第一章 努力とセンス
1話 再開
「青春と俺はまさに月と太陽の関係だ」
よく青春だとか言われる高校生のスタートにつまずき恋も友達作りすらできず高2の夏に入道雲を眺めながら、学校の屋上で1人弁当を食べている少年の名は「小鳥遊唯我」そう俺だ。勘違いはしないでくれ、あくまで充実した時代がなかったわけではない。幼稚園から中一あたりの冬くらいまでは過ごしずつ充実していつた。ただ落ちる時のスピードは早く、一気に仲の良かった奴ら、さらに幼馴染までもが俺の周りから離れていった。それからはずっとこんな調子で話す人は毎日先生と母さんだけだ。いや正確には「だった」。
いつも通り7時半にご飯を食べて家を出て電車に乗り8時15分に学校につき寝ていた。その時俺の記憶にない男子の声が聞こえた。
「いつまでその調子で生きてく気だ」
先生でも親でもない声が俺に向けられたことに理解が追いつかないながらまだ寝ている体に鞭を入れ起き上がる。
「誰もいない」
焦り周りを見回すも誰もいない。気のせいだとし、安堵とショックが同時にやってきさらに眠けとのトリプルパンチに耐えられなくなり顔を伏せようとする。すると次は無駄に元気な女子の声が耳に入る。
「おい!ゆい起きて」
伏せかけた顔を声の方に向ける。そこには綺麗な黒髪を腰まで伸ばし綺麗な肌に整った顔を持った女子がいた。こんな知り合いはいない。しかしどこかで見たことのある顔だった。少し考えて思い出す。そいつは昔俺のあだ名を「ゆい」(唯我の唯だけをとったらしい)と名づけ中1以来一度も喋っていなかった俺の数少ない過去を知る幼馴染だった。名前は「古橋真菜」といい昔のままなら性格は大人しく争いが苦手で周りを気にしてしまうタイプだ。だが今の喋り方を見る限りもうそんな真菜ではないようだ。
「あんたね、いつまであのこと引きずってっか知らないけどその無気力な顔をそこら振り撒くのやめて」
こんなこと言われたらもちろん頭にくるから反撃に出る。
「どちら様か知りませんがその鼻につく作り笑いをやめてくれませんかね。吐き気がするんですけど」
「ふざけないでこの学校でゆいのことちゃんと知ってるひと私含め2人しかいないじゃんか」
そう言って怒る真菜のほっぺたはぷっくり膨らんでいる。その顔だけは昔のままで少し安心する。
「そうおこんな。そんなことより真菜は今わかったけどもう1人って誰だ」
「ゆいの目は節穴なの?私に気づかなくても流石にゆうは気付いてると思ってたんだけど。どこまでゆい腐ったの?今副会長でもうすぐ始まる次の年の会長候補で一番人気じゃん!」
話の整理が追いつかない。高校に入って約一年半幼馴染の2人に気づかなかった。しかもそのうちの1人は副会長で何度も全校集会で前に出て話までしていたらしい。流石にそれすら気づかなかったことに自分も怖くなる。整理できていない状況で喋ろうと口を開くと声が裏返り周りの視線がいっせいに俺に集まる。そこで記憶が飛び気づいたら天井が目に入る。周りを見回すとピンクのカーテンに囲まれていて妙に心地よい薬品の匂いを感じ理解した。俺は今保健室にいるようだ。