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【第一章】蒼炎のプロローグ(4)

ほどなく丸眼鏡をかけた神経質そうな男がのそりと姿を現した。ケインズ・ブックマン。Aクラスの担当教師だ。直接授業を受けたことはないが、隙のない立ち振る舞いから相当の実力者であることが伺える。


「ああ。また綺麗に燃えたものですね。怪我人がいないだけましですが……仕方ありません、それでは本日の午後の授業は中止とします。Aクラスの者は速やかに帰りなさい。キティ・ハウゼンブルク、君は私とともにくるように」


おおかた事情は聞いていたのだろう。怪我人がないことを確認すると、早々にキティを連れて去っていった。Aクラスの面々は戸惑いながらもひとりふたりと指示通り帰路についていく。本来はすでに午後の授業は始まっている時間だ。Fクラスに戻ろうかと思っていると、くいくいとフィルに袖口を引っ張られる。


「おい。制服がのびる」

「レイス、やっぱりおかしいよ。わたし納得いかない」

「なにが」

「キティだよ! あの子すっごく強いし、今日の午前中の実技演習でも調子バッチリだった。それが昼休憩になっていきなり魔術暴走なんて絶対おかしい! キティ、あんまり喋らないけど、真面目だし、頑張り屋なのに……このままだと退学になっちゃう……」


悔しげな表情で俯くフィルの言葉はどんどん小さく萎れていく。こいつのこういう、普段は自信満々なくせにたまにしおらしくなるところはどうにもやりづらい。


「大丈夫だ。キティは退学にはならない」

「ほんと……?」


ぽんぽんと頭を撫でてやると、フィルは上目遣いで俺を見る。大きな鳶色の瞳が少し潤んでいるのは見ないふりをして、俺は小さく頷いた。


「ああ。まずは事件が起きたときの状況を確認したい。俺もお前もFクラスにいたからな。Aクラスのだれかを連れてきてくれるか」

「うん! わかった!」


フィルはぱっと顔を輝かせると、帰ろうとしているAクラスの学友たちに駆け寄り、わたわたと呼び止める。無断で授業を欠席した俺をこっぴどく叱りつけるであろうFクラス担当教師の顔が思い浮かび、憂鬱な気持ちで頭をかいた。


* * *


「昼休憩も終わりに差し掛かったころだったからね〜、Aクラスはほとんどみんな自分の席に座って、午後の授業の準備を始めてたと思うよ。ぎりぎりまでどこかに行ってたフィルちゃん以外は〜」

「ポルカ! 余計なこといわなくていいの!」


顔を赤らめて慌てるフィルを見て、ポルカ——共に水魔法で炎に立ち向かっていたクラスメイトがくすくすと笑みを漏らす。


「それでね〜、ちょうど教壇から蒼い炎が突然ボッと上がりはじめたの。最初はみんなびっくりしてたんだけど〜、炎が燃え広がりだしたから慌てて廊下に逃げ出したってわけ」

「教壇……? それってちょっと変じゃない? レイス」

「ああ。魔術ってのは術者の描いた陣から生じる。キティが教壇にあらかじめ魔術陣を仕込んでいたなら話は別だが、だったら魔術暴走じゃなく意図的な事件になる」


あの怒りと戸惑いが入り混じったキティの様子が演技だとは思えない。それはフィルもポルカも同じ感想をもったようだった。


「キティがそんなことするわけない!」

「だよね〜。……でもさ、応戦したフィルなら分かると思うけど、あの【ハウゼンブルクの蒼炎】は本物だよ。教室にあった机も荷物も、対抗してるこっちの魔術まで呑み込んじゃうんだからさ〜。ちょっと色を似せたくらいのニセモノじゃないよ。このあと魔蹟鑑定もあるだろうけど、キティの魔蹟が出ると思うなあ」

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