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第106話~新年あけましておめでとうございます~

 今年は色々とあった。


 春頃にはエリカがホルスターを産んだ。

 俺とエリカにとって初めての子だから、二人とも非常に喜んだ。

 ヴィクトリアたちもホルスターの誕生を喜んでくれて、一気に家の中が賑やかになった。

 とても良いことだと思う。


 次にギルドの教官業を始めたりもした。

 エリカが妊娠、出産、子育て中の臨時の仕事だが、今は5期生の指導をしている。

 かなりの成果を出していて、指導した生徒の中にはすでにCランクになった子もいるらしい。

 最近ではノースフォートレスのみならず、遠くの町や村、王都なんかからも生徒が集まってくるようになり、順風満帆にやれている。


 俺たちが本業の冒険者に戻り、教官をやめた後のフォローもばっちりだ。

 俺たちには補助の指導員が付いているのだが、そういう人は元冒険者なのだが、そういう人たちに俺たちのやり方を教えて、俺たちに負けないような教官に育て上げている。

 彼らなら、俺たちがいなくなっても立派な冒険者たちを育て続けてくれると思う。


 クリント生誕祭の時には、ヴィクトリアやリネットと距離が近くなった。……気がする。

 劇を見に行ったり、荷物運びを手伝ったりしたときに色々あったからな。

 もしかしたら俺に気があるのかも。なんて思ったりもするが、エリカのことを考えると、それ以上のことをやる気になれない。うん、残念なことだ。


 後、レジェンドドラゴンの討伐なんてこともやった。

 レジェンドドラゴンの頭を飾っておくという俺の野望は、エリカに怒られたことでとん挫したが、レジェンドドラゴンのお守りはちゃんと作ってホルスターに持たせている。

 残ったレジェンドドラゴンの体は結構高額で売れたらしく、商業ギルドの支配人のマッドさんはホクホク顔だった。


 はく製にしたレジェンドドラゴンの頭は、ヴィクトリアの収納リングにしまってあるが、最近ヴィクトリアに、


「気味が悪いから、そろそろどうにかしてくれませんか」


と、言われている。さて、どうすべきかな。


 最後に、武術大会優勝なんてこともあった。しかも、それのみならず、大会後にグレートデビルと一戦交えたりもした。

 割と強敵で結構苦労したが、その分褒賞は多くもらえたし、名を売ることもできた。

 結果オーライだった。


 そんな激動だった年の年末。


「よいしょ」

「ほい」

「よいしょ」

「ほい」


 俺たちは自宅の前で餅つきをしていた。


「お正月といえばお餅です。お雑煮やアンコやきな粉をたっぷりつけた焼き餅が食べたいです」


 ヴィクトリアがそんなことを言い出したからだ。

 ヴィクトリアが言うだけだったら放っておいたのだが。


「お雑煮ですか。銀も久しぶりに食べたいです」


 と、ヴィクトリアにつられた銀が、故郷の味を懐かしむような発言をしたので、それを聞いたエリカが、


「それじゃあ、作ってあげますね」


と、言ったので、作ることになったのだった。


 そもそも、お雑煮ってどんな料理?


 と、俺は思ったが、それについてはエリカがフソウ皇国で買ってきた料理本に詳しく書かれていたので、作るのに支障はないようだ。


 おかげで、『空間操作』の魔法でナニワの町まで行かされて、餅を作る道具やら、もち米やら、アンコやらを買ってこさされたわけだが、まあ、みんなが楽しんでくれるのなら、大した苦労でもないので構わないが。


 というわけで餅つきをしているわけだが、餅つきをしているとなぜかご近所さんが集まってきた。

 皆、口々に、「何をしているんですか」と聞いてくる。

 まあ、この辺では他に誰もやっていないからな。珍しがるのは当然だろう。


「へえ、こうやって作るんですねえ」


 ご近所さんたちは俺たちが餅つきをしている間、物珍しそうに見学していた。


「みなさん、どうぞお持ちください」


 出来上がったお餅のうち、自分たちで食べる分以外はご近所さんにおすそ分けした。

 アンコを餅で包んだアンコロ餅にしたから、ちょっと焼くだけでおいしく食べられるはずだ。


「ありがとうございます」


 ご近所さんたちは嬉しそうにそう言いながらお餅を持って帰った。


 なお、この時ご近所さんが持って帰ったお餅が評判となり、ノースフォートレスで新年にお餅が食べられるようになり、やがてノースフォートレスの年末の恒例行事として餅つき大会が広まっていくのだが、それはまた別の話である。


