④ 今日の海は大しけです
「今日のご飯だ」
そう言って紙袋を彼女の方に押しやる。先に選んでもらおうとして。
自分は袋からナッツをつまんで適当にかじった。
「好きな方を食べなよ」
彼女が紙袋を見て戸惑ったように彼を見ているのでそう付け足す。
「……どっちがすき……?」
「おれはどっちだっていいから」
彼女はチーズバーガーをごそごそ取り出した。紙袋が返されたので彼は残りのフィッシュバーガーとポテトを出した。ポテトは自分たちの間に押しやる。
「このハンバーガー、ひさしぶりに食べたの」
「おれだってたまには面倒になるんだ」
「そうじゃなくて」
「何だよ」
ハンバーガーにかぶりつく。むしゃくしゃして、と言っても過言ではない。
合間にウイスキーを呷った。ぐずる鼻にも甘い香りは染み渡った。
「結構甘いんだなこれ……。ハンバーガーに合わせるやつじゃねえな」
苦々しく舌打ちをした。
ポップでジャンクなハンバーガーに対してこのウイスキーは上品すぎるのだ。
後でじっくり飲もう。無添加のローストナッツなら合うだろう。
彼はまずハンバーガーをむしゃむしゃかじっては飲み込んだ。まるで流れ作業のように。手と口と喉がハンバーガーを食べる作業だった。
「……君何か飲みたければ好きにしなよ」
「……」
彼女に言い捨てて自身は引き続きハンバーガーを消費する。
彼女がチーズバーガーを置く。何か飲み物でも取りに行くのだろう。
ところが彼女はこちらを潤んだ目で見てきた。
「……きょう、なにかあったの……?」
その声は小さく震えていた。
「えっ。何で」
「そんなに、いらいらしてるところ、見たことないから……怒ることあるんだ、って思ったの」
「……」
言われてみればそうだろう。
彼女にそんな姿を見せたことがないのだから。
「――ごめんね、怖がらせたみたいだな」
「……」
彼は一旦落ち着こうと思って強く息を吐いた。
「今年に入ってずっと取り組んでいた開発企画案を始めからやり直すことが会議で決まってさ。……やってらんないね。何が経営戦略にはそぐわない、だ……ずっとそれがデメリットだから早く違う方向性を開拓しようって言ってたんだおれたち開発チームは」
――研究所なんだから自分たちの戦略くらい自覚しろっての。
あっという間にハンバーガーは彼の喉の奥へ消えて行った。
ティッシュを引っ張って、鼻をかむ。