表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/98

⑥ 眠れない夜に



 ある日の夜、彼は全く眠れなくて勉強机の前に座って、ぐったりと突っ伏していた。


 本を読む気にもならず、ただただ重そうな頭を組んだ腕の上に乗せて、ぼんやりと虚空を見つめていた。


――ずっと会えない。やっぱりもう会えないのかな。


 もはや彼には現実も夢も区別がつかなかった。――現実でも夢でも彼は彼女に会えなかったから。


――寝ても寝なくても同じだ。


 妙に頭が冴えていた彼は、そんな理屈をつけてベッドには入っていなかったのだ。頭が冴えているから眠れないにしろ、彼に今睡眠欲が沸いてくる様子がなかった。


 机は彼の地肌に触れている部分だけ生温かかった。




 少しして彼は机の冷たい部分を求めて腕を少しずらした。紺色のカーディガンを着た腕は、手首の部分から肌がにょきっと出ていた。包帯を巻いたところを冷やすように押し当てていた。


 部屋のドアがこんこんとノックされた。


「おまえ起きてたのか……」


 後ろから父親の声がした。しかし彼は何も言わず、動きもしなかった。


 すぐに、彼の視界に父親の顔が入って来た。


「今日は眠れないんだな」


 彼は若干目を細めて疎ましそうな顔をした。


――会いたい人じゃない。


 彼の頭の中は「会えない」彼女のことでいっぱいになっていたのだ。


「ずっと……」


「ずっと、どうした?」


「……」


 彼は黙り込んだ。


 言ったところで解決しないのだから。


――せめて頭の中でいっぱいにさせておいてほしい。邪魔されたくない……。


 重い頭を持ち上げて、彼は反対の方に顔を向けた。


「……出てけよ」


「――ったく、可愛くねえやつだな。まあ可愛くなくて結構だけど」


 父親はくすっと微笑んで、彼の丸まった背中に毛布をがふっとかけた。


「おめえはおれに似てイケメンだし。おれが保証するよ……なんてな」


 ぽんぽんと息子の頭を撫でてから部屋を出て行った父親。


「……」


 再び1人になった彼は、冷めたように息をついてから、目を閉じた。


――言っても無駄だ。


 彼の頭の中は彼女でいっぱいだ。


――すると、おれの頭は果たして現実なのか、夢なのか。一体どこにあるんだ。


 すぐに青い目がぼんやり開き、煙たそうに部屋の宙を見据えた。


――あったかいな。


 徐々に生まれて来た温もりに彼は、彼女が自身の背中に抱きついている様子を想像できた。


「今日はずっと一緒よ?」


 例えばそんなことを囁いて。


「……ちがう」


――所詮おれの妄想だ。彼女の言動はおれの頭が作っている。


――じゃあ、現実でも夢でもなさそうだ。現実も夢も……必ずしも予想通りに来るわけじゃないんだから……。


 彼は深くため息をつくのだった。


――変なことを悟ってしまった。


「……いま、どこにいる……?」


 彼は声に出さずに、彼女の名前を口に刻んだ。気怠い空気に包まれていたけれども、彼女の名前だけはほのかな熱を帯びて彼に接吻をするのだった。




彼(ロン)はどうも感づいていたのかもしれませんね。

彼女(アンジー)が良からぬ決断をしてしまったことを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