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⑦ ご褒美



「アンジー」


 レストランを出るなり呼ばれたので振り返る。


 そこにはこちらに腕を伸ばす彼がいる。


「キスしたい……アンジー……」


「は――っ!?」


 率直に欲求を口にされて彼女は狼狽した。

 

 じりっと寄ってくる彼を慌てて避け、適当に街灯の下まで連れて行く。お店の目の前では気が引ける。


「ロン……で、でも、ここで?」


「ん――」


 がふ、と抱きつかれたかと思いきや、そっと顔を寄せられた。


 本当に唇が重ねられた。


 図らずもドルチェのような甘い声をもらしてしまう。


――頑張ってグラタン食べたんだから、いっか。ご褒美よね……。


 彼に「ご褒美」などという子供じみた気分が適用されるのかは知らないが。




 その後食料の買い出しに行ってから家に帰ってきた。本当はもう少し外を散歩したかったが、彼が疲れたと言って聞かなくなってしまった。


 彼はベッドの上にくたっと座り込んだ。


「ロン、紅茶飲まない? お湯沸かしたいんだけど」


 尋ねるが、ううんと言って彼はどっと横になってしまう。


「もう眠いの?」


「ううん……」


「……疲れた?」


 ベッドの手前の方に腰かけて、身を乗り出した。


 彼の頭をそっと撫でてやる。


 てっきり疲れて動けないのかと思っていたから。


 のそ、と手が伸びてきて、どきりとした。


「ちょ、ちょっと――!」


 撫でていた手をぐいと引っ張られて、彼の上に倒れてしまいそうになった。――それが目的だったのかもしれない。


 気づいた時には両手を掴まれていたのだが。


「な――っ、だめったら! もう!」


 慌てて足を踏ん張ってとどまった。立ち上がろうとすると――腰をがっと掴まれてくすぐったくて悲鳴を上げた。


「やあっ! そんなところ触んないで――っああっ!」


 すっかり負けてベッドの上に引きずり込まれる。ぐったりしているはずの彼は起きてきて、後ろからぴったりと抱きつかれる。


 首筋にじれったそうな吐息がかかったかと思うと、かぷ、と噛みつかれた。


「いたぁ――やぁ……んっ……」


 それから唇があてがわれる。それは首筋から耳たぶ、頬にも及んだ。


 せっかく外に出るために着た水色のタックブラウスも、あっさりとボタンを外された。キャミソールの状態でむき出しになった肩や腕にも口づけをされる。腕はしっかり腰に回されたまま。


「アンジー」


 熱い吐息と共に名前を呼ばれる。耳元で。


 彼の声が耳から入ってきて彼女をいっぱいにした。


 返事ができなくて、ただただ息を乱した。手がくすぐったいから。


 彼の手はそっと上の方にずらされて、彼女の慎ましいふくらみを下着の上からそっと撫でてくれる。


 決して男を満足させるものじゃない、ちょっと着込めば形など分からなくなるくらいの引っ込み思案な果実なのに。彼の手にかかるにはふさわしくないくらい小ぶりなのに。

 

 くすぐったくてたまらず彼の手の上から自分の手を重ねていた。動きを制するため。


「やぁだ……っ」


 すると彼の金髪の頭がぐっと自分の視界の端に現れてどきっとした。こんなに近くにいる。


 頬に柔らかい唇が当てられる。鳥肌が立った。


――もう……だめ、どうかしちゃうわ……。


 生きている。触れる体はこんなに温かい。


「ずっといっしょがいい……」


 ぽつっと囁かれる。


 どうしよう。


 受け止めたい気持ちと受け止められない気持ちの間で動けなくなった。


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