、エリカが続きを話し出す。
「別に謝る必要はありません。旦那様なりに私に気を使ってくれただけの話ですから。ただ、旦那様のそのお気持ちは私もうれしいですが、それではあの二人がかわいそうです。さっさと二人に告白して、二人を安心させてきなさい」
「告白とか……急に言われても」
「大丈夫です。私が二人とのデートをちゃんとコーディネートしますので、きちんとしてきなさい。わかりましたか?」
「……・はい」
「よろしい。では、早速明日ヴィクトリアさんをデートに誘ってくださいね。今日、私は一人で寝ますので、旦那様も一人で寝て、二人とのことを真剣に考えてください」
それだけ言うと、エリカは本当に一人で寝てしまった。
残された俺は、本当に一人で二人のことと真剣に向き合うことになったのであった。




