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【第一章】蒼炎のプロローグ(8)

「でもさ~~レイスくん。そのもともとの種火はどうするのかな? まさかキティにちょっと火つけて~~なんていうわけにもいかないでしょ?」


ポルカがはいはーいと手を挙げる。


「昨日の午前中、Aクラスは魔術演習だっただろ。実戦形式の演習なら対戦相手がキティの魔術を『盗む』ことは可能だ。たとえば……そうだな。腕にでも魔術陣を描いた紙を仕込んでおいて、そこから展開した魔術でキティの術を受ける。あとは適当に試合に負ける。キティが魔力供給を止めて【蒼炎】が燃え尽きる前に自分の魔力をわずかに注いで、小さな種火だけを隠しもったまま演習場を出る……まあこんな芸当、Aクラスのなかでも相当の実力者じゃなきゃ無理だろうけどな」

「たしかに昨日の演習では模擬戦を行いました。わたしの相手は実力が近いフィルと……」

「イワン・グラハム。君でしたね」


ケインズから名を呼ばれたイワンは目を見開く。憤怒か屈辱か、燃えるような激情をたたえた眼差しは、しかし俺に注がれていた。


「……なにがいいたい?」

「なにも。ただの可能性の話だ」


俺は乾いた唇を湿らせ、慎重に言葉を選びつつケインズに水を向ける。


「だが……ただの可能性でもゼロとはいいきれない以上、いまキティに処分を下すというのは早計じゃないですかね。この仮説が正しければ魔術暴走どころか立派な犯罪だ。学院で原因を特定できないのなら軍の専門機関に調査を依頼すべきです」

「……なるほど、検討しましょう。この件は私が預かります。この場は解散で構いませんね」

「ええ。お願いします」


俺の答えにケインズはうなずくと、来たときとおなじ神経質そうな表情でさっさと教室を出て行ってしまった。Aクラスの面々も最初こそ戸惑っている様子だったが、昼休憩も半ばを過ぎていることもあり、ひとりふたりと教室を後にする。魔術陣の片付けを終えた俺とフィルが教室を出るときにも、イワンだけは拳を固く握りしめて教室に立ち尽くしていた。


* * *


「でね、お昼は学院の生徒に向けたパンのお店なんだけど、実は夕方からは喫茶店になるのね。でもって喫茶店の時間限定で注文できるチーズケーキが絶品なの!」

「そうなんですね、知りませんでした……ちーずけーき」


放課後、学院からほど近い〈喫茶蟻地獄〉。昼休憩のバイトをサボったツケもあり黙々と食器を磨いていると、見慣れた金髪と銀髪が店の扉を叩いた。


「魔術おばけふたりが何の用だ。見ての通り閑古鳥が鳴いてる店だ、金はないぞ他をあたれ」

「あんたほんとよくそれで接客業ができるわね……折角だからキティにもココ紹介しようと思ってさ。あ、わたしチーズケーキと紅茶」

「わたしも同じものをお願いします。レイスさん、喫茶店で働かれているんですね」

「……見ての通りさびれた店だけどな」


カウンターに背筋を伸ばして座り、物珍しげな表情で店内を眺めるキティに、なぜかフィルがふふんと自慢げに人差し指を立てた。


「マスターは朝昼がパンの仕込みで忙しいから、夕方はレイスに任せて休んじゃうんだって。この時間はもうレイスが店主といっても過言じゃないわね」

「過言だ。まあ今じゃ売上のほとんどが学生や教職員向けのパンだからな。それも学院の近くまで出張して売ってるもんだから、夕方にこんなところで喫茶店をやってることはほとんど知られてない」

「そ、そうなんですか。変わったお店ですね」


沸騰してから少し冷ました湯でポットの茶葉を蒸らす。その間に手早くチーズケーキを切り分け、クリームとチェリーをたっぷりと添えて皿に盛る。目をキラキラと輝かせて待つふたりの前に俺は丁寧に皿を置いた。


「はいよ。『蟻地獄チーズケーキ』だ」

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