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第11話~神属性魔法を使用して魔物を討伐せよ!~

 ダンジョンから帰って数日後、俺たちは出かけた。


 本日の目的は依頼をこなすことではない。

 手に入れた神属性魔法の威力を試すことだ。


 だから、今回はちょっと町を離れて山を一つ越えたところまで行ってみることにした。


 未知の威力の魔法を町の近くで使うのは危険だったし、あまり人に見られたくなかったからだ。


 それともう一つ。


「ふふ、とうとうワタクシの活躍の場が来ましたね」


ものすごくヴィクトリアが張り切っている。


 というのも、ヴィクトリアが魔法は得意だと主張するので連れてきていたのだ。

 なんか胡散臭い話だが、一人家にいるのも暇だというので連れてきた。


「お前、朝から晩まで結構働いているみたいだがしんどくないのか」


 ヴィクトリアが妙に元気いいので聞いてみた。


 こいつはここ数日エリカに、炊事、洗濯、掃除、裁縫と大分しごかれているはずなのにえらく元気だった。

 引きこもりだったくせにどこにそんな体力があるのだろうと不思議だった。


「あはは、ホルストさん。エリカさんが言ってましたよ。『人生の幸せは労働の先にあり』と。だから、ワタクシも幸せになるためいっぱい働かなければならないのですよ」


 ヴィクトリアは笑いながらそう言うが、よく見ると目がうつろだ。


「ふむ」


 どうやら大分調教、じゃなかった、意識改革が進んでいるようだ。たった数日でここまで仕込むとは、我が嫁ながら恐ろしい。

 まあ、こういうことはやりすぎるのは本当はよくないのだろうが、このぐーたら女神にはちょうどよかろうと思う。

 あまりやりすぎているようなら止めればいいしね。


「旦那様、そこの岩を少し行ったところに魔物がいます」


 魔法で周囲を探索していたエリカが魔物を見つけた。山の中は視界が悪いから探索はエリカに任せていたのだ。


「オークが5匹か」


 オークはこの1か月の間に何度も戦ってきた。もうそこまで恐れる魔物でもなくなってきている。


「一気に奇襲をかけて、俺とエリカで2匹ずつ。残りをヴィクトリアにやらせてみるか」


 そんな風に作戦を立ててみた。


「我が名は女神ヴィクトリア。ここで会ったが百年目。さあ、邪悪なる魔物よ。覚悟なさい」


 ヴィクトリアがいきなり敵に突っ込んだ。敵の目の前に立ち、堂々と名乗りを上げた。

 たちまちオークたちの視線がヴィクトリアに集中する。


「あの、バカ何を」


 俺は焦る。だが、ヴィクトリアはそんな俺の焦りなどに構わず続ける。


「さあ、ワタクシの炎で焼き豚にして差し上げますわ。『火矢』」」


 ヴィクトリアが魔法を放った。


 爪の先程の幅と小指の半分ほどの長さのそれは立派な、じゃない、ショボい火矢が出た。

 もちろん、火矢が敵に届くことはなく、1メートルも飛ばないうちに地面に落ちすっと消えてしまう。


「あれ?」

「ガハハハハハ」


 オークたちがそれを見て嘲笑する。気持ちはわかる。俺だって自分のパーティーメンバーのことでなければ、のんきに大笑いしてたはずだ。


「グオオオー」


 ひとしきり笑ったオークたちが、ヴィクトリアに襲い掛かる。


「ひっ」


 オークが襲ってくるのにビビったヴィクトリアが固まってその場から動けなくなる。命の危険を感じているのだろう。ウサギのようにブルブル震えている。


「くそ。なんで逃げないんだ。『神強化』」


 強化魔法をかけた。体が軽くなる。ものすごい勢いでオークとの間の距離をまたたくまに詰めていく。


「グホッ?」


 1匹目は首をはねてやった。


「グモモモ」


 2匹目は腹を思い切り蹴った。ペチャっという不気味な音とともにオークが吹き飛ぶ。多分内臓が破裂したのだろう。オークは息絶える。


「ピギャアアア」


 3匹目は脳天から唐竹割にした。オークの体が左右に別れ、大地に倒れる。


「『石槍』」


