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閑話休題12~その頃のヒッグス家その4~

「トーマス様、エリカから荷物が届いております」


 エリカの父親のトーマスが執務室で書類仕事をしていると、妻のレベッカが入室してきた。

 手には大事そうに小さな小包を抱きかかえている。


「エリカから荷物だって?本当か?見せてくれないか」

「はい、どうぞ」


 トーマスは妻から小包を受け取ると急いで開けてみる。

 中には、手紙が1通と、さらに梱包された品がいくつか入っていた。

 その中からトーマスは手紙を取ると、ペーパーナイフで丁寧に封を開ける。


「どれ、どれ」


 トーマスは手紙を読む。


★★★


***


 拝啓。新緑の候、お父様、お母様におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申し上げます。



 さて、早速でありますが、ご報告したいことがあるので手紙を出させてもらいました。


 この度、私めでたく出産いたしました。生まれたのは元気な男の子です。


 旦那様にホルスターと名付けていただきました。


 ホルスター・エレクトロン。


 いい名前だと思いませんか。


 お乳をよく飲む子で、日々すくすくと成長しております。


 旦那様に似て、生まれつき高い魔力を持っているので、将来優秀な魔術師になれる素質を持っております。


 私も出産後の経過が順調で母子ともに元気でやっております。


 旦那様をはじめ、周囲の人々からたくさんの祝福をいただき、うれしい限りです。


 旦那様など、ホルスターのためにレジェンドドラゴンのお守りが欲しいからと言って本当に狩りに行って、レジェンドドラゴンを狩ってくるくらいはしゃいでいました。


 まあ、お守りでは飽き足らず、ホルスターが生まれた記念に飾っておくとか言って、レジェンドドラゴンの頭のはく製まで持って帰ってきたので、子供が泣くからいらないと叱っておきましたが。


 そんな風に私たちは元気でやっておりますので、ご心配なさらないように。


 お父様とお母様も元気でいてください。




 エリカ・エレクトロン



追伸


 本当はホルスターの顔を見せに帰ろうかとも思うのですが、首も座ってないような子なので移動もままなりません。


 代わりに写真を送りますので、顔を見てやってください。


 一応、旦那様の実家の分も渡しておきますので、旦那様への仕打ちを反省しているようなら渡しても構わないです。


***


★★★


 手紙を読んだトーマスの顔がほころんだ。

 いつも真面目な顔を崩さない彼にしては珍しいことであった。


「トーマス様?」

「おっと、僕だけ喜んで悪かったね。実はエリカに男の子が生まれたそうだ。名前はホルスターというらしい」

「本当ですか?」

「まあ、手紙を読んでみなさい」


 トーマスはそう言いながら妻に手紙を渡し、自分は梱包された荷物を開ける。

 中には、娘夫婦と子供が写った写真と、子供だけの写真がそれぞれ2枚ずつ、木製の写真入れに納められて入っていた。


「これが孫か」


 写真を見たトーマスの目から思わず涙がこぼれる。

 普段感情をあらわにしない彼にしては珍しいことだったが、それだけうれしかったというだけの話である。


「まあ、トーマス様だけズルいです。私にも見せてください」


 トーマスだけが写真を見るものだから、レベッカが怒ったりもしたが。


「そう言うな。僕だってもうちょっと見たい」

「それでは一緒に見ましょうか」


 そうやって、最後は夫婦で一緒に孫の写真を見るのだった。


★★★


 数日後。


 ホルストの父、オットーはトーマスの執務室に呼び出された。

 呼ばれたオットーは非常にビクビクしていた。

 最近、息子のことで失態を演じて罰を受けたばかりで、この上何か罰でも受けるのかと、疑っていたからだ。


「失礼します」

「やあ、よく来てくれたね」


 おや、と執務室に入ったオットーは思った。

 なぜなら、部屋にはトーマスだけでなく妻のレベッカもいたからだ。


 オットーは自分がレベッカにあまりよく思われて宇ないことを知っている。

 これはますますまずいかも。

 そう思いながら、


「まあ、とりあえず座ってくれ」


トーマスに促されて、オットーは用意された席に着いた。


「それで、今日はどういったご用件でしょうか」

「実はね。エリカから手紙が来たんだ」

「お嬢様から?」

「うん。それで、とうとう子供が生まれたらしい。元気な男の子だそうだ。ホルスターという名前にしたそうだよ。ホルスト君に似て、生まれつき非常に魔力が高くて、将来立派な魔術師になれるみたいだよ」


 そこまで言うと、トーマスは1枚の写真を出してきた。

 そこには生まれたばかりの赤ん坊の姿が写っていた。


「ホルスターの写真だよ」

「これが……孫」


 オットーはホルスターの写真を手に取り、食い入るように見つめる。

 息子のことは快く思っていなかったが、孫となると別なのだろう。

 写真を見るオットーの顔はほころんでいた。


「実はね、この写真、オットーのところの分もあるんだ」

「ほ、本当ですか」

「本当さ。ただし……」

「ただし、簡単にもらえると思わないことですよ。オットー」


 ここでレベッカが口をはさんできた。


「それはどういう」

「エリカは手紙の中でこう言っていましたよ。あなたの所には、ホルスト君への行いを反省しているようなら写真を渡してもいいと言っていましたよ」

「は、反省?」

「私の父もそうですが、あなた、この前反省しろと言ったにもかかわらず、いまだにホルスト君に謝罪の一つもしていないでしょう?それなのに、孫の写真が欲しいだなんて図々しいにも程がありますよ」

「しかし、反省といっても……」

「どうやって反省するかは自分で考えてください。ちなみに、うちの父はホルスト君に謝罪の手紙と子供誕生のお祝いを送るみたいですよ」


 そこまで言うと、レベッカは手を振る。


「ということで、反省したらまたここへお越しください」


 そして、そのままオットーは執務室から追い出されてしまった。

 部屋を追い出されたオットーは、孫の写真をどうすれば手に入れられるのかと、思案するのだった。


★★★


 親父とエリカのじいちゃんから手紙とホルスターの誕生祝いが届いた。


 エリカによると、手紙には俺への今までの行いに対する謝罪が書かれていたらしい。

 らしいというのは、俺はその手紙を読んでいないからだ。


 あいつらの手紙など読む気になれないし、今更謝ってきたところで許す気にもならない。


 ただ、差し伸べられた手を完全に振り払うのもどうかと思う。俺は、まあいいとしても、ホルスターにとってはじいちゃん、ひいじいちゃんなわけで、俺の手でその関係を完全に断ち切ってしまうのは出過ぎたことであるような気がしたからだ。

 だから、エリカに適当に返事を書かせ、返礼を返して、俺はタッチしないことにした。

 今のところあいつらとの関係はそれで十分だと思う。


 さて、胸糞悪いことを考えるのはこれくらいにして、今日も仕事に家族やパーティーメンバーとの親睦に時間を費やすとしよう。

 そのほうが俺の人生にははるかに有益なのだから。

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