第135話~ホルストの家督相続~
「なに?ドワーフ王国へ行くのかい?」
俺とエリカは今後の方針を説明し、協力を仰ぐためにエリカのお父さんの所へ向かった。
それで、ドワーフ王国へ行くことを伝えたら、そう聞き返された。
「はい、その通りです」
「そうか。それは大変だね。できるだけ協力するから、何でも言いなさい」
「それでは、お父様、色々頼みたいことがあるのですが、まずドワーフ王国にあるお屋敷を借りてもいいですか?」
「屋敷?ああ、うちの別邸だね。いいよ。好きに使いなさい」
「それと、ドワーフ王国のヒッグス商会の人を使ってもいいですか」
「使うって、何にだい?」
「情報収集ですね」
エリカがズバリ言う。
「私たちに必要なのは何より情報です。ドワーフ王国内の遺跡の情報とか、伝説とか、そういう情報が欲しいのです」
「わかった。早速ドワーフ王国の支社へ連絡して、そういった情報を集めるように指示を出そう」
「ありがとうございます。感謝します」
お父さんの対応に対してエリカは頭を下げた。
もちろん、エリカに続けて俺も頭を下げる。
「それと、お父様、最後にもう一つお願いがあるのですが」
「何だい?」
「私たちが旅に出ている間、ホルスターの面倒を見てくれないでしょうか?」
ホルスターの面倒を見てもらうこと。
実はそれが一番お父さんたちに頼みたいことだった。
★★★
「ホルスターを預かる?うちで?」
「ええ、さすがに子供をいつ帰るかわからない旅には連れて行けませんもの」
ホルスターを預けたいと言ったら、お父さんが驚いた顔になったので、エリカが説明をする。
「私たちの旅はいつ終わるかもわからない上に危険なものです。ですから、旅に出ている間はここに置いておくので、お父様たちに面倒を見てもらいたいのです」
「しかし、親に会えないのではホルスターがかわいそうではないかね」
「大丈夫です。ちゃんと毎日顔を見に帰ってきますから」
「帰るって……どうやって?」
「ほら、うちの旦那様には『転移魔法』があるではないですか」
あ、という顔をお父さんがした。
「あれを使って、毎日ホルスターの顔を見に来ますわ。学校に行っていた時にもそうしていたのですから、多分、大丈夫なはずです」
「そうかもしれないが」
「あと、これを渡しておきますね。旦那様、あれをお父様に」
「おう」
エリカの指示で、俺はお父さんに一つのペンダントを渡した。
それは、俺たちが使っている、セイレーンからもらった通信用のペンダントだった。
実はあのペンダント、俺たちが使う分以外にも予備の分をいくつかもらっていたのだ。
それを今回お父さんに渡して連絡用に使うつもりなのだ。
「これは?」
「このペンダントは、前に海神セイレーン様から頂いた連絡用の神器です」
「神器?」
「はい。これを使えばどこにいようと連絡ができます」
「ほう、それはすごいね」
「ですから、なにかあったらこれを使って連絡してくださいね」
「わかった。そうしよう」
お父さんは俺からペンダントを受け取ると、大事そうにそれをしまった。
「それで、他に頼みたいことはあるかね?」
「いえ、今の所、これ以外にはないです」
「そうか。なら、次は僕の方の頼みを聞いてくれないか?」
ここで、お父さんが突然話題を変えてきた。
「頼みですか?俺たちにできることなら、やりますが」
「そうか。それなら、ホルスト君にはエレクトロン家の家督を継いでもらいたい」
「へ?」
俺の家督相続。それがお父さんの頼みだった。
★★★
「家督相続ですか?俺が?」
「そうだよ。何か、問題でも?」
「いや、俺、実家とは……」
「うん、ホルスト君の気持ちはわかるけどね。でも、ホルスト君は王国の英雄だ。しかるべき地位に就いた方がいい」
「そうでしょうか」
「そうだよ」
自信なく言う俺に対し、お父さんの言葉は自信にあふれていた。
「実は、国王陛下からホルスト君の処遇について打診があってね」
「国王陛下からですか」
国王陛下と聞いて、俺は驚きを隠せなかった。
