我ら山賊、襲撃部隊!
とあるファンタジー世界の、とある国のとある山。
そこで山賊がナワバリとしていた。
そこの山賊達はみな、見ただけで子供達が泣き出す程の強面と、厳めしい体つきの者ばかり。
声も胴間声だったり、嗄れ声だったり、金切り声だったり。
とにかく吐き出される声が例外なく大きくて、聞く者はみな威圧を感じるほど。
服装も山の獣や魔物の皮を使った物が多く、見た目の野蛮さが増している。
そんな連中が、今日も元気にやかましくしていた。
「隊ty……じゃなかった。 お頭ぁ! ヤギの村への襲撃は成功! 食い物、酒、金をたんまりせしめましたぜぇ!」
やかましさ筆頭。 叫ぶと怪鳥と勘違いされかねない、金切り声のヒャッハーがアジトにいたお頭へ報告をしていた。
対するお頭は、その声に少し頭を痛くしながらも、お頭らしく重々しく頷いた。
「そうか。 あの村も随分素直になったものだ」
「ウヒヒヒ! 同じ襲撃メンバーの若い衆は、調子に乗ってあいつらの畑を荒らし回ってましたぜぇ!」
これで次に行くとき、奴らからもっと物をせしめられるぜぇ! なんて叫ぶ金切り声。
そしてその様子を見て耳の痛い思いを押し隠して、お前の部下に大農家の五男坊が居たし、そりゃあ荒らしたくもなるよなぁ。 と、つぶやくお頭。
「もちろん村の連中に戦闘訓練も施してやったから、その分の取り立てもしてやすぜぇ?」
金切り声は、まるで中指薬指を折り曲げて両手の甲を前に突き出しながら、舌舐めずりしている様が幻視出来る語り口で成果を自慢する。
それにお頭が返せる言葉と言えば。
「そうか。 よくやった」
これだけである。
こいつとの会話を切り上げたくなったのだ。
金切り声は耳に、頭に悪い。 引っ掻き回されるような痛みが、頭を襲うので。
だが金切り声は容赦しない。
「ヒャハハハハ!! この山とその近くの街道も、村も町も、全部お頭のモノですぜぇ!
そこらの役人のみならず、王城で働いている奴にも鼻薬が効いてて、やぁりたい放題ぃ!
さあっすがお頭! このままついて行きやすぜぇ!!」
より調子にのって、声のボルテージは天井知らずの絶好調。
金切り具合もより増して、お頭の耳と頭は多大なダメージを受けた。
このままでは不味いと悟り、とにかく金切り声をこの場から下げようと口を開きかけた時、違う手下がやって来る。
「オ頭! 谷の街道で不審ナ動きがありヤす! オレ達以外ノ山賊が入り込み、そノ街道で潜伏。 待ち伏セして何者かに襲撃を行ウ気配あリ!!」
野太く、どこか調子っぱずれな胴間声を持つスキンヘッドな男が、お頭の部屋へ飛び込んできてがなりたてる。
この報告を受けては、のんびり等して居られない。
やおら立ち上がったお頭は、落ち着いてハッキリした声を意識して、宣言する。
「現在アジトにいる総員を召集。 山賊共に我らのナワバリで好き勝手するとどうなるか、地獄で宣伝してもらうぞ」
「へいっ!」
「おウっ!」
居合わせた、たったふたりの手下なのに、声を合わせられなかった失態に頭痛がするお頭だった。
「…………ところでお頭? アジトの守備に人数を割かなくて、良いんですかい?」
金切り声が金切り声を抑えつつ、お頭に確認をとる。 が。
「むしろ少数を残して見張らせると、ここがアジトだと看板を掲げているようなもので、逆に襲われてアジトの物をかっぱらわれちまう」
「は~~。 アジトの安全を確保するつもりが、逆に危険になるんですねぇ。 さっすがお頭」
感心しきりの金切り声に、行くぞと言い残し、出撃の準備を進めるお頭であった。
~~~~~~
手勢を引き連れ、現場までたどり着いたお頭。
現場の人員も含めると、およそ50人がここに集った。
これでもまだ山賊団の一部だと言うのだがら、この山賊団の規模は推して知るべし。
「お頭自らですかい? へへへ……ありがてぇこってす」
「挨拶はいい。 他所者の動きはどうだ?」
かすれていて聞き取りにくい嗄れ声で、嗄れ声らしい歓迎をするが、お頭はとりあわない。
それより外敵が気になるので。
「へい! 連中は土むき出しの街道に工作して穴ボコを掘り、通る予定の馬車が穴にはまって止まった所を狙う計画だそうでやす」
「潜伏していると報告が有るし、今は物陰に散っている……か」
「へい!」
なんだか揉み手で言い寄ってくるぺいぺいの若手商人みたいだなと思いつつ、嗄れ声の報告を聞いた。
連中は街道にそって生える、茂みや森に隠れているらしい。
これで知りたい情報は十分。 敵を逆に罠にはめてやる。
そう意気込んだはいいが、そこで一番重要な話を訊き忘れていた事に気付くお頭。
「連中の規模はどの位だ?」
「20人前後でやす」
「そうか……だったら街道を挟んで左右に半々で別れ潜伏。 連中が動き出したら一緒に動き出して襲撃をかけるぞ」
「分かりやした!」
規模がこちらより少ないと知ってしまえば、対応策は簡単。
馬車を包囲するはずが、逆に包囲されてました作戦だ。
本当は隠れている敵全てを暗殺して、秘密裏に処理できれば良いのだが、ここにいる山賊団でそんな動きが出来るのは2人。
技術を持つ人数が足りず、策として実行できないのだから仕方ない。
目的は、敵を逃さず全員を処理する。
その前に気付かれて、逃げられたらダメなのだ。
なので、敵の潜伏場所より少しはなれた所で半々に別れ、こっそりと様子を窺うことしばし。
「……来ましたぜぇ、お頭ぁ!」
「声を抑えていてもうるさい。 口を閉じてろ」
「分っかりやしたぁ!」
「………………」
金切り声を窘めて、走ってきた馬車の一群を視認したお頭。
馬車が3台に、護衛の騎馬が10騎。
馬車は恐ろしく上等で、それに見合わない護衛。
そんな構成なのに、馬車には紋章が無いところが、どうにも不穏を感じさせる。
どうやらやんごとないお方の、お急ぎの用事らしい。
緊張感は感じられるが、警戒はほとんどしていない。 とにかく急ぐ。
そんなのが見てとれる。
手下達を見回せば、これから起こす戦闘に緊張して、構えた得物の確認を繰り返す。
標的となる敵達も似たようなもので、どうにもソワソワしている。
ガタン!
