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第8話~神に連なる力~

 気が付くとそこは暗くて何もない場所だった。


 足元に光る魔法陣だけが辺りを照らしていた。


「ここはどこだ」


 周囲を見回してみても、本当に何も見えなかった。


「ようこそ」


 突然声をかけられた。女の声だった。


「ふふふ、緊張してますね」


 声の方へ振り向くとそこには光に包まれた女性がいた。

 つやのある茶髪を肩下くらいのミディアムヘアにした女の子で、毛先が少しフワフワしていた。

 背は俺とエリカの中間くらいはある。胸は普通サイズだが、全体的な体型はよかった。


「初めまして、ホルスト・エレクトロンさん」

「なぜ俺の名前を」

「ふふふふ、それはですね」


 女の子は一段声を大きくした。


「ワタクシが女神だからです。ワタクシ、女神のヴィクトリアと申します」

「えっ、女神?」


 俺はもう一度目の前の女の子を見た。


 確かに俺の名前を知っていたことといい、この場所のことといい、彼女を包む光といい、女神だと信じる根拠はある。

 だが、何かが足りない気がした。俺はそれが何かを考えてみた。そして、気がついた。


 威厳だ。この女には神様としての威厳がない。だからそう見えないんだ。


 俺は首を傾げた。


「あっ、信じていませんね。まあ、初めてワタシを見る人は大体そうですけど」


 違う。初めてだからじゃない。そこじゃないんだ。

 俺は目の前のあまりにも威厳のない女神に対してツッコミを入れそうになったが、なんとか我慢した。


「それはともかく、ここはどこなんだ」

「よくぞ聞いてくれました。ここは天界と人間界の間にある異次元空間です」

「異次元?空間?なにそれ?」


 俺には目の前の女神が言っていることがさっぱりわからなった。


「ふふ、人間にはわからないでしょうね。まあ、いつもいる場所とちょっと違う場所くらいに考えていただければ大丈夫ですよ」

「ふーん」


 なんかちょっとバカにされたような気がしたが、俺は聞き流すことにした。


「で、その『ちょっと違う場所』になんで俺は呼ばれたんだ」

「それは、あなたがこの迷宮100万人目の入場者だからです」

「えっ、そうなの?」

「もちろん嘘です」


 驚いた後にひどく落胆した俺の顔を見て、女神はクスクスと笑った。


 なにこの女。


 すごくムカッとした。その感情を隠さず俺は言う。


「それじゃあ、本当は何?まさか、俺をからかうためとか言わないよな」

「言うわけないじゃないですか。今のはただの冗談ですよ。ブラックジョークです。そんなことのために貴重な神の力を使って人間を呼んだりしません」

「そうかい!じゃあ、どういったご用件でしょうか!」

「それはあなたには特別な魔法の才能があるからです」


 女神が急に真面目な顔になった。だが、俺はもうだまされるものかとばかりに警戒を強める。


「魔法の才能?言っておくが、俺は小さい頃から死ぬ思いで魔法の練習をしてきた。実は使えるようになるんじゃないかと思って、人がいないときに今でもこっそり練習している。それでも使えたことはない。そんな俺に魔法の才能がある?冗談もたいがいにしろ!」

「それはあなたの普通の魔法への適性がゼロだからですね」

「ゼロだって?」

「そうです。普通の人なら魔法の適性無しという場合でも本当にゼロということはまずなく、ちょっぴりあったりするんです。その場合、相当な努力をすれば簡単な魔法が使えるようになることがあるんですが……」


 女神がちらっと俺を見る。なんか俺を憐れんだような目だった。こいつにこんな目をされるのは気分が悪かった。


「あなたの場合、本当にゼロなのでいくら練習しても普通の魔法を使えるようになりません。その分、その特別な魔法の適性に全振りしてます」


 こいつの言い方や態度は気に入らなかったが、妙に整合性があって、しっくりときて、納得のいく理由である。

 長年自分が魔法を使えなかった理由がわかってすっきりしたような気がした。


 だからといってこの女神に対する心のむかつきまでなくなるわけではないが。


 それでも、この女神の話は聞く価値があると思ったので聞くことにした。


「それで、それってどんな魔法……ですか」

「なんか言葉遣いがおかしかったような気がしますが、まあいいでしょう。ワタクシは心が広いのです」


 女神はコホンと咳払いをした。


「それは『神属性魔法』神に連なる魔法です」


★★★


「『神属性魔法』?そんな魔法があるなんて聞いたことがないぞ」

「当然です。『神属性魔法』は世の理を覆すことのできる魔法。おいそれとその才能を持つ者が現れたりしません。大体」


 女神は指を折って数えた。


「数十億人に一人というところですね。その中でもあなたのように魔法を使いこなすための膨大な魔力を持った人となると、どれほどの確率になることやら。これはかなりすごいことですよ」