「何でも、ホルスト君は爵位を断ったそうじゃないか。だからうちの方でしかるべき処遇を与えてほしいとのことだったよ」
「なるほど、そういうことですか」
俺にも大体の事情は呑み込めた。
しかし、俺もここで折れるわけにはいかない。俺はあんな家などほしくないのだ。
必死に言い訳を考えた結果。
「自分はまだ若輩者ですし、まだ親父も元気ですし」
そんな言い訳を考えてみた。
だが、そんな急場しのぎの言い訳が通用するはずもなく。
「何を言うんだ。国を救った英雄が若輩者のわけがないだろう。それに家督の件はオットーも承知している」
さすがエリカのお父さん。先手を打たれて逃げ道をふさいでいた。
困ったことになったと、俺が悩んでいると、エリカが口をはさんできた。
「旦那様。別にエレクトロン家を継いでも構わないではありませんか」
「でもな、エリカ。うちの家だぞ。お前だって、うちの家のこと快く思っていないだろ?お前はそんな家の当主夫人になってもいいのか」
その俺の問いかけに対してエリカはこう答えた。
「確かに私もエレクトロン家の婦人の地位を欲しいと思ったことはありません。どちらかといえばいらないです。私も旦那様とずっと一緒に暮らせれば、それでいいと思っています。ただ」
「ただ?」
「ただ、子供たちは別だと考えています。まだ私たちの間にはホルスターしかいませんが、この先も旦那様は子供を作るおつもりでしょう?でしたら、子供たちにはしっかりしたものを残してやりたい。そう思うのです。エレクトロン家の当主の子息。その地位は子供たちに残してやるには十分なものではありませんか?」
「うーん」
困った。エリカが子供のことを言ってくるとは思っていなかった。
エレクトロン家の出身。
それは子供に残してやれるものとしては十分なものであった。
……完全に逃げ道をふさがれてしまった。
こうなったら仕方ない。
「わかりました。エレクトロン家を継ぐことにします」
「おお、そうか。継いでくれるか」
こうして、俺は実家の家督を継ぐことになった。
★★★
「ホルスト・エレクトロンにエレクトロン家の家督の相続を認める」
「謹んでお受けします」
俺の家督相続式が行われた。
家督相続式といっても大したものではない。
エリカの実家の大広間でエリカのお父さんから当主の証である印章を受け取るだけだ。
ただ、それでも重臣の家の家督相続ということで、ヒッグス家の家臣や重臣たちが周囲に控えている。
さて、これで家督相続の手続きは終わりだ。
その後はパーティーになった。
★★★
パーティーは割と盛大だった。
ヒッグス家の家臣団が大勢集まって来ている。
「ホルスト君、家督相続おめでとう」
「ありがとうございます」
「どうもありがとうございます」
参加者が俺とエリカに挨拶してくるので、挨拶し返す。
「ほう、こちらがお孫さんですか。賢そうな顔をしていますな。魔力も物凄いものを持っているようですし」
「そうだろう、そうだろう。僕も将来立派な魔術師になってくれると思っているんだ」
会場の別の場所ではエリカのお父さんがホルスターのことをみんなに紹介していた。
みんなお父さんに胡麻をするため、一生懸命にホルスターのことを褒めていた。
中には。
「この子のお嫁さんは決まっているのですかな?実は今度息子に娘が生まれまして、側室でもよいので、是非」
とか言っているやつまでいた。
普通、そういうの頼むのなら俺とエリカの所に言いに来いと思う。
まあ、こんな席で頼んでくるようなのを受けるつもりはないけどな。
実際、お父さんも、
「さあ、どうだろうねえ」
と、苦笑いしているし。
会場の別の場所では。
「銀ちゃん。今日のお料理はおいしいですね」
「最高ですね。ヴィクトリア様」
「ほら、折角なのでもっと食べましょう。リネットさんも、ほら」
「ああ」
ヴィクトリアと銀がリネットを巻き込んで大量にごちそうを食べていた。
今日のパーティーは立食形式で、食べ放題となっているので3人はあちこちのテーブルを回って爆食いをしている。
「ちょっと、あいつら調子に乗り過ぎだろ。注意してこようか」
