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初めての魔法

人里から遠く離れた森の中の家

そこに描かれていた魔方陣により私、神酒(みき)花音はこのファステール王国に転移してきたらしい。


なぜ、らしい…と表現したのかと云うと

ここに描かれている魔方陣は召喚用の魔方陣ではなく、

移動の時に使用される魔方陣の改良版?との事。


しかも、この改良した魔方陣を描いたのはここに居る金髪碧眼の彼、ルークの母親だという。

転移してきた時に手にしていた所持品は学生鞄と体操着だけある。


転移した際に居た男の子達はルークとウィル。

この森の奥にあるポーションの材料である薬草を採取する為に森に入り、立ち寄ったら魔方陣が発動し、私が転移してきたのが今の状況。


「あの、今すぐ元居た場所に私を戻して!」


移動の魔方陣なら、来れたなら、その逆も可能のはず…そう思い口にした花音。


「…………」

「……残念だが、どこから来たか分からない場所へ送り還す事は多分無理だ。この魔方陣は特殊で俺の力では起動は出来ても、発動させられない。それにその魔方陣を描いた母は既に亡くなっている」


な…描いた本人が居ない?


では何故、この魔方陣が発動したのだろうか?

私の居た世界には魔法は存在しない。

どう考えても、こちらの世界の力が干渉している。

突然の出来事に声が震えそうなのをこらえながら

「ほ、他に私を送り還せそうな人って…居ないの?」


「……確実ではないが、もしかしたら、祖母なら何か知ってるかもしれない」


「とりあえず俺達は明日、この森の奥まで行く。早朝に出て夜までにここに戻る。悪いがそれまでここで我慢してくれ」


要件だけ、簡潔に言うルーク


「こっちの棚に非常食を置いて行くから、食べてね」


と、非常食を棚にしまうウィル。



翌朝、起きた時には既に2人は出かけた後だった。


ウィルが用意してくれた非常食のある棚に目をやると


「…………」


この非常食を目の当たりして、言葉を失ってしまった。


これをどうやって食べろと…?


目の前にはまるでマグネットでよくある食品サンプルのミニチュア版のようなものが…


手に取って触ってみたが、そのまま食べれそうな感じでは無さそうだ。


夜には2人が帰ってくるのだから、それまで飲まず食わずで耐えれば済む事だが、何もすることが無いので、


ちょっとくらい外に出ても平気だよね?


体操着に着替えた私は家の中にあった使えそうなもの手提げカゴや折り畳みナイフを手にして外に出る事にした。


帰り道に迷わないようにその辺にあったビニール紐のようなものを小さく切って目印を結んで森の中を進んでいくと、わりかし近い所に小さな川があった。


透き通っていて、綺麗ではあるが…


なま水はやめておいた方がいいのかな?

………う~ん、でも、どうやって火を起こそうか…

釜戸のようなのはあったけど…

ガスコンロじゃ無かったし…


そう、森の中の家には電気・水道・ガスのようなライフラインが全く無かった。


しかたがないので川の水を手ですくって飲んでみる。


「おいしい…」


川が近くて良かった。

ここならすぐに汲みに来れそうだし。


そこから少し歩くと開けた場所に出た。

明るくよく見えるおかげか、小鳥たちが飛び交っている木が目についた。

木には赤い実がなっていて小鳥が啄んでいる。


鳥が食べているから、毒は無さそうかな…


意を決して人生初の木登りに挑戦してみる事にした。

わりかし、木の窪みや枝などで足のかけやすい木であった為、登りやすかった。

自分の体重が乗っても折れなさそうな太い枝で少し休憩をとり、お目当ての赤い実へと手を伸ばし1つ採ってみる。


見た目は大きなトマトのような実。

恐る恐る、口にしてみる。


「甘い。美味しいけど、これってまるでイチゴ?」


そう見た目はどう見てもトマトなのに、味がイチゴなのである。


とりあえず持ってきた手提カゴに一杯に詰め込んで森の家に戻る事にした。


森の家で1人、トマトのようなイチゴでお腹を満たした後、

木登りで汗をかいたので、お風呂に入りたいなと探すが見あたらない。


「そっか、水道が通ってないんだから、あるわけ無いのか…」


う~ん…


少し悩んだが、

汗もかいたし、服もドロドロ…

まだ日も高い事もあって、着替えの制服を手にして川に行く事にした。


川に来た花音は大きな岩場の方へ行き、

誰も居ない事を確認してから、

着ていた体操着を脱いで洗い、木に干した後、川に入り水浴びを始めた。


気温も暖かいので、水浴びするにはちょうどよく、調子にのって泳ぎはじめてしまった。


ふ~。

気持ちいい。

魚…つかまえるのはさすがに無理か…


体力使って、疲れたからそろそろ戻ろうかなと思っていたら

ガサガサと草を掻き分ける音がした。

何か大きな動物でも来たのかと固唾を飲んで待ち構えていたらルークとウィルが姿を現した。


緊張して居たが、安心して息を吐く

だが、目の前の2人は進めていた歩を止め、固まったように動かない。


「はぁ~。なんだルークとウィルだったのね。驚かせないで」


その言葉にルークが動揺しながら、


「……お、おまえこそ、ふ、服も着ずにこんな所で何を!」


え…服……?


