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第94話~武術大会参加要請~

 ホルスターが生まれてから1か月ほどが経った。


「うーん、ホルスターは今日もかわいいな」


 その日も俺は朝から、絶賛、親ばかぶりを発揮していた。

 朝からベビーベッドで寝ている息子の顔を眺めては、終始ニヤニヤしている。


「ホルストさんだけズルいです。ワタクシたちもホルスター君を見たいです」


 俺が息子を見ていると、ヴィクトリア、リネット、銀がそうやって割り込んできた。


「仕方がないな」


 俺はしょうがなしにヴィクトリアたちに席を譲ってやった。


「わーい。ありがとうございます」


 俺に代わってヴィクトリアたちがホルスターの前に立つ。


「わあ、かわいいですねえ。おお、よしよし、いい子でちゅねえ」

「本当、ホルスターはお父さんに似ていい男になりそうだな」

「銀姉ちゃんも、ホルスターちゃん、大好きですよ」


 3人でホルスターに声をかけながら、ちょこちょこと顔を撫でてやったりしている。

 それを見て俺は思う。


 ほほえましいな、と。

 こういう光景がいつまでも続けばいいな。

 本当にそう思う。


「旦那様たち、そろそろ出かけるお時間ですよ」


 もう、そんな時間か。

 仕方なく俺とヴィクトリアとリネットは、ホルスターと別れ、出かけるのであった。


★★★


「おらあ、お前らどうした。その程度で終わりか。根性のない奴らめ!お前らの先輩はこの程度の訓練、きちんと耐え抜いたぞ。罰として、グラウンド10周して来い!」


 俺たちが向かった先、それは冒険者ギルドの大規模訓練場だった。

 そう、新人講習会の第2期が始まったので、再び講習会の教官をやっているのだ。


「お、やっているね」

「あ、ダンパさんどうも」


 今日は珍しくギルドマスターのダンパさんが見学に来ていた。

 ダンパさんは終始ニコニコしながら見学していた。

 この前の講習会が大成功を収めたからだ。


「この前の講習会に参加した子たちの中からDランクに昇格した子たちがもう10人になったんだよ」

「へえ、それはすごいですね」


 普通は最下級であるEランクからDランクの昇進へは数年かかるものなのだ。

 それなのに訓練終了から2か月もたっていないのに10人も昇格したのだ。

 これはかなり速いペースである。

 ダンパさんの顔がほころぶのも当然というものだ。


「だから、周辺の町はもちろん、遠くのほうの町のギルドからも問い合わせが来てね。講習会に参加させてもらえないかってね」

「そうなんですか」

「そうなんだよ。それに今回から新人だけでなく、Eランクに5,6年もいるようなうだつの上がらない冒険者も参加できるようにしたんだ。彼らのこともどうにかしてやりたいからね」


 そういえば今回、ちょっとくたびれた感じのおっさん冒険者が結構いるなと思っていたが、そういうことになっていたのか。はじめて知ったよ。


「そういえば、今回ちょっと年上の人が多いと思っていたら、そんなこともしてたんですね」

「そうなんだ。それにね、講習会の成果を受けて、国から補助金が出ることになったんだ。失業者対策ということでね」

「失業者対策?ですか」

「ああ、魔物たちに故郷を滅ぼされて冒険者になる人って多いだろ?そういう人たちのための失業対策ということさ」

「なるほど、そういうことですか」


 確かにそういう人は多い。

 近年、魔物たちが人間の町や村を滅ぼす例が増えていて、それで流浪の民が増えているというわけだ。

 現に、今回の講習の参加者の中にもそういう人は多かった。


「それは素晴らしいことですね」

「ああ、素晴らしいことだよ」

「あ、そういえば今回から教官に補助員とかが付いたのも、そこから資金が出ていたりします?」


 補助員。訓練で教官の指導の補助をやる人のことである。

 今いる補助員の人たちには元冒険者の人々が多く、将来的には俺たちのやり方を学んで正規の教官にする予定である。

 ただ、元冒険者だけあって、実力もそれなりで経験も豊富な人も多く、すでに今の時点で十分指導の役に立ってくれている人も多い。


「出ているよ。あの方たちにはいずれ正規の教官になってもらうつもりだからね。ホルスト殿たちをいつまでも教官にしておくのももったいないという意見もあるし。君たちだって、いずれ現場復帰するんだろう?だから君たちがいるうちに、彼らも教官として通用するようにしておきたい。そういうことだ」


