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8. 美の女神とバラ3

今回でフレイヤの回想終わります。

「実はね、私、偽名を買ったの。」


 はぁ?


 いきなり?


「ほら、王家の姫は城で教育を受けるのが習わしでしょ?でも、お兄ちゃんはちゃんとそれなりの学校に通って、今は大学まで行って。別に私は勉強がしたいわけじゃないけど、私も政治に関わりたいの。そのためには、学校に行かなきゃいけない。でも、」

「姫としてはいけないってこと?」

「そうなの。」そう言って、困ったようにランは微笑んだ。

「お父さまが全然いいって言ってくれないのをお兄ちゃんがなんとか説得してくれてね。私も来年からお兄ちゃんが言ってた学校に通えることになったの。文官貴族の娘としてね。」


 なるほどね。文官の娘なら、学をつけてても不自然ではない、と。それで偽名、か。まあ女が学校なんて、珍しいのには変わりないけどね。


「それで?ボディガードが必要なわけ?」

「ええ。」


 ランが言うには、この国の王族は皆、お抱えの守人、まあボディガードを連れているらしい。それもあからさまにではなく、使用人に紛れ込ませて。


「それで、なんで私なの?」

「だって、お父さまから決められた人じゃ、私の自由にできないでしょ?で、どうしようかなぁって思ってたときにフレイヤを見つけたから、私の守人にしちゃったー」

 さっきのは最終試験よなんて笑うランを見て呆れた。そんな簡単に守人を決めていいわけ?


「でも、あなたは私が何をするためにこの城にいるか分かってるんでしょう?」

「まあ、だいたい?」


 あーなんかイライラする。わかってるなら、私のことを自分の近くに置いていいはずないじゃない!


「じゃあなんで私を守人にするの?」


 自分が利用されるかもしれないのよ?


「別に、いい人そうだったし。」


 はぁ。わからないのかな、私が言ってる意味が。


「いいのね?私は、あなたの敵なのに?」

「どうして敵なの?」

「どうしてって私は……」


 あなたたちが滅ぼした国の生き残りの王族よ?そして今は、あなたたちの国を滅ぼしたい人間の手下よ?敵でないはずがないでしょう!


 って言いたかったけど、言えずに黙った私を見るランの視線を感じた。同情してるのかな。そう思った瞬間、裏切られた。


「いいわよ、あなたの出自は言わなくても。だいたい想像つくから。」


 は?


 そんなはずないでしょう?


「どういうこと?」


 え?と首を傾げるランが次に発した言葉に心底驚いた。


「だって、フレイヤって、北の国の神話に出てくる美の女神と同じ名前でしょ?」


 北の国の神話……


 待って、この子そこまで知ってたの?そんなはずが……


 あるわけない。


 だって、私たちの国には文字がないんだから。


 私たちの国、いやもう国じゃないか…… 私が2つのときに滅びた過去の王国・スベルツア王国には、文字がなかった。

 文字がない王国、なんて今じゃバカにされそうだけど、それなりの国だったのよ、エスリア国との同盟が切れるまでは。


 いや、今は回想にふけってる場合じゃない。まずは、目の前の敵。そんな王国のことなんて、もうあまり覚えてないんだから。


 とにかく、私たちの国には文字がなかったから、北の国の神話はすべて口で語られた。当然知ってるのはスベルツア出身の者、それも高位の貴族か王族のみ。そんな神話をなぜ、この子が……


「どうして……?」聞いても意味ないのに、疑問が口をついて出てきちゃう。

「何が?」不思議そうに聞いてくるランに戸惑う。ううん、この神話が簡単に出回ってるはずがない。だって、これは……


「あ、なんでフレイヤのことがわかるか?だって、スベルツア王族・貴族は皆、神話の神さまの名前をつけるんでしょ?」


 そんなことまで知ってるの?


「それで……」

「やめて、わかったから。」


 ランを遮ると、さも満足そうにランがにっこり笑った。


 この子、全部知ってるんだ…… でもなんで?


 スベルツア王国の王族は皆、神話の神の血をひいている。もちろん、高位の貴族には一定人の王族が嫁いでたから、その人たちもね。そして、その血をひいているものに神話に出てくる神さまの名前をつけると、その神さまの力を少しだけ受け継ぐことができる。


 嘘だと笑えばいい。でも、これ、マジなの。


 私も疑ってた。でも、歳をとるにつれて、本当にその通りになった。


 私の名は、フレイヤ、神話に出てくる美の女神ね。その色気で、多くの神々を翻弄し続けるとんでもない神さま。その名前を受け継ぐ私は、彼女のように、色気で人を動かすことができる。隠密って職業にはぴったりだったし、もし国がまだあったら、外交面とかで役立ってたんだと思う(だからといって普通こんな名前娘につけるか?)。でも疎ましいとかそういう感情はもうない。ただ、言い伝えが事実なんだなって感じるだけ。


 こういうことがあるから、必要最低限の人間しか神話は知らない。不用意に伝えて外部に漏れたらめんどーだしね。


 でも、それをランは知ってる、と。


 なぜ?


