⑭ 目が覚めて 1
「――はっ!」
自分の声で彼女は目が覚めた。
体を重苦しそうに、辛うじてといった様子で動かした。
いつの間にか自分1人でベッドの中にいる。
今彼女を愛してくれる男――メリルは別のところで寝ているのだろう。
もぞもぞ、寝返りを打つ。
背中を毛布にくすぐられて、自身が何も着ていないことに気付いた。
――いつ脱いだの……?
毛布にくすぐられるのが嫌だったので何とか起きて、服を着直した。
窓の外も真っ暗だ。ベッドライトがほのかなオレンジ色になっていて、ぼんやりと窓に彼女の姿を映した。
脱がされた。
それは容易に想像がついた。
そして、汚された。――自身ではなくて、彼の愛を。彼女の体に刻まれ、あるいは注がれた、溢れんばかりの「絶対の愛」を。
――もう一度……愛してもらわなきゃ。「彼」に。
もしも、もう本当にそれが許されないとなるならば、自分は諦めて心を捨て去るしかないのだろう。心を――自分自身の「絶対の愛」を捨ててしまえば愛を認識しないのだから関係ない。
願いが叶うのならば。
――心を捨てる前に、「彼」にいっぱいにしてほしい。
――もう一度だけでいいから。心がなくなっても、せめて自分の中に満ちるのは「絶対」であってほしい……。
「――っ、アンジー、どした?」
「やっぱり……会いに行かなきゃ」
ふらふら、と玄関に向かう彼女を、リビングで紅茶を飲んでいたメリルは慌てて止めた。
「ちょっと、こんな夜中に誰が君と会ってくれるっていうんだよ」
「誰が? そんなの――」
「違う、ごめん、聞き方を間違えたよ。とにかく、今の時間じゃどのお店もどの家も開けてくれないよ、危ないったら……朝になるまで寝ておいで、大丈夫だから。朝になったら起こしてあげるから……」
「いや」
「――アンジー」
横をすり抜けようとする彼女を止めて腕に抱くメリル。
しかしその刹那、彼女が悲鳴を上げて彼を振り切ろうとした。
――まただ。
彼は何とか押さえて「大丈夫だから」と諭す。
――また拒まれている。
しかも彼の声など聞こえていないように、彼女は暴れ、勢いで床に伏せってしまった。ばたっ、と鈍い音がした。頭を垂れて両手をつく彼女。小さく震えている。
メリルに怯えているのだろう。
「アンジー……っ」
慌てて彼も膝をつく。抱き寄せようとしたらするっと腕が抜けてしまった。彼女は彼から離れたくて仕方ないのか、近づくと余計玄関の方へ逃げてしまう。
何とか彼は彼女の手首を掴むのだった。