第95話~武術大会へ向けた修行~
武術大会へ向けて修行することにした。
当初は乗り気ではなかったが、エリカにこんなことを言われたので頑張ることにした。
「私やホルスターにパパのカッコいいところ、見せてくださいね」
それを聞いて、俺はがぜんやる気が出た。
レジェンドドラゴンではしくじったけど、これはホルスターやエリカにいいところを見せるチャンスだと思ったからだ。
だから、武術大会のために毎日みんなと訓練している。
大規模訓練場の講習会がある日は居残って練兵場を使わせてもらっている。
講習会が休みの日は近くの平原へきて訓練している。
それで、今日は休みなので一家全員で近くの平原へパトリックに馬車を引かせてきた。
「私も参加しますね」
この訓練にはエリカも参加している。
どうやら現場復帰するときに向けて少しでもパワーアップしておきたいらしかった。
「ホルスターちゃんの面倒は私が見ていますから、エリカ様、頑張ってくださいね」
エリカが訓練している間は銀がホルスターの面倒を見ることになっている。
「ホルスターちゃん、銀おねえちゃんと遊びましょうね」
「あう、あう」
ホルスターは銀に結構なついているようで、銀と二人だけでも泣いたりするようなこともなく、仲良くやっているようだ。
銀もよくホルスターをかわいがり、あやしてくれたりている。
それを見ていると、本当の姉弟みたいでほほえましかった。
うん、ホルスターの成長のためにも銀の成長のためにも、中々いい傾向だと思う。
ちなみにヴィクトリアとリネットもホルスターの世話を手伝ってくれる。
おしめを交換してくれたり、お風呂に入れてくれたりする。
「今日はヴィクトリアお姉ちゃんとリネットお姉ちゃんと一緒にお風呂に入りましょうね」
昨日もそうやってヴィクトリアとリネットが風呂に入れていた。
みんなよく手伝ってくれていて、非常に感謝している。
さて、与太話はこれくらいにして鍛錬と行こうか。
★★★
「『神強化』」
俺は自分に強化魔法を使う。
今までは訓練の時に使っていなかったのだが、最近ある事実に気が付いて訓練の時も使用することにしたのだ。
というのも、実は最近ある事実に気が付いたからだ。
それは一人で剣の素振りをしている時だった。
俺はエリカと駆け落ちして以来、毎朝500回剣の素振りをすることを日課にしている。
最初のころは1時間ほどの時間がかかり、終わったらくたくたになっていたものなのだが。
「あれ?500回素振りしたはずなのに、30分しか経っていない」
最近になって素振りにかかる時間が極端に短くなっていることに気が付いたのだ。
訓練の成果が出たのかなとも思ったが、それにしても成長が速すぎた。
今まで10数年訓練して1時間で500回振るのが限界だったのに、それが1年で急に倍になったのだ。
ありえない成長スピードだった。
しかも普通なら剣を振れないくらいにはくたくたになっているはずなのに、まだまだ素振りができるくらいには元気なのだ。
とても信じられるものではなかった。
まるで『神強化』で強化しているような感じだった。
そこまで考えて、ハタと思った俺はヴィクトリアに聞いてみた。
「最近、俺が急に強くなったのって、『神強化』が関係してたりする?」
俺の話を聞いたヴィクトリアは、あ、という顔をした。
その顔を見て、俺はこいつ絶対忘れていたなと思った。
こんな重要なことを言い忘れるなんて、これは反省させる必要があるな。
そう思った俺は、ヴィクトリアをじっと見た。
すると、ヴィクトリアは慌てて言い訳を始めた。
「えーと、そんなのは知りませんね。……ただ、何せ神様が作った魔法ですからね。そういうのもあるかもしれませんね。いや、絶対あるはずです。うん」
明らかに言い方が変だったので、こいつに反省を促すためにも追及してやることにした。
「お前、実はこのことを忘れてたんじゃないだろうな」
「そんなことないです。言い忘れてたはずがないじゃないですか」
こいつアホだ。
その言い方だと、自分が忘れていたと自白しているものだぞ。
俺はその点をついてやる。
「言い忘れてたはずがない。だって?知らないとか言ってたのに、言い忘れてたとか意味不明なんだが」
「……」
「正直に話せ。今なら許してやる。嘘をつき続けてもいいが、その場合、お前の話が嘘だと判明した時、今度やるホルスターの誕生祝いにお前だけ連れて行かないからな。折角、豪華な料理を用意して、知り合いやギルドのみんなを呼んで楽しくやるつもりなのに、お前だけ出られないなんて、残念だな。あー、本当に残念だな」
「ごめんなさい。知らないというのは噓でした。許してください。ホルスターちゃんの誕生祝いには連れて行ってください」
そこまで言うとヴィクトリアがようやく噓を認めた。
泣きながら許しを乞うてきた。
「お前なあ。泣くくらいなら最初から謝れよ」
「だって、だって」
