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神化論  作者: Apolon
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破滅の始まり

平和で豊かな時代に研究に投資しておくことの重要性は世の中が不安定になった時にこそよくわかる。直接利益を生まない地味な研究がある時いきなり脚光を浴びるというのは研究職のあいだではままあることだ。私の遺伝子研究は表立って評価されるには至っていなかったが一部の権力者からは密かな関心を得ていた。

そして実際に世界が終わりを迎えようかという時になると、生命の危機を感じたヒト達は何とか自分たちの遺伝子を後世に残そうとしたがる傾向が顕著になるのだ。

それなりの地位や立場を築いた者ほど自分の遺伝子を残す事が後世のためになるという自負を持っている様だった。

その事は実際私にとって資金面でも研究材料の面でも良い事づくめではあったのだ。

そんな「イケてる研究」をしているという自信が現実を正しく認識する能力を鈍らせてしまっていたのだと思う。


グレン教授ほど振り切れてなかった私は自身の研究テーマを「遺伝子の組み替えと再生」にしていた。「神の遺伝子」などという胡散臭い表現は使わず、「遺伝子が影響する能力の分析」といった当たり障りない言葉を選んで使っていた。

だが研究内容を知る一部の学友や教授からは私の研究はやや禁忌に触れるという認識を持たれていたようだ。たまに学内の倫理委員会の案内をそれとなく渡される事があった。

ヒトだけでなくあらゆる生物の遺伝子をかき集めている私ははたから見るといつか人と他の生物を掛け合わせたキメラてきなとんでもない生命体を誕生させてしまうのではないかと危惧されていたと思う。まあそれは概ね現実ではあったのだが。

私がそうやって遺伝子の沼にのめり込んでいく間にイリーナと距離がいつの間にか遠のいてしまっていることに私は全く気づいていなかった。

彼女の生体バリア研究は同じような細胞培養と遺伝子組み換えが中心で私たちは同じ実験場で長い時間を共有していた。自分が彼女の時間の大部分を共有する人生のパートナー的存在だと勝手に思いこんでいのだ。

そんな私の一方的な思い込みとは裏腹に彼女は実験以外の時間に隙間を見つけて私の関与しない全く別の時間を過ごしていたのだ。

そんなごく当たり前の事実にすら気づけないほど当時の私は視野が狭かった。

そしてその過ちはある日衝撃的な結果で私を打ちのめした。

「ねえ、びっくりするニュースがあるんだけど。」

そう彼女が切り出した時、私はまだ彼女との甘い関係に期待していた愚か者だった。

「え、何?何か受賞でも決まったの?」

「ううん、そういうのじゃなくて、私こんど結婚することにしたの。それであなたをパーティに招待したくて。」

その言葉を聞いた自分の顔がどんな表情をしてたのか想像もつかないが、再現したくてもできない様な顔をしていたことは間違いないだろう。

「え、それは、すごく、急だね。本当にびっくりだ!」

相手はすぐに思い当たった。そしてその予想が裏切られることもなかった。

建前上「おめでとう」くらいは言うべきだったのだろうがそんな言葉は思いつきもしなかった。

彼女が他の男と結婚式するくらいならこんな世界、滅んでしまえばいい。

そんな私の思いがまさか実現するとは自分でも予想していなかった。

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