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10. 付き人と女神

すみません。連続投稿は無理でした。

「新ヒタルイ王、エドウィンである!」


「ははははははは!」


 …

 ………


 …あいつ、やべぇ。

 ……いやいつもだけど、今日は特にやべぇ。


 目の敵にしてた兄さんが死んで?ずっと欲しかった王職が手に入って?浮かれてんのはわかっけどさ、だとしても誰もいないところに向かって1人でこの発言は、怖い以外の何でもないよ?


 なんで俺はこんな奴に仕えて……


 いや。考え直せ、どう転んだってこいつは王。俺はこいつに気に入られてるみたいだし、このままいい給料で働いとけばいいんだ……別に……


 あーあ。でもこんな王様、長く続くのかな。


 あの執事長だって、1週間前に即位式と即位パーティの確認に来たっきり、全く姿を現さない。そんときもスケジュール確認だけだったから30分もいなかったし。聞くところによると、王妃さまにつきっきりとか。


 相当心配なんだろうなぁ、あの王妃さまのこと。まあ新しい王様が嫌だってのもあんだろうけど。でもこれからは行動に気をつけないと、この王様は頭がおかしいから、誰でも片っ端から首だぞ?気に入らないと判断したその日に。


 時計を見る。ああ、めんどくさいけど、そろそろ声かけねーと遅刻だ。


「あのぅ、エドウィン様、もうそろそろお支度を……」


「なんだ、お前は俺が楽しんでいるのを邪魔しようと言うのか。」

「いえ、ただお時間ですので。」

「ああ、そうだな。」


 おめえの心配してやってんだよ!こっちは。


「はははははははは!」


 いやなんだかさっきから分かんねーけどさ、やめてくんね?その高笑い。見てんのも耐えらんねー。


 呆れてると奥から女の声がかかって、王様はそっちに行った。あーいいよなー王族は。毎日毎日女を取っ替え引っ替え、まあ俺も人のことは言えねーけどさ。でも全員自分の側女(もの)で、浮気しても文句言われねーとか羨ましいにもほどがある。


 あー、むかつく。


 まあ外見はいいとしてもあの性格だぞ?側女だって金と身分で引っ掛けてるようなもんなのによ。


 戻ってきた王様に続いて外に出るとなんとか媚び入ろうとする側女がいっぱいいて。また、女に囲まれて楽しそうにしてるぞ、この王様。


 今日、新しく女つくるってのに、なんなんだよ。いや、だからこそか?


 昨日の晩、自室のベッドで女が待ってるっつーのに、書斎で王様が酒を飲みながら俺に語ってきた「計画」とやらにはため息しか出なかった。


「アレン、俺はあの姫を正妻にするよ。」

「はい?サキさまですか?」

「ばかいうな。あいつは側女で十分だろ。」

「……」


(いや、今から一緒に寝んだろ?)


「エグランティーヌ姫だよ。」

「……」


 まあ、死んだ王の王妃がそのまま次の王に嫁ぐってのはよくあるパターンだし、この王様にしては筋の通ったこと言ってるけどよ。まじ?


「いいだろう、ウレスのバラだぞ。俺の隣にいるのにふさわしい。」

「……そうですね。」

「かわいそうに、城から追い出されるかと思って自室でずっと泣いてるそうだ。心配せずとも俺の妃にしてやるのに。」

「姫さまも喜ぶでしょう。」


(いくらご傷心とはいえ、次の旦那がこの王様じゃなぁ。)


「ああ、なんてったって俺はこのウレス全土を手に入れる器だからな。すべての国が俺の配下になるのさ。まあ、エグランティーヌ姫が嫌だって泣きつけば、あのエスリアだけは待遇を別にしてやってもいいが。」

