グレン教授
「いいかね、我々人類は神の遺伝子を次代に繋ぐ方舟なんだよ。だからと言って人類が神に選ばれたと言うわけでもなく、自然淘汰されて生き残っただけの話だ。エジプトやインドの神など世界各地に獣神、つまり獣の姿の神が存在する。神の子孫は種種雑多な生き物に及ぶが、その中で人類が繁栄した。それだけのことだ。ではなぜ神の遺伝子は純粋に神とし残らず分散したのか?要は数が絶対的に少なく繁殖力がなかったんだ。あと縄張り意識も強く同族同士で争い潰しあってしまった。数世紀前の宗教戦争などをみてもその傾向は感じ取れるはずだ。例えばユダヤ教、キリスト教、イスラム教は同じ唯一神を崇めているにもかかわらず戦争を繰り返した。もっと細かく言えば各宗教内でも宗派による争いがあった。その他の神話でもよく神々同士が争った話は多く残っている。」
私とイリーナはそれからしばらくグレン教授の宗教講座に付き合わされた。
宗教が迫害されていく過程で教育を受けた私達にとってグレン教授の話は初耳のことも多く、質問も思い浮かばないレベルで無知だった。
「考えてもみたまえ。君たちの中にもその神の遺伝子が部分的に含まれているんだよ。世界中に散らばったその遺伝子をかき集めてつなぎ合わせることができたら人類は神をこの手で作り出せるんだ。すごい話じゃないかい?」
あり得ないと半分ばかにしていたはずなのに私はこの時のグレン教授にすっかり毒されてしまったようだ。結局私は遺伝子操作を研究し、グレン教授の言っていた神の遺伝子を見つけるに至ったのだから。
「全ては太古の昔に神によってプログラムされていた必然なんだよ。別の言い方をすれば運命ということだ。」
私達3人の出会いを教授はそう締めくくった。イリーナとの出会いを『運命』と言われたことも私がその気になった要因かもしれない。
「ダーウィンの進化論は知ってるだろう?生物は環境に適用するために進化と淘汰を繰り返してきた。神は進化したかったが繁殖力がないためにできなかった。そもそも進化の必要すらないぐらいに完成した存在だった。それでもより圧倒的な力を欲した彼らは他の生物を利用した。他の繁殖力の強い生物に自分達の遺伝子を与え、その生物を進化させることで最終的に進化した神に集約させようと考えたんだ。その結果が我々人類なんだよ。そして人類はその進化した神を再びこの世に呼び出す力を持つに至った。それこそが君たちの成すべき大業なんだよ。」
「それなら何故教授が自分でやらないんですか?そこまでの知識があるならご自分でされた方が簡単でしょう?」
「先にも言ったが私では能力が違うんだよ。もちろんそう試みた時期もあったがその時代の技術ではまだできないことが多すぎた。そして私が持つのは『記憶』であって『能力』ではないんだ。神の遺伝子の存在を『能力』を持つ者に伝えるところまでが私の役目なんだよ。そしていよいよ大学を追われるという瀬戸際でようやくその能力に出会えた。まさに運命と言って良いだろう?」