2.改めて
色々と考えてみたが、結局のところ自分だけで考えてもさっぱり分からないという結論になった。
なので改めて男を見てみる。
どうやら僕が色々と考えて右往左往しているのをずっと見ていたらしくまだニヤニヤと笑っている。
暇なのだろうか?
良い趣味してますね。
と、嫌みを込めて心の中で呟くと…。
「そんなに褒められると照れるなぁ~」
「っ!?」
という返事が返ってきた、心でも読めるのか?
「そだよぉ~」
…またしても、頼んでもいないありがたいお返事が返ってきた。
会話するのが面倒だから、このまま喋らないでいても良いだろうか?
客観的に視ると、無視を決め込んでる男にずっと話しかけている少し残念な男という図に見えなくもない。
そう考えると、ちょっと面白い。
「いや、喋って!っていうか、なにげにひどいな」
どうやら男は本当にひどいと思っているらしく、最後の方が若干真顔だった。
面倒くさいけど話が進まないので、仕方がないから話しかけてあげよう。
喜びたまえ。
「…君って、意外と図々しいな」
あれ?おかしいな?
何故か、男が呆れている気がする。
人付き合いが苦手だから、人の機微に疎い僕が気付くなんてよっぽどだと思うんだけど…。
冗談のつもりだったんだけど、わかりづらかったかな?
「…はぁ、もういいよ。っていうか全然喋ってないじゃん!もういい加減喋ってよ!!」
呆れたと思ったら、怒られた。
カルシウムが足りてないのかな?
「牛乳でも飲んだ方が良いんじゃない?あ、僕は水でいいよ?できれば、常温でよろしく」
「最初の一言それ!?っていうか、なにさりげなく飲み物持って来させようとしてんの?!」
と言いながらも、律儀にコップに入った水を僕に渡した。
…一歩も動かずに。
「………は?」
思わず声が出てしまった。
でも、考えてみてくれ。
男がいきなりコップが入った水を出したところまではいい。
いや、これも問題だがもしかしたらあらかじめ用意して隠していたかもしれない。
だが、コップを空中に浮かべるのはいくらなんでもおかしい…。
マジック、いや手品か?
いや、それはどっちでもいいんだよ。
多分、言い方が違うだけだ。
でも、そっか。
あれが手品か~。
テレビで以外初めて見たな~。
どうにか、現実逃避することでプチパニックから脱出すると。
それを良しとしない存在が目の前にいた。
指をパチンッと男が鳴らすと、僕の目の前から姿見が出てきた。
そこで初めて僕は自分の姿を見た。
そこには高校生の少年とも青年とも言い難い18歳の男ではなく、12歳くらいの男の子が居たのだ。
僕が右手を動かすと姿見に映ったその子も右手を動かした。
ペタペタと顔や身体を触ると感覚がある。
やはり、この身体は僕の身体らしい…。
あのぽっちゃりとしていた身体が随分と線の細い身体になったものだ。
そこ!僕は太っていない、ぽっちゃりしていただけだから!!
と、混乱していた頭も謎の一人ツッコミするくらいには余裕が出来たらしい。
これを余裕と呼べるのかは今は置いといて。
改めて僕の身体を見てみる。
一番特徴的なのは眼だろう。
右目はコバルトブルー?というのだろうか?
澄んだ綺麗な青い色をしている。
左目は右目とは対照的に濁った紅い瞳。
いわゆる、オッドアイというやつだ。
アニメとか以外で初めて見た。
髪は元のままなのか黒髪らしい。
…少しほっとした。
僕が僕である証とでも言うのだろうか、それが一つでもあると思うと少しだけ安心する。
顔は女顔とでも言う様な整った顔立ちをしている。
どこか作りものめいた美しさがある顔だ。
声も変わっているみたいで、まるで声変わりしていない幼げな可愛い声をしている…はず。
自分の声に関しては、客観視することが出来ないから正直に言うと自信がない。
それにしても、自分のことを褒めている?のにナルシストっぽく感じないのはやっぱりこの身体が僕の身体だと思っていないからなんだろうな…。
「さて、そろそろ話を戻していいかな?」
あ、自分のことに集中してて、男の存在忘れてた…。
…このことは胸にしまっておこう。
男の尊厳的なものを傷つけてしまうからね。
僕って優しい~。
「いや、すでに伝わってるからね?ていうかわざとしてるよね?」
「…ちっ」
「舌打ちって。感じ悪いなぁ~」
「人のことニヤニヤ見るような人に、なんで礼儀正しくしないといけないのか逆に聞きたいんですが」
「…まぁ、いいか。ここで何か言うとまた話が脱線しそうだし」
誰が話を脱線させているのか、問いただしてやりたい。
「ま、話はそこまで難しくないよ?君には魔王をやって欲しい。ただ、それだけ…簡単でしょ?」
…うん、確かに言葉にするだけなら簡単だ。
だが、待って欲しい。
まおうになってほしい。
うん、意味が分からない。
「はい、これ」
いきなり意味不明のことを言われて本日何度目かのパニックに陥っている僕を差し置いて、男はマイペースに懐から何かを取り出して僕に渡す。
「じゃあぁ、ねぇ~」
それだけ言い残して、男は僕の目の前から消えた…。
あまりの急展開に脳の処理が追い付いていない僕は、手に持っている男から渡されたモノに視線を落とした。
そこには………。
借金100億レアと書かれた紙が…。
転生?初日、僕は初期装備どころか国家予算並みの借金を背負わされました…。
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