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第107話~凶悪な魔物から不死鳥を守り抜け!~

 正月が終わってしばらくした頃。


「みなさん、またよろしくお願いしますね」


 エリカが現場復帰した。

 ホルスターも歯が生えてきたし、離乳食も食べ始めたりもして、未だ手はかかるが、馬車の中なら家の外に連れ出しても大丈夫になったからだ。


 馬車はあれからさらに大改造して、家の中で過ごすのとそん色がないくらい快適に過ごせるようにしてある。

 現に俺が御者台から馬車の中を覗き込むと。


「みんな、よく寝ているな」


 よく暖房のきいた馬車の中でメンバー全員がよく寝ていた。


 今度の大改造では馬車に暖房を完備してもらった。

 これは魔石を利用した装置で、今のような寒い季節でも快適に過ごせるのだ。

 それと、馬車には俺が『空間操作』の魔法をかけて、これはヴィクトリアのアイデアなのだが、見た目よりも中を広くしており、家族全員が横になっても余裕なくらいだ。

 元々揺れないように改造していたので、これで馬車の中は家の中と変わらない快適な空間となったわけだ。

 女性陣が安心して眠りこけているのがその証拠だ。


 ただ、それだけだと馬車の重量が増えてパトリックの負担が増えるので、軽量化の魔法もちゃんとかけるのを忘れていない。

 俺はちゃんとそういう心配りもできる人間なのだ。


 と、そうやって馬車を走らせているうちに目的地に着いた。


★★★


「おい、着いたぞ。起きろ」


 目的地に着いたので、俺はホルスターと銀以外の全員を起こした。


「ええ、もう起きるんですか」


 ヴィクトリアが眠いのか、目をこすっている。

 エリカもリネットも眠そうだ。

 よほど気持ちよく寝ていたものと思われる。


 ちょっと快適にしすぎたかなと思ったが、まあ、今は仕事だ。


「まずは護衛対象の確認だ。行くぞ」


 今回の依頼は護衛依頼だ。

 とはいっても対象は人間ではない。


「ホルストさん、あれみたいですよ」


 テレスコープで近くの崖の上を覗き見たヴィクトリアが指さす。


 そこには七色に光る美しい鳥が巣を作っていて、産毛が大分抜けてきて大きくなったヒナに対してせっせと餌をやっていた。

 その姿に俺は、エリカがかいがいしくホルスターを世話する姿を重ね、お前も大変だなと、親鳥に対して妙な親近感を抱いた。


 おっと、今は仕事中だった。


「あの鳥が”不死鳥”か」

「はい、そのようですね」


 今回の護衛はあの七色の美しい鳥。『不死鳥』であった。


 『不死鳥』

 『虹色鳥にじいろどり』の俗称である。


 虹色鳥は七色の美しい羽毛をまとう大変珍しい鳥であり、幸福を運んでくると言われる縁起の良い鳥である。

 不死鳥の名前通りに本当に死なないわけではないが、それでも数百年単位で生きるみたいなので、普通の人から見たら永遠の命を持っているように見えたのだろう。だから、人々に不死鳥と呼ばれているのだ。