そう言って俺が止めに行こうとすると、まあまあとエリカが逆に俺のことを止めに来た。
「いいではありませんか。今日はおめでたい席ですし。食べ物を食べるくらい」
「そうかなあ?……まあ、エリカがそう言うのなら」
エリカは最近あいつらに甘い気がする。
まあ、とはいえ俺がエリカに逆らえるわけがないので、この話はこれで終わりだ。
最後に会場の隅の方の様子を伝えると。
「オットー様、皆楽しそうですね。私たち以外」
「そうだな」
俺のオヤジとおふくろがたそがれてしょんぼりとしていた。
俺はこの二人を呼びたくなかったのだが、エレクトロン家の行事でさすがにそれは通らず会場にいるというわけだ。
二人がしょぼくれるのも無理はない。
これで二人はご隠居様となり、社会的地位が大分後退する。
収入も減る。エレクトロン家の家禄収入の分が俺の懐へ入ってくるようになるからだ。
大分生活の質を落とさなくてはならないはずだ。
ただ、今やっている仕事の分の給料は入ってくるし、それを辞めても年金はもらえるはずだから死ぬことはないはずだ。
実家の家で死ぬまで暮らせばいいと思う。あんな家、俺はいらないので好きにすればいい。
俺は自分で別に家を買うつもりだからな。あんなぼろ家どうでもよい。
援助?そんなものするわけがないだろうが。
ずっと惨めに暮らせばいいさ。
まあ、死んだら葬式ぐらいは出してやるよ。それ以上はない。
俺はオヤジたちを一瞥すると、以降パーティー中一度も奴らを見ることはなかった。
それから1時間後。
そんな風にいろいろな人々の悲喜こもごもが見られたパーティーも終わった。
これで俺の家督相続も終了だ。
さて、それではアリスタの依頼を果たしに行くとするか。
★★★
俺の当主就任式が終わって数日後。
ドワーフ王国へ旅立つ日が来た。
エリカの実家の門の所で、エリカの家族が俺たちを見送ってくれた。
「それじゃあ、ホルスト君たち、気を付けて行ってくるんだよ」
皆を代表してエリカのお父さんが声をかけてくれる。
「はい、気を付けて行ってきます」
今度はうちのパーティーを代表して俺が挨拶をする。
その後は雑談を少ししてから、みんなで馬車に乗り込む。
エリカ、ヴィクトリア、リネット、銀の順に乗り込む。
今回ホルスターはお留守番だ。
子供を当てのない旅に同行させるわけにはいかないからだ。
「でも、お母さん、毎日会いに帰りますからねえ」
ただし、今回の旅では毎日ホルスターに会いに帰るつもりだ。
毎日旅先に転移ポイントを作って、そこからエリカの実家に帰ってホルスターに会うつもりなのだ。
言ってみれば、子供をじいちゃんばあちゃんに預けて、両親が外で働いているみたいなものだ。
俺に『空間操作』の魔法があるからこそできる芸当だが、別にこのくらいのことはしても良いと思っている。
後、銀は一日交替でエリカの実家と馬車を行き来させようと思っている。
というのも、銀はまだ未熟で長く旅に同行させるのはかわいそうだし、銀自身ホルスターのことを弟のように思っているので、ある程度一緒に居させてやりたいからだ。
ということで、このように対応することとなった。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
出発の準備もできたので、最後の挨拶を交わしていざ馬車を発信させようとしたとき、それは起こった。
「マ~マ、パ~パ。行ってらっしゃい」
何とホルスターが手を振りながら、いきなりそんなことをしゃべり始めたのだ。
[ホルスター?」
俺は馬車を慌てて止め、ホルスターに駆け寄る。
エリカも馬車から飛び出てくる。
「ホルスター、あなた喋れるようになったんだね」
エリカはお義母さんに抱かれているホルスターにかけよると、頭を撫でてやる。
「ホルスター」
俺ももちろん撫でてやる。
両親に褒められて、ホルスターはとてもうれしそうだ。
しばらく褒め続けた後、俺もエリカも十分に満足したので今度こそ出発する。
「行ってきます」
こうして俺たちのドワーフ王国への旅が始まった。