 ダンパさんはそう自分の思いを熱く語った。

 最初会ったころはよくわからなかったが、ダンパさんは熱い人だ。


 ギルドいや、こうやって流民のような困っている人のことまで考えて大規模訓練場を作ってしまったような人だ。

 その行動は尊敬に値すると俺は思っている。

 こんな人がギルドマスターで、本当にここのギルドはいい場所だと思う。


「ところで、ホルスト殿」


 ここでダンパさんが突然話題を変えてきた。


「何ですか」

「後で相談したいことがあるんだ。今日の講習会が終わったら、お手数だけど、リネット君と一緒にギルドの執務室まで来てくれないかな?」

「いいですよ」


 一体何だろうと俺は思ったが、断る理由もないので受けることにした。


「それではお願いする。私はもう少し見学したらギルドに帰るから」


 そうして俺とダンパさんはその時は別れた。


★★★


 ダンパさんが帰った後も地獄の訓練は続く。


「おらあ、まとめてかかってこい」


 今日は集団で魔物と戦う時の訓練をしている。

 俺やリネットを魔物に見立てて、数名で連携して攻撃してくるという訓練だ。


 魔物を討伐する依頼において、仲間と連携するというのは大切な技能だ。

 だからこそ、練習でそのやり方を身に着けてもらおうというわけだ。


「お前ら、今日の訓練では事前にチームで役割を決めておけといっただろ。全然じゃないか。作戦を練り直してもう一度だ」

「はい」


 そうやって次々に訓練生たちを鍛えてやっていると。


「はい、みなさん、治療の時間ですよ」


 エリカが魔法実習生を連れて訓練生たちの治療に来た。

 今回、エリカも一応講習会に参加してくれている。


 ただ、子供の世話もあるので出勤は午後からだ。午前中はヴィクトリアが基礎訓練を行うことになっている。

 あいつだけに訓練を任せて大丈夫かと思うが、割と評判はいいらしい。


 「はーい、みなさん。魔力を集中するときは……」


 とか、エリカを真似て何とかやっているみたいだ。

 まあ、補助員さんもいることだし、何とかボロを出さずにやっているようだ。


 なお、エリカは講習会にホルスターを連れてきている。

 なんでも横にゆりかごを置いて寝かせて、その上で講習しているとのことだ。


「ホルスターちゃん、かわいいですね」


 実習生の女の子の間でもホルスターは人気のようで、結構かわいがられているらしい。

 うん。我が息子ながら羨ましい限りである。


 さて、治療が始まると訓練生たちがぞろぞろと集まってくる。

 地獄の訓練もこの時間だけは窯のふたを閉じる。


「『小治癒』」

「『体力回復』」


 訓練生たちが治療を受け、ほっとした顔になる。

 俺もエリカに淹れてもらったお茶を飲んで一息つく。


「教官殿はお強いですね」


 俺がお茶を飲んでいると訓練生が一人話しかけてきた。


「そうか?」

「それだけ強いんです。今度行われる王国武術大会とかには参加されないんですか」

「武術大会か」


 王国武術大会はここヴァレンシュタイン王国で年1回行われる武術大会だ。

 王国の各都市で持ち回りで行われており、俺が小さいころには故郷のヒッグスタウンで行われたこともあった。


 今年は、確かここノースフォートレスで開催されるはずだ。

 武術大会には国中、いや世界中から腕自慢の猛者が集まってくる。

 まあ、確かに興味がわく大会だが、俺は戦闘狂というわけでもないし、腕自慢をしたいと思ったこともないので、そんなに参加したいとは思わなかった。


 だから、こう言ってごまかしておくことにする。


「まあ、考えておくよ」

「もし参加されるのなら応援に行くので、その時は教えてくださいね」


 この時の武術大会の話はそれで終わった。


★★★


「ホルスト殿とリネット君、武術大会に参加してくれないか」


 講習会終了後、ギルドに赴いた俺とリネットに、開口一番、ダンパさんがそう言った。


「武術大会ですか」

「うん、あれ、今年ここで開かれるだろう?だから、ギルドからも強い人を出王させなければという話になってね」

「はあ」

「だから、うちの有力冒険者チームの人たちにも声をかけていてね。君たちにも声をかけたというわけだ」


 そこまで言うと、ダンパさんは頭に下げた。

 さっきも言った通り、俺は武術大会についてはどうでもよかったのだが、今回はリネットが乗り気だった。


「是非、参加させてくれ」


 前のめりになってそう宣言してしまった。


「おお、リネット君は参加してくれるか」

「はい、頑張ります」


 ダンパさんは手をたたいてリネットの参加を喜んでいる。

 そして、ちらちらと俺のことを見てくる。

 こうなってしまったら仕方ない。


「わかりました。俺も出ます」


 こうして、俺も武術大会に参加することになるのであった。

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