「わかったよ。許してやるから、もう泣くな。で、なんで言わなかったんだ」
「それは、……忘れていました。てへ」
このヤロ。泣いていたくせに最後は笑ってごまかそうとしやがった。
実は反省してないだろと思ったが、まあ、いい。
これで『神強化』に成長促進の効果があることが分かったわけだし、それを利用して訓練することにする。
★★★
『神強化』を使った訓練は順調だ。
今、リネットと剣を交えての基礎訓練をしているのだが、ものすごく調子がいい気がする。
「やあ」
「とう」
カキンと、剣と剣がぶつかり合ういい音が周囲に響く。
こういういい音がするときはいい訓練ができている証拠だ。
こうして、俺たちの訓練は順調に進んでいる。
ちなみに、今回、リネットは『戦士の記憶』を訓練に使用している。
リネットだけでない。
エリカもヴィクトリアもそれぞれ、『魔法使いの記憶』、『僧侶の記憶』を訓練に使用している。
というのも、これらのアイテムは戦闘中に使うと、戦闘能力を上げてくれるアイテムなのだが、『神強化』同様、使うと成長促進効果があるみたいなのだ。
だから、訓練でも積極的に使うことにしたのだ。
「うん、これはいいですね。魔力の循環がいつもよりいいような気がします」
「そうですね。ワタクシもなんか調子よく訓練できますね」
エリカたちも順調に訓練できているようで何よりだ。
こうして訓練は順調に進んだ。
★★★
「はあ、はあ」
「はあ、はあ」
剣戟の練習を開始して1時間くらいすると、さすがに疲れてきた。
『神強化』や『戦士の記憶』で大分緩和されているとはいえ、かなり全力でやっているのだ。
疲れるのは当然だった。
「少し、休もうか」
みんなで集まって昼食をとることにする。
「私は中でホルスターにお乳をあげますので、みなさんは先に食べていてください」
エリカは馬車でホルスターに母乳を飲ませるつもりらしいので、俺たちは外に敷物を敷いて食事をすることにする。
今日の昼食は焼きそばだ。
焼きそばは依然フソウ皇国で食べたことがあり、また食べたいとは思っていたのだが、この度エリカがソースと麵の再現に成功したのでこうして食べられるというわけだ。
「まずはお肉を焼いて~、十分焼けたらお野菜入れましょ~。いい匂いがしてきたら麵入れて~、最後はソースをかけて~、さあ、完成」
今回焼きそばを作るのはヴィクトリアだ。
謎の鼻歌を歌いながら作っているが、まあこいつは機嫌がいい時にはよく鼻歌を歌うので、よく見る光景だ。
大方、久しぶりに焼きそばが食べられるのでうれしいのだと思う。
「できましたよ」
そうこうしているうちに焼きそばができた。
「「「「いただきます」」」」
うまい!
久しぶりに食べた焼きそばは非常にうまかった。
焼きそばはだれが作ってもそこまで味は変わらないから、これもひとえにソースと麺を再現したエリカのおかげだと思う。
本当エリカの料理の腕には脱帽するしかない。
「これおいしいですね。癖になりそうです」
銀など特にお気に入りのようで2回ほどおかわりしたほどだった。
「あら、おいしそうですね」
そのうちに、ホルスターへの授乳が終わったエリカも合流し、結局、みんなで仲良く昼食を食べたのだった。
★★★
昼食が終わったら訓練を再開する。
今度は魔法に対応する訓練だ。
「『火矢』」
「『風刃』」
エリカに魔法を放ってもらって、それを撃墜したり、時にははね返したりする。
武術大会では魔法やマジックアイテムは使用禁止なので、この訓練はあまり武術大会向けではない。
だが、俺たちは冒険者で武術大会はあくまでおまけだ。
だから、こうやって実戦向けの訓練もしているのだ。
「『氷弾』」
「『土壁』」
はね返した魔法はエリカが魔法を使って相殺する。
これもエリカにとって訓練の一環だ。
敵に魔法を使われた時やはじき返された時に対応するための訓練なのだ。
「『防御結界』」
時にはヴィクトリアが俺とエリカの間に入ってきて防御魔法を展開することもある。
これももちろんヴィクトリアの訓練だ。
こうやって「『防御結界』」を何度も使わせることによって、頭の中にここぞという時に魔法を使わせることを刷り込むようにしているのだ。
もちろん、これが実戦で役に立つかはわからない。
ただ、訓練とは技術を磨く以外にも、実戦を想定した練習という側面もある。
やっておいて損はないはずだ。
やれることはやる。
その方針で全員が頑張っている。
中々できそうでできない良いことだと思う。
その後も訓練は続き、気が付いたら夕方になっていたので帰ることにした。
帰りの馬車の中では疲れたのか、御者をやっている俺以外は全員寝ていた。
みんなすやすやと寝ていて愛らしい寝顔をしている。
それを見ていて俺は思う。
ああ、みんなと一緒のパーティーになれて俺は本当に幸せだ、なと。
こうして、俺たちの訓練は順調に進み、やがて春が過ぎ、夏も終わりに近づき、武術大会の日が来た。




