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傘を手向けて。

作者: 白縫


雨が降っている。


予想外の雨に打たれた街行く人々は足早に帰路に着く。

傘も持たず、街の喧騒から隠れるように置かれたベンチに座って震えたひもじいその少女には、見向きもしない。


「...なあ君、大丈夫かい?」




雨が降っている。


雨の日は好き。

私の匂いが雨に消されて、どれだけ逃げてもあの人に見つかる事がない。

帰ったらまた殴られるけど、これでいい。

あの日、傘を優しく差してくれた、あの人に逢えるから。


「あっ...また、来てくれた...!」





「あの...さ。あなたは、死ぬの......怖い?」


「...?どうしたんだい?突然」


「......」


「怖いよ、そりゃ。君だってそうだろう?」


「死ぬのは...えぇ、怖いわ、とても」


「騎士さんって、お国の為ならなんでもするの?


「あぁ、なんでもする」


「お国の為なら死ねる...?」


「......あぁ」


「...あなたが死ぬのは、絶対に嫌だ」


「...... 大丈夫だ。必ず生きてこの街を守りきる。魔女達から、君や友がいるこの街を」


「......うん。生きて、また逢いに来て」





突然、泣きながら大急ぎで仲間が家に来た。

耳に飛び込んできたのは、魔女が街に潜入して国中の情報を集めていたという事と


やつらが街内部から奇襲をしかけてきたという伝令だった。



予想よりも遥かに早い開戦。

今日は雨だ、あの子に逢える日だった。


あの子に約束をしたんだ...


必ず生きてこの街を守りきると...


かならず、またきみにあいにゆく。





雨が降っている。


雨の日は好き。

あなたがいた頃の街の喧騒はないけれど、あなたが優しく傘を差してくれたあの日を思い出せるから。 


「傘。あなたがしてくれたように、差していてあげる」


「......私が怖かったのは、あなたが死ぬのだった」


「......ごめんなさい」


「魔女の娘だって、言わなくて」


「言ったらあなたは私を許さなかった」


「また雨が降っても逢えなくなると思ったら、怖くて、言えなかった...」


「っ...!言えなかったの...!!」


こないのが分かっていても、私はこのベンチであなたを待つ。

今も私はあの時と同じ、震えたひもじい、ただの少女。





心に、雨が降っている。


どうか


あの日と同じように


私に、傘を手向けて。




















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