 スベルツア出身のものが近くにいるってこと?


 誰?


「ごめんね。ただ、あなたが本当にそうか、たしかめたかったの。」沈黙を裂くように、ランがそう言う。

「どうして?」

「それが私の質問したいことだから。」

「……」

「あなたを守人にするのも、そのことが聞きたいから。」

「なんで……?」


 スベルツアのことが知りたいなら、あなたに神話を教えた人に聞けばいいじゃない。それをなんで、わざわざ私に?


 隠されてるの?


 ふと、そう思った。


 でもなんで?神話は教えて、事実は隠して。何が目的?


 それを知るには、彼女の質問を聞かなきゃいけない。


「で、ランの事情はなんとなくわかったから、質問、聞こうか?」気持ちを切り替えてそう言うと、ランは嬉しそうに笑った。

「ありがとう。」

「別に、取り引きだしね。」

「うん。」じゃあと言ってから、ランは聞いてきた。


「フレイヤ、スベルツアには何が起こったの?スベルツアの人は今、どうやって生活してるの?」

 知りたいのと、目を潤ませながら聞いてくる。相当な覚悟をしてるのかもしれない。

「興味本位なの?」

「半分くらいは。」

「じゃあ、もう半分は?」

「お父さまを死なせたくない。」


 それはどう、つながってくるのかしら?さっきから話が飛びすぎ。


「ほら、さっきも言ったけど、私は別に死なれてもいいのよ?ただ、お母さまが悲しむから。」

「……」(それもどうかと思うけど。)

「誰もスベルツアについては教えてくれないの。歴史の先生まで。それもあって私学校に行きたいんだけどね。」

「どうして、教えてくれないの?」

「わからない。」

 それが一番気にくわないの、そう言いたそうなふくれっ面でランは言った。

「でも、お父さまが一枚噛んでると思う」

「なんで?」

「お父さまはいつもなんでも教えてくれるけど、これはダメって言うから。なんか悪いことでもしたのかなって。」


 そうね。悪いことはしてないけど(ていうかしたのは私のお父さまかもしれないけど)、こうなるきっかけは作ったかもね。


 あいかわらず、鋭いわ。これで6歳だったら、将来どうなっちゃうんだろ。


「そうね、悪いことはしてないけど。」

「やっぱりフレイヤは知ってるのね?」

「ええ、まあ一応」

「教えて!」

 目をきらきら輝かせて、聞いてくる。だからこそ、皆、ランには隠してるんだと思うよ?そんなに期待されるほど綺麗な話じゃないし。


「教えてもいいけど、みんながなんで隠してるか、考えたことある?」

「あるけど」

「けど?」

「そういう理由も含めて私は知りたい。だって、お父さまは自分が悪かったと思ってると思うから、もしそのことで攻められたら……」


 殺されちゃうかもしれないでしょ。


 かすれ声でランが言った。そんなことまで、心配してたの?


 たしかに。あの王様は大抵なことでは殺されなさそうだけど、弱みを突かれたらあっという間に死んじゃうんじゃないか、って心配か。一理あるけど……


「あなたたちを残してまで、そんなあっけらかんに死なないと思うよ?」


「ほんと?」


 大国のお姫さまっていうのも大変なのね。

 振り向いたランの目が赤かったから、思わず、ほんと思わず、手を伸ばしてランの頭をなでてしまった。


「え?」


 びっくりしてランが変な声を出す。一瞬見つめあったけど。すぐにランが泣き出して、私の胸に飛び込んできた。


 あーあ、やっちゃった。


 もう後戻りはできないことはわかってたけど、不思議と嫌な気はしなくて、ランが泣き止むまでそのままだった。



 ランがひと通り泣いてから、私はスベルツアの崩壊の歴史を教えてあげた。私の知ってることはだいたい全部。正直言って、当時のエスリアの状況は全然わからなかったから、それはいずれこっちの人間に聞いてもらわなきゃいけないんだけど。


 私たちスベルツア王族・貴族の生き残りが、今は山の奥でひっそりと暮らしてることを聞いたとき、ランは、「私に任せて」と呟いた。何事かとそのときは思ったけど、その理由は後ほど、私は知ることになる(これもまた別の話だけど、簡潔にいうと、ランが私たちを救ってくれたってところね)。


 話を聞かせながら、あれって思ったことがあった。そのまま話していても、イズンという名前を出すたびに、少しランが反応するのが見て取れた。まあ普通の人間には気づかない程度だから、よくしつけられてるなとは思ったけど。