一台の豪華な馬車が急に止まり、その馬車がたてた大きな音で何が起きたのかと、残りの2台の馬車も動きが止まった。
周囲の騎馬も、馬車が止まった原因を探るべく、馬から降りてワラワラと集まっている。
なんとも隙だらけだ。
「馬車が穴ボコにかかりやしたぜぇ……!!」
金切り声が、要らん報告をする。
が、それは緊張の裏返しなのだろう。
そう決めつけて、お頭は号令をかけた。
「行くぞ、続け!」
勢いよく抜剣。 声を張り、味方の思考をひとつにまとめ、豪華な馬車を襲撃しようと立ち上がった敵を想定外の大声で混乱させる。
『ヒャッハーーーッ!!!』
お頭側の手下だけでなく、街道の向こうからも奇声が飛んできた事に、激しい頭痛を覚えた。
ちなみに襲撃された側の敵山賊は、その奇声でひどい恐慌に襲われたと言う。
戦果は上々。
馬車側も含めて大混乱となり、襲撃は大成功。
みんな怪我なく敵を一人残らず処理できたと、全員で集まって報告された。
あまりにも上手く行きすぎて、書き表す必要が無いほど無難に確実に、コトが進んでしまったのだ。
作戦が成功したは良いのだが、まだ問題は残っていた。
「お頭、どうしやす?」
どうとは、穴ボコにはまった馬車等である。
こちらにビビって戦意を喪失し、これから自分達はどうなるのだろうと、怯えが見える。
それを見て、つまらなそうな顔をしたお頭は、ただひと言をぽつりと。
「行け」
これを聞いた金切り声は、それに大歓喜。
「聞いたか野郎共! おそうぜぇ!!」
テンションは最高に絶好調となって、手下達をけしかけた!
『ヒャッハーーーッ!!』
これぞ山賊団!
お頭を残し、他の全員で馬車へ群がった。
~~~~~~
「お達者でぇ~~!」
金切り声の見送りで、馬車達は去って行く。
全員で穴ボコから出すべく馬車をおした。
さすが戦闘員の面目躍如。
今まで動かなかった馬車があっさりと動き出す。
その間、お頭は何をしていたかと言えば……。
「特殊襲撃部隊、敵の排除に成功しました!」
馬車の主に報告をしていた。
そう。 この山賊は、国の特殊部隊が扮したもの。
山で長期サバイバル訓練をするついでに、山賊のフリをして近隣の村や町にも戦闘訓練をしながら治安も守る。
そんな仕事をしている。
もちろんお頭と呼ばれているのは、いち部隊長であり他にもいる。
特殊部隊達は持ち回りでこの訓練をするが、暴れて感謝されるこの任務を楽しんで行っていた。
「ありがとう。 父上から急ぎの用事ならこの道を使えと、言われていた意味がよく分かった。 助かったよ」
「我々のこの活動は、陛下と直接関係する極一部の者しか知りませんからね。 ご無事で何よりでした」
豪華な馬車の主は、お頭が所属している国の王子。
その王子が行かねばならない、緊急の伝令があるらしい。
それを察知され、今回の襲撃につながった様だ。
「では、お気を付けて行ってらっしゃいませ!」
綺麗な敬礼をしたお頭……隊長に、王子が頷きで返して馬車へ乗り込む。
我ら(国営)山賊、襲撃部隊!
ナワバリの平和は俺達が守る!
ちなみに最初の、村の畑が~ってのも、もちろん文字通り荒らしたのではない。
畑を世話がなってないから、こうした方が収穫量が増えるぞと、農業指導(と土いじりの手伝い)をしていたってだけ。
それを山賊に扮しているから、悪ノリでそれっぽく言い直しただけ。
つまり襲撃ってのは治安維持や現場視察ですよ。
あと、部隊長ごとに呼称が違う。
お頭、親分、オヤジ、兄貴。
それで特殊部隊達の間で、どこの部隊かを見分けている。
…………ん? 金切り声が、誰かに似てる?
気のせいじゃないですか?(泳ぐ目)