 残りはエリカが魔法で作った槍で始末した。


★★★


 オークを退治した後、怖くなってエリカに抱きつきながら泣いているヴィクトリアに問いただす。


「どうして後衛がいきなり前に出るなんてバカをしたんだ」

「シクシク。だって、マンガとかだと主人公が前に出て、かっこよく魔法でドバってやるじゃないですか」


 マンガ。出た。また謎言葉が。こいつは時々俺たちにわからない言葉を使うのでついていけないことがある。

 でも、今のはなんとなくわかる。要はどこかの物語の主人公みたいに目立ちたかったということだろう。


「マンガが何か知らないが、現実でそんなことをするバカがいるか!」

「ごめんなさい」

「謝ってすむ話じゃない。もうちょっとで遊びで命をなくすところだったんだぞ。まじめにやれ」

「ご、ごめんなさい」

「それに魔法が使えるって自信満々だったのに全然使えないじゃないか。一体どうなっているんだ」

「それは、ワタクシはあらゆる魔法の適性を持っているはずですし、魔力も高いからぶっつけ本番でいけると思ったんです」

「えっ、1回も使ったことがなかったのか」

「はい」


 俺はあきれるしかなかった。無謀にも程がある。


「ぶっつけ本番って、練習もしたことがないのですか」

「ないです」

「それでは、魔力操作の訓練をしたこととかもないですよね」

「魔力操作の訓練?なんですか、それ」


 エリカは小石を拾った。そして、それを手の平に置き、ぷかぷかと空中に浮かべて見せた。


「一番簡単なものですが、これが魔力操作の訓練です。魔法を志すものなら誰でも最初に通る道です」

「ちなみに、俺も魔法は使えなかったけど、これはできたからな」


 しかもかなり上手にだ。だから、魔法が発動しなかったとき余計に悔しい思いをしたわけだ。

 ただ、今のところ神属性魔法をうまく発動できているのはそのおかげかなとも感じているので、結果オーライだ。


「ちょっとやってみなさい」」


 エリカがヴィクトリアに小石を握らせやってみるように促す。


「うーん。ダメです。全然できません」


 小石はわずかにプルプルと振動するだけで、空中に浮くことはなかった。


「ワタクシって本当にダメな子ですね。料理は焦がすし、洗濯をすればしわだらけにするし、掃除をすれば物を壊すし、縫物をすれば自分の指に穴をあける。もう嫌だ。うわああああん」


 お前そんなひどいことになっていたのかよ。俺は何と声をかければよいかわからなかった。


 この絶望的な雰囲気を救ったのはエリカだった。優しくヴィクトリアの頭をなでてやる。


「いいのですよ。ヴィクトリアさん。誰でも最初はできないもの。それよりも覚えようとする姿勢が大事なのです。あなたは頑張っていますよ。私も協力しますから、少しずつ覚えましょうね」

「エリカさん」


 ヴィクトリアが泣き止み、エリカにガシッとしがみつき「ありがとうございます」と感謝する。


 うん、やっぱ俺の嫁は最高だな。というか、お前らいつの間にそんなに仲良くなったんだ。


★★★


 さて、次は俺の番だ。


 俺も神属性魔法『天火』を実戦で使用するのは初めてだ。


 一応一度発動の実験を行ってみたが、やったのは大分威力を抑えて焚火に火をつけた程度である。

 もしかしたらヴィクトリアを笑えない結果になる。そんな可能性が頭をよぎったが、こればかりはやってみるしかなかった。


 そういうことで、俺たちは今手ごろな獲物を求めて引き続き山の中をさまよっている。


 あれからすでにゴブリンの群れを二つと、シャインスパイダーを1匹始末したがどちらも実験には不向きだ。

 ゴブリンは雑魚すぎだし、シャインスパイダーの糸は素材として高く売れるので燃やすのがもったいなかったからだ。


「旦那様、あれはいかがでしょうか」


 エリカが獲物を発見する。


「オーガが1匹か。しかも寝ているし」


 オーガはかなり上位の魔物だ。まともにやりあえば標準的な町の防衛軍の1個小隊ぐらいなら叩き潰してしまうし、初級魔法使いの魔法1発では殺すのが難しい。中級でもどうか。厄介な魔物だ。

