【第一章】蒼炎のプロローグ(3)
「なんとか抑えこんだわね…ありがと、レイス」
「さっすがフィル・バレンタイン!」
「あと一歩遅かったら危なかったよ〜〜」
教室内の鎮火を確認してふうと息をついたフィルを、クラスメイトたちがどっと取り囲む。
照れ臭そうに笑う彼女のそばからそっと離れようとした俺の襟首をフィルがぐいと掴んだ。ぐえとカエルが潰れたような声が漏れる。
「あのね、いまのはレイスのおかげでもあって——」
「……レイス、くん? だれ?」
「ああ、あいつじゃん? 学院の歴史でも唯一、魔力がゼロの落ちこぼれ」
「魔力ゼロって魔術使えなくない?」
「マジで使えないらしい。ついたあだ名が『無術師』!」
「なんでこの学院にいるわけ?」
Aクラスの面々からあからさまに侮蔑を含んだ容赦ない言葉が俺に浴びせられる。それを聞いたフィルの身体が怒りで強張るのを感じた。
「あんたたちねえ……!」
襟を掴むフィルの手をとっさに握り返すと、俺はくるりと拘束から抜け出した。射殺さんばかりの眼光でクラスメイトを睨む彼女をなんとか押し止める。
「んなことやってる場合じゃないだろ。まずは被害状況の確認と現場の保全、教師への報告」
「……むう、わかってるわよ」
不満げな唸り声を上げつつも、この状況ではそれが最善だと判断したらしい。フィルはクラスメイトたちにてきぱきと指示を出していく。短気なところが玉に瑕だが、フィルはもともと学年二位の実力を持ち人望も厚い。クラスメイトも優秀なAクラスだけあって、すぐに状況を理解して各自が行動していく。
「てめーら、馬鹿か? あァ?」
そんななかで声を上げた男がいた。灰色の短髪に自信に満ちた顔つき、がっしりとした体格。いかにも貴族然とした悠々とした話し方ながら一瞬で場を支配したのが分かる。
「わかってんだろ? さっきの炎、間違いなくハウゼンブルクのもんだ。ってこたあ、犯人はコイツで決まりだろうがっつー話だ」
男が横目で睨めつけながら指差した先で、呆然とした面持ちで立ち尽くしている一人の少女がビクッと震えた。
キティ・ハウゼンブルク。
火系統の魔術しか扱わないながら、その圧倒的な実力で学年一位の座を確固たるものにした天才。
クラスメイトたちも内心では気になっていたのだろう、作業の手を止めてキティの言葉を固唾を飲んで待つ。
「……わたしではありません」
小柄な体躯がかすかに震えている。うつむいた顔は垂れた銀髪に隠れ、その表情をうかがうことはできない。
「あ? ありゃどうみてもテメエの術だろうがよ」
「それは……」
「イワン、待ってよ。キティがこんなことするわけない。外部からの攻撃ってこともありえるじゃない」
押し黙るキティを庇う形でフィルが割ってはいる。イワンと呼ばれた男は不機嫌に眉を歪めた。
「知らねえのか? これだから学のねえ田舎者は。いいか、あの全てを呑み込んじまう蒼い炎はただ火系統の魔術を鍛えりゃ使えるってもんじゃねえ。自分の戦争での功績を鮮やかに印象付けるためにハウゼンブルク家が編み出した一子相伝の秘技。学院の教師だろうと真似できやしねえのよ。なんなら魔蹟を調べたっていい」
キティの沈黙がその言葉が真実であることを雄弁に語る。オリジナルの魔術がいかに厳しい鍛練の末に会得するものなのか、彼女自身が最もよく理解しているはずだ。
「俺も火系統一本でやってきた魔術師だ。テメエがこんなふうに暴走しちまうとはな。幻滅したぜ」
そう吐き捨ててキティを見下ろすイワンは、どこか暗い喜びに満ちた笑みを浮かべていた。
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