 それで、重要なのはここからだ。


 この不死鳥は生涯に数度、巣を作って卵を産むらしい。

 そして、その巣と卵の殻が貴重品なのだ。

 巣は不死鳥がそこら辺から集めてきた木の枝などに自分の唾液をかけて作るのだが、これが高価な薬の原料となり大変貴重なのだ。

 卵の殻も同様で高価な薬の原料となり、需要が高い。


 それらを手に入れるのが俺たちの目的だ。

 ただ、勘違いしないでほしいのは俺たちには無理矢理それらを手に入れるつもりはないということだ。


「あの分だと、あと数日で巣立つかな」

「うん、そうなると思うよ」


 俺の意見にリネットが同意する。

 つまりは、不死鳥のヒナが巣だった後の巣や卵の殻をいただこうというわけだ。そして、それと合わせてヒナを守るのも仕事だ。


 そもそも、今回の依頼は指名依頼である。

 というのも、不死鳥は貴重な生き物で王国では保護対象になっているのだ。

 しかも、子育て中の不死鳥というのは魔物にとっておいしい獲物らしく、狩られる可能性が高いのだ。

 それで、俺たちにお鉢が回ってきたというわけだ。


「それじゃあ、準備をしたら、護衛対象が巣立つまで待機だ」


 不死鳥の存在を確認した俺たちは、準備をして待機するのだった。


★★★


 不死鳥の護衛任務に就いてから3日が過ぎた。


「ふわあああ、退屈ですね」


 テレスコープを小脇に抱えたヴィクトリアが退屈そうにあくびをしていた。


「おい、まじめに仕事しろ」


 俺が注意しても。


「だって、何も起こらなくて暇なんですもの」


 そうぶうたれるだけだった。

 俺もヴィクトリアの気持ちがよく分かったので、それ以上は言わなかった。


 今、俺たちは交代で不死鳥の監視をしている。

 現在は俺とヴィクトリアの番だ。


 二人で馬車の御者台に座り、テレスコープ片手に不死鳥が巣立つのを今か今かと待っている。

 馬車の外は寒いので、二人とも毛布にくるまり、側に小さなストーブを置き暖を取っている。

 ついでに言うと、パトリックの側にも大きなストーブを置いてあまり寒くないようにしてたりする。


 一方馬車の中からは、他のメンバーたちが談笑する声が聞こえてくる。

 しかも中はここよりもはるかに暖かかった。

 ヴィクトリアがやりきれない気持ちになるのも無理はなかった。


「ああ、早く交代の時刻にならないでしょうか」

「まあ、そう言うなよ。もう少しの辛抱だ。もう少しでヒナが巣立つから」

「うう、仕方ないですね。それにしても寒いですね。……そうです!」


 ヴィクトリアが俺のことをじっと見てきた。その目つきは、さながら獲物を見つめる肉食獣のそれ……のような気がした。


「ホルストさん、もうちょっと、そっちにくっついてもいいですか?そっちの方が暖かいですし」

「ああ、構わないぞ」

「それでは」


 そう言うと、ヴィクトリアは俺の方へ寄ってきた。

 俺はてっきりヴィクトリアがもうちょっと俺との距離を詰めて、暖を取るくらいの話だと思っていたのだが、ヴィクトリアの行動は俺の想像の上を行った。

 本当、こいつはいつも突拍子もないことをしてくれる。


「えい」


 ヴィクトリアは自分の毛布を剥ぐと、俺の毛布に潜り込んできた、

 そして、俺の腕をガシッとつかむと、ピタッと俺に引っ付き、俺の毛布の上に自分の毛布を掛け、毛布を二重に巻き付けた。

 これで、形的には一つの毛布に俺とヴィクトリアがくるまっている形になった。


 恋人でもない男女が一つの毛布で一緒にくるまるなんて!