 急に褒められたので多少うれしかったが、今までの態度が態度だったので、俺は素直に受けとれなかった。


「それで、『神属性魔法』って、どういう魔法ですか」

「それは使ってみた方が早いですね」


 女神は俺の正面に立った。


「今から魔法を授けますので、肩の力を抜いて目を閉じてください」

「はっ、はい」


 俺は女神に言われた通りにした。

 女神が手を振りかざす。それと同時に俺の体が光に包まれた。


「あつ。暑い。いや、熱い」


 光に包まれた俺の体が熱くなる。同時に体の奥底から力が湧いてくる。


「なんだ、これは」


 そのうちに俺の頭の中に何やら文字が浮かんできた。


神属性魔法

『神強化』 

『天火』


 そう書かれていた。


「なんか、頭に文字が浮かんできたんだが」

「おっ、成功ですね」


 女神はパチパチと拍手した。


「その頭に浮かんできているのが、今使える神属性魔法ですね。それを使いたいと思うだけで、術式が展開して使用できます。もちろん詠唱もいりません」

「そんな魔法の使い方は聞いたことがないのだが」

「当たり前です。その辺のチンケな魔法と一緒にしないでください。神の恩寵を受けた魔法ですよ」


 女神はエヘンと胸を張った。相変わらずイライラする態度だが、もうそんなことを気にしている場合ではない。


「それで、どういった魔法がありますか」

「『神強化』と『天火』とあるが」

「では、『神強化』を使ってみましょう。神強化は自分と武器の強化ができる魔法です。武器に属性をつけたり、防具に耐性を持たせたりももできます。ただし、自分にしか効果はありません。さあ、それでは剣を抜いて、自分と剣に魔法をかけてみてください」


 俺は剣を抜き、自分の剣に魔法をかけてみた。すぐにドンッと力が湧いてくるのが実感できた。

 取り合えず剣を指で弾いてみる。


「すごく固い!」


 剣がすごく頑丈になっていた。さらにもうちょっと強い力で弾いてみる。剣がぶるるっと震えた。


「これだけの強度なのにこのしなりか。すごいな」


 まさに理想の剣である。


 次に俺は自分の体に『神強化』の魔法をかけ、剣を振ってみた。


「とても軽い!」


 いつもは重く感じる剣が今日は木の枝のように軽かった。

 それに素振りをしていると普段ならすぐに汗だくになるはずなのに、今はそんな気配はなく、いつまでも振り続けられる気がした。


「どうですか」

「すごくいいです。すごいですね」

「ふふふ、神属性魔法のすごさはこんなものではないですよ」


 女神は右手の薬指を立てた。指先に光が集まり球体となった。


「今から本当の『神属性魔法』を体験させてあげます。なあに、ちょっと長く感じますが、実際はほんの一瞬の出来事です」


 その瞬間、周囲が光に包まれた。


★★★


 その世界で俺はユキヒトと名乗っていた。


 今「俺は」と言ったが、ユキヒトは俺とは別の人格のようで俺の思う通りには動かなかった。


「ユキヒトよ。魔王を倒してまいれ」

「ははっ。必ず倒してまいります」


 ユキヒトは勇者で魔王の討伐を王様に命じられた。


「行くぞ!」

「おう!」


 ユキヒトは仲間とともに冒険の旅に出た。


「では神属性魔法を授けましょう」


 ある時遺跡に立ち寄ったユキヒトは女神から神属性魔法を授かった。この女神は俺のと比べて大分良さそうだ。

 いつもニコニコしていて笑顔が愛らしい。本当に大違いだ。


「必ず魔王を倒してきてください」

「はい」


 というか、これが普通で俺のがまともじゃないというのがよく分かった。


 神属性魔法を得たユキヒトは圧倒的だった。


「はっ」

「グエッ」


 次から次へと魔王の部下を倒していき、途中の道に障害があればそれを神属性魔法で排除し、魔王城へたどり着いた。


「みんな、あと一息だ」

「おうっ」


 魔王城へ乗り込んだユキヒトたちは数々の罠を乗り越え、魔王の玉座へとたどり着いた。


 いよいよ魔王との最終決戦が始まる。

次話は間もなく投稿の予定です。

もうしばらくお待ちください。

さて、次回勇者ユキヒトの運命はいかに?

って、主人公代変わってますねwww。

冗談はこれくらいにして、次回もご期待ください。

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