★★★


 年が明けた。


「さあ、それじゃあ、神殿に新年のお参りに行くぞ」


 朝、朝食を軽く食べた後、俺たちは全員で神殿へ新年の参拝に出掛けた。

 さすが正月だけあって人通りが多かった。


「フランクフルト、いかがですか」

「2本ください」

「りんご飴、おいしいですよ」

「2つください」


 途中、恒例行事のようにヴィクトリアが買い食いをしているが、呆れはするものの誰も何も言わない。

 言ってもヴィクトリアはやめないだろうし、自分の分だけでなく預かっている銀にも、


「銀ちゃん、お食べ」

「ヴィクトリア様、ありがとうございます」


ちゃんと買ってやっているので、あまり強く言えないのだ。


 さらに。


「カステラ、食べますか」


 そう他のメンバーにもお菓子をくれたりもするようになったのでなおさらだ。


 そうこうしているうちに神殿に着いた。

 新年ということもあり、拝殿の前には多くの人が並んでいた。


 俺たちはその列に並んで順番を待つ。

 しばらく待つと、俺たちの番になる。


「今年一年、みんなが幸せに暮らせますように」


 そうお祈りをすると、神殿を後にして家に帰った。


★★★


「新年明けましておめでとうございます」

「「「「あけましておめでとうございます」」」」」

「それでは、かんぱい」

「「「「かんぱ~い」」」」


 家に帰ると、新年会をした。

 とりあえず乾杯をして、酒やらジュースやらを一気に飲み干す。

 そして、飲み終わったらもう一杯注ぐ。


「それと、ヴィクトリア。誕生日おめでとう」

「ヴィクトリアさん、おめでとうございます」

「ヴィクトリアちゃん、おめでとう」

「ヴィクトリア様、おめでとうございます」

「みなさん、ありがとうございます」

「それでは、もう一度、かんぱい」

「「「「かんぱ~い」」」」


 今度はヴィクトリアの誕生祝いで一杯やった。


「それでは、お待ちかねのプレゼント贈呈式だ」


 1杯やった後は、ヴィクトリアへのプレゼント贈呈式だ。

 みんながそれぞれ心のこもったプレゼントを渡していく。


「うわあ、ありがとうございます。それでは開けさせてもらいますね」


 エリカは微細な細工が施された高級櫛、リネットは銀のイヤリング、銀は手製のビーズで作ったブレスレットだった。

 そして、俺は。


「これは、お酒ですか」

「そうだ。お前が前から飲みたがっていた30年物のヒートン産ワインだ。注文して届くのに1か月もかかったんだぞ」


 どや顔でいう俺に対してヴィクトリアが微妙な顔をする。

 あれ?絶対喜ぶと思ったのに。


「あれ、気に入らなかった?」

「そんなことはありません。ありがとうございます。おいしく飲ませてもらいます」

「そうか、よかった」


 そうは言ってみたものの、自分のプレゼントが女の子へ贈るものとしては微妙だったことを、俺は悟らざるを得ないのだった。

 だから、俺はあることを思いつき、実行することにする。


★★★


 その後、新年会兼ヴィクトリア誕生会が開かれた。

 雑煮を食べながら、ごちそうを食うという一風変わった宴だったが、雑煮や料理はおいしかったので満足だ。


「そういえば、ヴィクトリアちゃんは正月が誕生日だって何で去年言わなかったんだい?言ってくれていたら去年もお祝いしてあげてたのに」

「単に忘れていただけですよ。神様って、自分の誕生日とか無頓着ですからね」

「そうなんだ。それで、今年で何歳になったんだい?」

「19歳ですね。……(下二桁は)」


 うん?今、ヴィクトリアのやつ、ボソッと下二桁とか言ったような。……まあ、聞かなかったことにしておこう。


「ふーん、意外と若いんだな。羨ましいよ」

「ありがとうございます」


 リネットにそう言うヴィクトリアの声は、後ろ暗さを感じているのか、どこか上ずって聞こえた。

 そうやって宴が進み、酔ったり疲れたりしたみんなが横になった頃合いで、俺はヴィクトリアに耳打ちする。


「さっきはプレゼント微妙なのやって悪かったな」

「いえ、そんなことは」

「いいんだ。それで、代わりと言っては何だが、来年の誕生日にお前の好きなものをやるよ。考えておいてくれ」

「本当ですか」

「本当だ」

「わかりました。考えておきます」


 この時の話はこれで終わった。


★★★


 その晩、ワタクシは眠れませんでした。

 来年、何をおねだりしようかと考えていたからです。

 そして、思いついたもの。


 ホルストさんの子供です。


 ホルスター君を見ているうちにワタクシもいつの間にか自分の子供が欲しくなっていたのです。

 ただ、そのためには。


「もっと、ホルストさんといい関係にならなければ」


 そうでなければ、さすがにそんなことを頼めません。


「よし、頑張るぞ」


 ワタクシは、今年の目標としてそれを定めるのでした。

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