 また、特に肉や素材が高く売れるわけでもないので冒険者的に討伐動機が乏しくなる魔物である。


「でも、だからこそ実験にはふさわしい」


 俺は岩の陰に隠れながら移動した。


 近くの岩のそばまで移動した俺はオーガに気づかれないように意識を集中する。

 オーガが燃え盛る姿を想像する。

 たちまち俺の手の平に炎の弾が出現する。


「本当詠唱なしって便利だ」


 通常は無詠唱の場合でも頭の中で唱えなければならないが、それすらも不要なのは便利すぎた。


 俺は魔法を放とうとオーガを見る。

 野生の勘というやつなのだろうか。

 ただならぬ気配に気づいたオーガが目覚めて、きょろきょろしている。

 だが、もう遅い。


「この世は弱肉強食。油断しているお前が悪いんだ。『天火』」


 魔法を解き放つ。


「あばよ」


 炎が物凄い勢いでオーガに迫る。


 ドゴオオン。


 炎がオーガに命中しすさまじい音が周囲にこだまする。


「ギャアアアアア」


 炎が天を突くような火柱を上げ、オーガを焼き尽くし、オーガが断末魔の叫びをあげる。


 それでも上位の魔物の意地とでもいうのだろうか。最後は俺に向かってきた。

 しかし、2,3歩歩くとすぐに力尽き、ドタンと倒れ伏した。


 しばらくして炎が収まると、俺たちはオーガに近づいた。


「これは、内臓まで黒焦げだな」


 俺はオーガを蹴って仰向けにすると、腹を切り裂いてみた。

 内臓は見事なまでに炭化して真っ黒になっていた。


「旦那様、見てください。岩が溶けちゃってます」

「どれどれ、これはすごいな」


 オーガの側のところにあった岩が炎に巻き込まれてドロドロに溶け、水蒸気を上げていた。


「岩をここまで溶かす魔法なんて。かなりの上位魔法でも難しいですね」

「ああ、そうだな。これはすごい魔法だ」


 これほどの魔法を使えるようになった自分っが誇らしかった。


「ホルストさん、あそこキラリと光ってます。もしかして金じゃないですか」


 ヴィクトリアが目敏くお宝を発見する。


「エリカ」

「はい。『水球生成』」


 エリカが融解している岩に水をかける。ぶわっという大量の水蒸気とともに、一気に岩が冷える。


「やっぱり金です。やったあ。お宝だあ!」


 溶けた岩からは金鉱石が露出しており、ヴィクトリアが小躍りする。


「よし、お前ら掘るぞ!」

「はい」


 その後、俺たちは一心不乱に金を掘った。


★★★


「今日は大儲けだな」

「帰ったら、ごちそう作りますね」

「デザートに何か甘いものも食べたいです」


 お宝を見つけてホクホクの俺たちは帰りを急いだ。

 まだ町まで距離があるので、今日中に帰れるか微妙だったが野営の準備もしてきているので問題はない。


 和気あいあいとしながら歩いている俺たちだが、それは突然起こった。


「助けてくれー」


 誰かの叫ぶ声が聞こえる。


「おい、行くぞ」


 急いで小高い丘の上に上り周囲を観察する。


「ドラゴン?」


 そこには3匹の地竜に追いかけられる冒険者たちがいた。

次の投稿は22時からとなります。

2話続けて投稿の予定です。


次話は第11話の続きとなります。

ご期待ください。


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