 俺は慌てた。


「おま、何を」

「いいじゃないですか。こっちの方が断然暖かいんですもの。それとも……」


 慌てふためく俺を、ヴィクトリアは無垢な子供っぽい瞳でじっと見つめてきた。


「ワタクシとこうするのは、イヤですか?」


 こんな言い方で聞かれて、俺がそうだと言えるはずがなかった。


「別にそんなことはない。このまま一緒に暖まろうか」

「はい。喜んで!」


 こうして、俺はヴィクトリアと一緒の毛布にくるまりながら待機することになった。


★★★


 状況が変わったのは、それから1時間ほど経った頃だった。


「ホルストさん、敵みたいですよ」


 テレスコープを覗き込んでいたヴィクトリアが敵を発見した。


「あれは、グリフォンか」


 見ると、不死鳥の巣がある崖のさらに上の崖から1匹のグリフォンが不死鳥の巣をじっと見つめているのが確認できた。


 グリフォンは鷲の翼と上半身、獅子の下半身を持った魔物だ。

 一撃離脱戦法に優れた奴で、上空からいきなり襲い掛かってきては、獣や人間、時には魔物なんかも捕食するという。


「よし、ヴィクトリア。ほかの2人に連絡だ、すぐに戦闘準備に入る」

「ラジャーです」


 敵の存在を確認した俺たちはすぐに戦闘態勢に入った。


★★★


「『精霊召喚 風の精霊』」


 エリカとリネットが馬車から出てくるなり、ヴィクトリアがすぐに魔法で風の精霊を呼び出す。


「行きなさい」


 ヴィクトリアが風の精霊に命令すると、風の精霊はグリフォンと不死鳥の間に移動する。

 もちろん、これは不死鳥をグリフォンから守るための措置だ。

 風の精霊は空中戦が得意なので、呼び出して不死鳥の守備に充てることにしたのだ。


「それじゃあ、俺がグリフォンの相手をするから、エリカは魔法で支援攻撃だ。ヴィクトリアは風の精霊に適切に命令を与えて、不死鳥の守備だ。リネットは二人と馬車を守ってくれ」

「はい」

「ラジャーです」

「心得た」


 配置が決まったので早速行動開始だ。


「『重力操作』」


 俺は魔法を使って一気にグリフォンに接近する。


「うがあああ」


 俺の接近に気づいたグリフォンが咆哮をあげ、崖から飛び上がり、炎のブレスで迎撃してくる。


「『天凍』」


 俺はそれを魔法で軽くいなすと、グリフォンとの距離を極限まで詰める。


 スパ。

 そしてグリフォンの片翼を斬り飛ばしてやる。


「ぐおおお」


 片翼を失ったグリフォンが絶叫し、バランスを崩す。


「今だ!」


 俺は残ったグリフォンの片翼をつかむと、力いっぱい地面に向かって投げつけてやる。


「『重力操作』」


 投げる時、魔法でついでに加速をつけてやったので、グリフォンはすさまじい速度で地面に突っ込んでいく。


 ドゴーン。

 地面がえぐれる勢いでグリフォンは地面に激突した。


「風の精霊よ。『カマイタチ』で攻撃しなさい」

「『風刃』」


 地面に転がったグリフォンにヴィクトリアとエリカが追撃の一手を放つ。


 ビュッ、ビュッ、ビュッ。

 風の刃に切り刻まれて、グリフォンが血まみれになる。


「とどめだ!」


 そこへ空中から俺が急襲し、一気にグリフォンの首を刈り取ってやる。


 ドス。

 グリフォンの首が地面に落ち、グリフォンが息絶える。


「これにて終了」


 こうして俺たちは不死鳥を守り抜いたのだった。


★★★


「いよいよですね」


 グリフォンと戦った翌日の早朝。

 俺たちは全員馬車から出て、不死鳥の巣を見ながら、その瞬間が来るのを今か、今かと待ちわびていた。


「ピピピ」


 不死鳥のヒナが翼をはばたかせると、少し体が浮く。

 自分の体が浮く感触を確かめたヒナは、一旦はばたくのをやめ、巣に戻る。


 そして、一呼吸おいてから、先ほどよりも激しく羽ばたき、今度は思い切って巣から離れる。


「ピーピピピ」


 不死鳥のヒナは多少ふらつきながらも空を飛び回ることに成功する。

 それを見届けると、親鳥も巣を離れ、2羽でどこかへ飛んで行ってしまった。


「なんて素晴らしい」

「感動ですう」

「泣けてくる」

「ヒナちゃん、お元気で」


 ヒナが巣立つのを見て女性たちが感動に打ち震えていた。

 俺も将来ホルスターが成人する時にこういう場面が来るのだろうかと思うと、何とも言えない気分になった。


 しばらくの間、俺たちはそうやって感傷に浸り立ち尽くしていたが、やがて正気に戻ると、不死鳥の巣や卵を回収し、ノースフォートレスの町へ帰った。


 これにて今回の依頼は終了した。

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