「……」

「ははははははは!」


 また高笑いをする王様に呆れ返った。いや、大陸制覇なんて本気でできると思ってんのかな。あの最高の王ならまだしも。


 でも俺は余計なことは1つも言わない。めんどーだし。俺は金と女さえいれば結局どうでもいいんだし。





 王様を着替えの部屋に送り届けたら、俺の今日の役目は終わり。即位式もパーティも貴族と王族の仕事だから、執事の端くれの俺は用無しってわけな。


 廊下をまっすぐ歩いて使用人の部屋の方に行くと、廊下の柱にもたれる美人が目に入る。俺に気づいた美人がそっと笑う。


「ずいぶん遅かったじゃない。」

「ナンナ。」


 そのまま左手をナンナの腰にまわして、右手でナンナの唇を引き寄せる。キスをしようとした瞬間、ナンナの人差し指で唇を止められる。ああ、美人はたまんねー。


「ダメ。私、同じ男と2度は寝ないの。」

「ふーん、じゃあなんでこんなところで俺を待ってたの。」

「ちょっと、王様がどんな様子か気になったのよ。」

「あれ?急に側女志望か?」

「ばか言わないで、私ならすぐに正妻よ。」

「ソウデスカ……」

「で、なんか面白いことあった?」

 目を輝かせて聞いてくるナンナに目が奪われる。美人は罪だ。女官のくせして。


 周りには誰もいなかったけど、一応人目は気にしよう。すぐ近くにあった部屋に入り、鍵を閉めた。扉にナンナの背がつくようにして彼女を囲い込みながら、質問に答える。

「なんか、また1人でぶつぶつ言ってたぞ。」

「いつものことね。」

「昨日の当番はサキ嬢だった。」

「相変わらずロリコンね、あのおっさん。」

「そうでもないだろ、サキ嬢はもう今年で19だ。」

「あら、もう?若さしか取り柄がない子なのに。」

「……あと、なんか大陸制覇するとか言ってたなぁ。シェリとカンタータと同盟を結ぶらしいぞ。」

「よりによってまたあんな裏切り者たちと?どこまでばかなの?」

「いやなんか、俺が騙してやるんだ的なノリだったぞ。」

「うわぁ、きつ……考えたくもないわ……」

「同感だ」

「他には?」

「なんか言ってたっけな……」

「ばかが感染したの?」

「そんなわけ……あ、あの王様、今日ふっかけるとか言ってたな?」

「は?誰を?」

「ウレスのバラ。」

「まさか!」

「本気だったよ、俺の見た限り。」

「あいつに演技なんてできないから、本気ねそれは。」

「まあなって、いてぇ!」


 ナンナの腰をなでていた左手を、思いっきりつねられた。


「それで?いつ告る気なの?まさか即位式でとか言わないわよね?」


 被害を受けた左手を右手でかばう俺はもうナンナを攻め立てられない。いや立場逆転。俺が攻められてる。


 バンッ。


「で、どうなのよ?」


 そばにあった机に床ドンされる。いや、机ドン?そんなことはどうでもよくて。


「やめろよ。」


 美形威力半端ねーから。


「私は聞いてるの。」

「どけ。」

「素直じゃないわね、嬉しいんでしょ私に攻められて。」

「黙れ。」

「誰に向かって口聞いてるつもり?はやく答えなさいよ、いつ?」

「……お前の言う通りだよ、即位式で告るって。」

「まじで言ってる?」

「ああ。」


 やっと上体を起こしてくれたナンナに、襟元を整えながら答える。考えるそぶりまで様になるとは、美人は得だね。


「そう。」

「ん?」

「いや、なんの面白みもないからびっくりしちゃって。」

「そうか?」

「ええ、せいぜいあってもどうやって即位式で王様が振られるかの見物くらいでしょ?」

「……」

「まあいいわ、そんなの。答えが決まってる告白ほどつまらないものはないもの。あーあ、時間無駄にしちゃったーー」

「おい……」

「じゃあまたねーアレン。」

「待てよ……」


 ガンッ。


 もう扉の方まで行ってしまったナンナを夢中で追いかけたけど、あともう少しというところで扉を閉められ、そのまま扉に衝突してしまう俺であった。


 だせぇ。


 扉を急いで開けたけど、もうナンナの姿はなかった。外に出てみると、ちょうど廊下を曲がる女官の姿が見えた。ナンナだろう。


 あれ?


 一瞬だけど見えた背中が2つだった気がする。女官は2人いたのか……


 いや気のせいか、あのナンナがほかの女官と馴れ合えるはずもない。


 ため息をついてから、自分の部屋に向かう。少し眠りたいと思った。

ありがとうございました。また明日の0時に。

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