【第一章】蒼炎のプロローグ(1)
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燃え盛るその火炎は紛れもなくわたしの魔術によるものだった。
純度の高い魔力を練り上げることで生まれる、美しくもどこか儚く、そして極めて危険なサファイヤブルーの炎。
生まれながらに魔術の才に恵まれた者が幼少期から厳しい訓練を受けた末に到達する、ハウゼンブルク家の誇りにして象徴。
それがいま、わたしの目の前で。
決定的な魔術犯罪の証として、教室を火の海に変えていた。
「【ハウゼンブルクの蒼炎】だ…」
ぽつりと誰かが呟いた声が妙に鮮明に聞こえた。
炎を前に呆気に取られていたクラスメイトたちがその一言に息を呑み、わたしに視線が集まるのを感じた。
「ち、違う、わたしでは…」
思ったように声が出ない。吸い込んだ息がチリチリと喉を灼いた。心臓が早鐘をつく音ばかりがうるさい。
ぐにゃりと歪んだ視界の先で、何度も何度も飽きるほどに見続けてきた蒼い炎が勢いを増し、だれかが悲鳴を上げた。
「違わないだろ!あんな炎、他に誰が出せんだよ」
「んなこと言ってる場合じゃないでしょ!先生呼んできて誰か!」
「水系統の魔術使えるやつをかき集めろ!初級魔術でも人数次第で抑えられるはずだ!」
それから静寂が弾けるように怒号が飛び交う。慌てふためくクラスメイトたちの声と足音が妙に遠くに聞こえる。
わたしはひとり一歩も動くことができないまま、燃え盛る蒼炎から目を逸らせない。
ただわたし——キティ・ハウゼンブルクの魔術師としての破滅が、確かに背筋を這うのを感じていた。
* * *
「はらへった…」
王立オールガルド魔術学院の昼休憩は短い。
曰く『和は急、戦は緩』。なにもない平時にこそ迅速に事を進め、戦時では沈着にどっしりと構えるべし。学院の祖である魔術師オールガルドが遺した言葉だそうだ。
それでいうと昼休憩もすべてバイトにあて、午後の授業が始まろうとしているいま、腹を空かせているこの俺こそが最もオールガルドの理想に近い魔術師なのではないだろうか。
バイト代として貰った形が崩れたパンをほおぼりながら垂れた講釈に、前の席に座るフィルが呆れ顔でため息をついた。
「あんたね、オールガルド卿のお言葉を勝手にねじ曲げないの。大っぴらに活動してないとはいえ、この学院にも原理主義者が多いんだから。余計なこといって闇討ちにあってもしらないわよ」
「おま、怖えこというなよ…パンの味がしなくなるだろ」
「それにさ…レイス、ちょっと働きすぎじゃない? 最近は夜も遅くまで働いてるみたいだし」
こちらに向き直ったフィルの金髪がさらりときらめいた。柳眉で切りそろえられた前髪の下から俺の顔色を覗き込む鳶色の両眼から本当に心配してくれているのがわかる。パンを水で胃に流し込み、慣れない笑みを浮かべながらふふんとうなずいてみせた。
「なーに、これくらい大したことじゃない。それに今週を乗り切れば春の帰郷休暇だろ? 俺が働いてるところはここの学生向けだからな、みんなが帰郷で学院を離れてる休暇期間中は仕事も休みだ。せいぜい寮で羽根を伸ばさせてもらうさ」
「そ、そうなの? ふうん、レイス、帰郷休暇の間はひまなんだ…だったらさ、わたしと——」
フィルがぱっと顔を輝かせたそのとき、となりの教室から耳をつんざくような甲高い悲鳴が響いてきた。
近日中に次回更新します。よろしくお願いします!