一.五章 : 少年、星の泉を追いかける理由
「ふあぁ〜…」
少年は起床し、可愛らしいあくびをした。
寝相が悪かったのか、枕がずれ、掛け布団は落ち、少年の部屋着ははだけていた。
「お、起きたね…おはよう…」
少年は寝ぼけており、返答までに時間がかかった。
「ん…おはよ…」
やっと返答が返ってきたことを認識した本は、「…とりあえず、服、着て………?」と、少し恥ずかしそうに言った。本なのに。
「…あぁ、ごめんごめん。すぐ着直すよ。」
少年は部屋着を着直して、ベッドから起き上がる。
「それにしても、ちょっと早すぎたんじゃない?」本はそう、質問する。
「大丈夫だよ。『準備は早いほうがいい。時間に余裕があるほど自分に余裕も生まれてくる』って、キミの中に書いてあったよ。」
「えっ!?私の中身読んだの!?えっち!すけべ!アホ!」本は、さっきまでとは違う羞恥心に襲われていた。
「キミを読んではいけないとは言われてなかったよ。言わなかったキミが悪い。」
「あぁそうですか!それは悪うございました!」半ばヤケクソに謝る本。
「ほら、こんなことで喧嘩してると、間に合わなくなるよ。」
「うぅ…それもそうだけどさぁっ…」本は泣きそうだ。本なのでどこから涙がどういうメカニズムで出てくるかは知らないが。
「本、今何時?」
「…4:20だよ…」本はふてくされながらそう言う。
「じゃあ、僕は準備しておくから、本は休んでで。」
「…わかった」
──少年たちは、要塞の国になんの目的も無く来たわけではない。意図的に来た理由は3つ。
一つ、少年が要塞の国の噂を聞いて、彼ら自身の自衛に使える道具や武器、技術などがあると予想したから。
二つ、最も近い国で、最も発展しており、安心だから。
─そして三つ、「星の泉」を観測できる国だから。
星の泉とは、稀に見られる空の現象で、星が一斉に溢れるように動き出し、星が増殖するというもの。とても幻想的で、見たものには多大な影響を及ぼすと言う。
また、溢れる勢いが強すぎるものは、地上にさえ落ちてくるようだ。
といっても、落下する星は大抵小さいもので、被害も少ない。確認された一番大きな事例は、とある寒帯の国にある、一般的な民家の屋根が半壊したぐらい。
一般的な彗星と同じような感覚で観察するのが一般的である。
だが、少年たちにはもっと別の、星の泉が与える影響を求めていた。
少年の傍にいる、本を『取り戻す』ために。少年たちはやってきていた。いつか、その日がやってくるまで、恐らく、世界中を駆け回るのではないか…