表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/40

二人だけの結婚式と友人を招いた披露宴

ゴールデンウイークに入るとすぐに婚約指輪と結婚指輪を二人で買いに出かけた。でも久恵ちゃんは婚約指輪は買わなくてよいと言う。以前、誕生日に誕生石の高価な指輪を買ってもらったのでそれでよいと言って固辞した。


それにあの時は婚約指輪を買ってもらったと思うことにしていたと言った。だからずっと左の薬指にしているのだと言う。あの時は男除けとか言っていたけど、そうだったんだ。


僕もあのとき恋人と婚約指輪を買いに行ったような経験をさせてもらったと思ったからそれでもいい。


それから二人だけの結婚式を挙げて写真を撮った。二人には親戚もほとんどいないので元々列席者は限られていた。母は高齢でここまで来ることは難しい。二人だけの方がお互いに式に集中できて思い出に残ると相談して決めた。


今でも式の日の朝からのことをはっきりと覚えている。前の晩は二人とも感極まって長い時間何回も何回も愛し合った。久恵ちゃんはすっかり愛し合うことになれてきて、どちらかというと積極的になっている。


僕はすっかり疲れてしまって熟睡した。見覚ましをかけるのを忘れて、目が覚めたら8時を過ぎていた。予約の時間は10時だった。


横で久恵ちゃんは気持ちよさそうに眠っていた。すぐに起こして二人で身繕いをして朝食も取らずに出てきた。結婚指輪だけは忘れていないか何回も確認した。式場には10時前には到着することができた。


ウエディング衣装を着けた久恵ちゃんはとても綺麗で可愛かった。衣装合わせの時と比べて、やはり本番の着付けは違っていた。僕のタキシードも悪くない。久恵ちゃんがこちらの方が若く見えると言ってグレーのものを選んだ。


二人だけの式が進んでいく。誓いのことばを僕は「はい、誓います」と大きめの声で言った。次は新婦の番だ。元気な声を期待していたが声がしない。久恵ちゃんを見ると感極まって泣いていた。「誓うんだよね」と小さな声でいうと「もちろん誓います」というのが聞こえた。


それから指輪の交換をした。やはり僕も緊張していたんだと思う。手が震えて指輪がうまく薬指に嵌められない。あせるとなおさら手が震える。久恵ちゃんが見かねて右手で僕の手を支えてくれた。やっと嵌められた。


今度は久恵ちゃんの番だ。僕が緊張して震えるのを見ていたので、それがうつったみたいで手が震えている。今度は僕が手を支えてあげた。無事に指輪の交換が終わった。


次は誓いのキスだ。ベールをあげて久恵ちゃんにキスをする。このシーンどこかであった。


セクハラを受けてキスをねだられた時を思い出した。あの時、始めは軽く唇に触れた程度のキスだったが、求められて3回もしてしまった。それも3回目はディープキスだった。


今回も軽く唇に触れた程度のキスだった。もちろん、久恵ちゃんはもっと強くなんて言わなかった。目から一筋の涙が流れた。久恵ちゃんもあの時のことを思い出していたのかもしれない。シャッターの音が聞こえる。列席者がいないので写真を頼んでおいた。


宣誓をしてから、結婚証明書にサインをした。この時はもう二人とも落ち着ていて、しっかりサインをすることができた。


式を無事終えた。婚姻届はすでに出してあったが、本当に夫婦になったんだなと思った。「私たち、本当に夫婦になったんですね」と久恵ちゃんもしみじみ言った。


それから、二人の結婚写真を撮影した。久恵ちゃんはカメラマンに「新郎が若々しくみえるように撮って下さい」と確認していた。やっぱり歳の差を気にしているんだと思った。もっと若々しくしなくはいけないと誓った日でもあった。


結婚式の模様の写真と結婚写真をアルバムに作ってもらったものを母親に送った。すぐに喜んで電話をかけてきてくれた。


「こうなってほしいと思っていたが願いがかなった。崇夫と潤子さんもきっと喜んでくれている。早く孫の顔を見せてほしい。それまでは長生きしたい」と言っていた。


そのアルバムをこっそり吉村さんにも手紙を添えて送っておいた。アルバムを見て、久恵ちゃんに吉村さんから手紙が届いた。最初は読みたくないと言っていたけど、会わないのだから、読んであげたらというと部屋で一人で読んでいた。


泣き声が聞こえた。吉村さんの誠実な気持ちが伝わったのだと思う。あとから、どうだったと聞くと「会ってみようかな」とぽつりと言った。


◆ ◆ ◆

披露宴は会費制で、久恵ちゃんの調理師専門学校の同期の勤めるレストランでそれぞれの親しい友人を招いて行った。


春野君は僕たちに紹介したいと歳の離れた婚約者を連れてきた。とても若くて可愛い娘で春野君の趣味だとすぐに分かった。春野君は一生懸命に彼女の世話をしていたが、お似合いの二人だった。


久恵ちゃんに感想を聞くと「パパの親友だけのことはある。パパと性格が似ている」と言っていた。


あのベッドを一緒に買いに行ってくれたという調理師学校の同期生でパティシエの米田さんも来てくれていた。同期では川田さんが一番早く結婚したと羨ましがっていた。


先輩の山田さんも来てくれていた。あの事件でホテルを辞めた後も個人的な付き合いは今も続いていて、既婚者なので何かと相談にのってもらっているらしい。


久恵ちゃんはとても幸せそうでそばで見ていて嬉しかった。僕は会社の同期の連中にうらやましがられたり、からかわれたりだったけど、幸せでいっぱいだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