 イズン。


 スベルツア王国の城が西の国に攻め入られたらあの日。母は当時2つほどだった私を抱えながら、ちょうどお茶をしていた親友と、女官の指示で城から逃げ出したらしい。スベルツアの王族には、脱走とかに長けてた神の血をひいてる人間もいたから、その人の手を借りて、王族と高位の貴族は今身をひそめる山まで逃げられたらしい。でも、母の親友だけは、仲の良かった薬師(この人も一応王族)がいないのを見るや、城裏の森まで駆け戻って行って、それ以来、会えていないのだという。


 その親友の名がイズン。


『でも、彼女は生きてるわ、私にはわかる。』


 王族同士、しかも血が近ければ近いほど、その人の生存は感じることができる。母とイズンは従兄弟だったから、死んではいないということはわかっても、どこにいるかまではわからなかったらしい。


 もしかして……


 歳的にもおかしくないし、もしそうだったとしたら、色々とうまく説明がつく。ランが神話を知ってることも、外見があまりに綺麗なことも。イズンはフレイヤと共に美人と謳われる女神だったから。


「ラン、」すべて話し終えてから、私はランに尋ねた、「あなたの母君はイズンなの?」


 こちらを振り向いて、左の口角を上げたランを見て、答えを確信した。


 よかった。


 捕虜になったのかもしれない、そう言って私の母はイズンのことをずっと心配していた。不幸せだったらどうしようか、と。その後の調査でもずっと見つからないのに、生きていることだけはわかっていたから、気になって仕方がなかったのだ。


 でも。


 そりゃあ見つからないはずだ。当のイズンは(めちゃくちゃ秘密主義な)エスリアの王妃となって、2人も子どもを産んでるんだから。


 多分、彼女の事情を全部知って、それでもエスリアの王様はイズンを王妃にしたんだろう。だから、滅多に王妃は姿を現さないし、エスリアの城の奥で、静かに暮らしている。


 静かに、でも多分幸せに。


 お母さんに早く伝えたかった。


「フレイヤ、あなたのお母さまに伝えておいて、私のお母さまは、エスリアで幸せに暮らしてますよって。」

 ランの言葉に無言で頷く。髪色も目の色も、こんなに違う人と血がつながってるなんて、変な感じがする。

「でも、お父さまを殺されちゃうとそうはいかないんだよなぁ。」

「は?」

「お母さま、お父さまのこと大好きだから。」

 横目で私を見ながら、意地悪そうにランが言う。なるほど。そうやって、私を止めようと思ってたわけね。だから、私を守人にできると自信満々だったの。


 いや待て、ランは私の母のことは知らなかったはずか……


 え?じゃあこれ、全部勘で行動してたの?


 もう一度、ランを見つめてしまう。だとしたらなんて勘がいいんだろう。


「ん?」そうやってにやにや笑うこの子はまだ6歳なのに。


 いや、年齢なんて関係ないか。もう私にはひとつしか道は残されてなかった。


「ラン?」

「ん?」

「私、あなたの守人になってあげる。」

「ありがとう。」


 そう言ってランが笑った。


 いや、どうやってこれから生きてくか、さっぱり計画なんてなかったんだよ?


 どうやったって私は上の命令に逆らえなかったし、家族を守るためにはね。でも、ランといれば、なんとかなる気がした。ランがこんなに勘を頼って生きてるんだから、私もそうしてみよっかなってほんとちょっとした気まぐれだった。


「フレイヤ、帰るよ。」

「帰るよって、ランでしょ、連れ出したのは。」

「うん。」


 それがこんなふうになるなんてね、ちょっと感慨深いわ、今思えば。


「フレイヤ。」

「何?」

「知ってた?フレイヤもう、私に敬語使ってないの。」


 あっ……


 たしかに。


 驚く私を見て、満足そうなランになぜか安心感を覚えた。やっと地に足ついた感じ。


 あれから10年間。ランの側から離れたことは一度もない。


 そして、これからも離れる気はさらさらない。


 だから。


「フレイヤ、あなたはついてきてくれるわよね?」


「ついてくに決まってんでしょ?私だけじゃなくて、サクマだって。ほかのみんなも全員ついてくわよ。」

「そうだよねー」

「決まってんでしょ、ばか。」

「うん。」

「城脱出なんて、おもしろそうじゃない。予定決まったら、すぐサクマと……」

「ううん、フレイヤ、サクマは連れて行かない。」

「今なんて?」

「だから、サクマは連れて行かない。」


 うわぁ。せっかく幸せな気持ちになってたのに。


 修羅場の予感。

ありがとうございました。そろそろストーリー進めていきます(明日はやっと王弟が登場するはず)。明日も0時に投稿の予定。

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