そうだった、私はここで水浴び中で……

自分の状況を思い出し


「キャー!!! み、見ないで!」


両手で体を隠すようにしてしゃがみこんだ。


だが、時既に遅し2人の目には、一糸纏わぬ姿が目に焼き付いた事だろう…


私は体を拭くと着替え用に持ってきてた制服を着て、水洗いして木に干してあった体操着を手に持ち、一旦、森の家に向かう事になった。


うぅ…見られた。

見られた。

見られた…


2人を直視出来ずにとぼとぼ歩いていると

ウィルが声をかける。


「…花音、この辺は比較的に魔物が少ないといえ、フォレストウルフやボアと遭遇してもおかしくはない。何も身に付けずに泳ぐのはどうかと…」


「お、泳ぐのが目的だったわけじゃ…その…汚れた服を洗濯して、水浴びしてただけで…」

「洗濯?水浴び?何のために?」


不思議そうに聞き返す。


「え?何のためって…汚れたら服を洗ったり、体を洗ったりするでしょ?」


ルークとウィルが視線を交わす


「…………」

「…………」


「どうやら、花音の住んでた所とは生活の違いがあるようだね。汚れた服や体は魔法で一瞬で綺麗に出来るから、洗うという習慣は無いんだ」


洗う習慣がない?

って事は入浴する習慣さえ無いってこと?

だからお風呂が無かったのね…


森の家に着いた3人は遅めのランチを摂る事にした。

ルークが適当に非常食の中から、パンや惣菜を手にして戻ってくると

ミニチュアの食品サンプルのようなものをテーブルに並べ手をかざし、なにやら呪文を唱えている。

すると、出来立てような料理の品々がテーブル上にあった。


「えっと…今のは?」

「まさか非常食の食べ方も知らないのか?時間魔法とコンパクトにする魔法がかけられている。それを解除する魔法だ。」


通常サイズになった食品サンプル…じゃなく、食事をいただき食後のお茶を飲みながら今後の話をする事に。



まず始めに私は魔法を知らない。

そんな私でも魔法を果たして使う事が出来るのか?という疑問をぶつけてみることに


「あの…私にも魔法って使う事は出来るのかな?」


なにしろ日常生活に魔法が欠かせないのである。

生活魔法だけでもなんとしてでも覚えなければ、この世界で暮らしていくには不便極まりない。


…もう…皆、魔法に頼り過ぎなんじゃないの?この世界の人は!

と、グチりたくもなる。


「魔力が有れば、魔法を覚えて使う事は可能だとは思うが」


「魔力……」


そんなものあるわけがない…

別の異世界から来たのだから…


「とりあえず、自分のステータス開いて見てよ」

「え?ステータスって…?」


ゲームじゃないのに…


「ステータスウィンドウ、オープンって唱えてみて」


ウィルに教えられた通りに唱えてみる


「ステータスウィンドウ、オープン」


すると目の前に自分のステータスが表示された。


―――――――――――――――――――――――――

神酒 花音 Lv***


HP 87532

MP 53211


スキル



ユニークスキル

*****

****(一定条件時にのみ解放)


バッカスの加護

―――――――――――――――――――――――――


「MPが魔力なら、魔力は有りそうだけど、レベルやスキルが*アスタリスクでよくわからないんだけど…」


「え?基礎レベルがわからない?そんな事って……」

「属性を調べる測定器なら、確かここにもあったはずだ。少し待て」


そう言って、ルークは測定器を探して私の前に持ってきた。


円形の測定器の中には六芒星が描かれていて、6箇所には6色の石が嵌め込まれている。


「この中央に手を置いてみろ」


ルークに言われ、私は右手を六芒星の中央に置いた。

すると、嵌め込まれていた6つのうちの5つが光った。


「へぇ~…凄いね。五属性に適性があるなんて、なかなか居ないよ。ルークを除外してね…」


ルークを除外してって、事はルークも五属性って事なのかな…?


「それより、日が落ちる前に森をでないと…」

「あぁ。そうだな。目的の物も採取したし、予定より1日早いが帰るとしよう」


花音は体操着を袋に詰め、学生鞄を手にした。

森の中を3人で歩るきながら、ウィルが普段よく使う水・火・ライトなどの生活魔法を教えてくれた。


「花音は覚えが早いね。それなら簡単な攻撃魔法もやってみようか。えっとそうだな水魔法ならイメージしやすいかな…」


そう言ってウィルがお手本の魔法「ウォーターカッター」で植物を切って見せた。


魔法を使うのにどうやら、イメージが大切らしい。

でも想像力なら、ゲームのエフェクトとかでイメージしやすく、思い描くように魔法が使えた。

花音がウォーターカッターを練習していると、そこにこの世界に来て初の魔物、ボアに遭遇した。

いい機会だからと、ウォーターカッターで倒してみろとルークが言った。


花音は覚えたてのウォーターカッターをボアに向けて連続で4・5回放った。

ボアは前脚、後脚、頭と切断され肉塊となって転がった。


「………」


さっきまではその辺の草や枝などを切断していたので、魔物とはいえ、無残な姿になったボアを見て、なんとも言えない気持ちになる。


ルークとウィルはそのボアを解体し始めた。


暗くなる前に森から出て街へと続く街道で野営する事に…

河原では多くの商隊が既に野営していた。


その近くに自分達も野営する場所を確保し、先ほどのボアを焼いて食べる事になった。


焼き上がったボアの串肉を食べながら


「ルーク、今日のボア肉、なんかいつもと風味が違うような気がするんだけど、何か隠し味でもした?」

「いや…軽く塩味にしただけだが…確かにいつもより肉も柔らかいな…」


初めてボアを食べる花音には違いがよくわからなかったけど、そんなに生臭くもなく美味しく食べる事ができた。


花音の使ったウォーターカッターが水ではなく、成分が焼酎だった事を知るのはまだもう少し先の事であった。

焼酎が肉に染み込み、臭みをとり柔らかくしていたのだ。

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