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【第一章】蒼炎のプロローグ(6)

教員室を出たところで、そわそわと所在なさげに廊下を往復しているフィルと目があった。俺の顔をみるなり小走りで駆け寄ってくる。


「レイス! 大丈夫だった?」

「なんとかな。というかお前はここで何してるんだ。また俺からパンを奪いにきたのか? 残念だがもうパンは残ってないぞ?」

「ひとをパン泥棒みたいにいわないでくれる!? ほら、昼休憩のときのやつは返すから!」

「……半分くらいになってるんだが」

「……待ってる間お腹空いちゃって……こ、今度新しいの買ったげるから! それでいいでしょ!」


フィルは赤面して唇を尖らせる。普段なら絶対に手が出ない高級なやつを買ってもらおうと心に決めて俺は首肯した。そして荷物が置いてあるFクラスまでの道のりを並んで歩きはじめる。


「それで、どうするの?」

「『糖分の極みクロワッサン』か『甘党独裁サンドイッチ』のどちらか悩むところだが、ここはいまの季節限定の『甘党独裁』にする」

「…………」


無言で背中をつねるのはやめてほしい。冗談の通じないやつめ。


「あの事件だが、正直キティ・ハウゼンブルクの無罪を証明するのはかなり厳しい」

「そっか……そう、だよね」


色良い回答を期待していたのか落ち込んだ様子を見せるフィルに、俺は意図を訂正する意味も込めて言葉を付け加える。


「だが、俺たちの目的はキティへの処分を止めることだろ。ならべつにキティの無罪を証明する必要はない」

「どういうこと? あの火事がキティのせいじゃないって証拠を見つけるんでしょ?」

「いや。要は教師陣に『キティ以外の生徒が起こした可能性があるんじゃないか』と思わせればいいんだ」

「うぅ……?」


フィルがうなりながら右に左に首をかしげ、なんとか理解しようと試みているうちに、俺たちはFクラスの教室に到り着いた。そしてその先——Aクラスの廊下で、窓にもたれて教室を眺める少女がひとり。


「キティ……」

「フィル。まだ学院に残っていたのですね」


フィルの呼びかけに、キティもこちらに気づいて背筋を正した。その拍子にさらりと長い銀色の髪が揺れる。陶器のごとく滑らかな白い肌と小さな形の良い唇。端正な顔立ちながら、しかし隠しきれない疲労の色が浮かんでいる。


「あなたにも迷惑をかけました。ごめんなさい」

「そんな、キティが謝ることなんてない! 私はキティが魔術暴走を起こしたなんて信じないよ。レイスも!」

「レイスさん……?」

「そう! こいつ、こんな冴えない地味〜な感じだけど、変なとこで鋭かったりするから!」


ばんばんと俺の背中を叩くフィルの雑な紹介を受け、俺は苦い顔で首を掻いた。キティはその様子を見て少しだけ目を細める。


「だからさ、頑張って説得しようよ。そしたらきっとAクラスのみんなや先生たちだってわかってくれる!」


しかし、フィルのそんな言葉に対しては俯きがちに首を横に振った。


「ありがとうございます、フィル。でも、もういいんです」


机や椅子、教壇——すべてが灰になってしまった教室を遠い目で見ながら、キティはぽつぽつと話し始める。


「わたしはただ自分の魔術の道を探求することだけを信じて生きてきました。あの蒼い炎はわたしの人生そのものといってもいい。今日の魔術暴走なんて起きるはずがない、なにかの間違いだと断言できます。けれど……級友の皆さんがわたしに向けた恐れと怒りの眼を見て、なにも、いえなくなってしまいました」

「キティ……」

「ハウゼンブルク家の炎は厳しい戦のなかにあっても、国を守り、民を守る象徴であり続けました。わたしもそんな存在に憧れて魔術を始めたはずなのに——いつしか力を求めることばかりに執着して、誰かに寄り添うものではなくなっていた。これはわたしへの罰なのかもしれません」


「いや、違うな」


俺はそんなキティの懺悔めいた言葉を切って捨てた。はっとして彼女は俺を見つめる。


「お前の魔術じゃないなら、あの炎はだれかがお前を貶めようとして画策した立派な犯罪だ。罰を受けるべきはそっちだろう」

「レイス、さん」

「いまお前がやるべきことは自分を省みることじゃない。家の誇りのために立て、キティ・ハウゼンブルク」

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