③ 都会暮らしは苦しい?
「本当にね」
「……でも、息苦しいと思う人は思う。ぎらぎらしすぎている、だとか、その分ピンキリ……というのも、否めないような気がします」
「まあね」
「都会の方が……確かに、色んなチャンスに巡り合いやすくて」
「それを考えると、都会がいいとか悪いとか一概に言えない。いい人はいいと思うし、居づらい人病む人、色々いるよね……」
――君の「大好きな」人含めて。
テレビそっちのけでも会話が進んでいく。
――ちょっとはおれに心を開いてくれたのかな。
彼は心の中で問いかけた。
すると、偶然かもしれないが、彼女がやっとメリルの目を見てくれた。
「……ずっと、ニューヨークに、いるの……?」
依然として薄い膜がかかって何かを中に閉じ込めているような印象は拭えない。
他愛もない会話が続けられるだけで今は十分だとした彼だった。肩をすくめて微笑む。
「クビにされなければね」
「そんな頻繁に切られるものでもないんじゃない」
「どうだろうね」
「それを言ったら、たぶんあたしだって『クビにされなければ』だから……」
「まあ、そっか。キャリアアップのために自ら身を引くケースも十分あるから……。だからほら、地元でビジネスやりたきゃやろうってなるだろうし」
「……そう」
――興味はそこまで持ってくれてないんだろうな。
彼女の受け答えで感じたメリル。しかし一方で、同じ大学の機関に勤めていて、分野は違えど同じようなことを仕事にしている彼女とこうして話をするまでになったのかと感慨深く思うのだった。
次の日もメリルは仕事だったが、今日の仕事が立ち行かなかったので機嫌を損ねて帰ってきた。
自身でもあまり損ねた機嫌を引きずることはないのに、今はどうやっても鬱憤が晴れてくれない。
思い切り飲んでやろうと彼は思った。ご飯を用意するのが面倒になったのでハンバーガーをテイクアウトで買って行った。
帰ってみると彼女がぽつんと椅子に座っていた。来て3日くらいはずっとぐったりしていたが、少しずつ彼に心を開いてくれていた。朝だって寂しそうな目をして見送ってくれた。
もちろんその寂しさは彼に向けられたものではないのだが。見送ってくれるだけ進歩した。
紙袋を粗雑にテーブルに置いたところ、彼女がぱっと顔を上げた。今だけは余計な口を利いてほしくなくてさっさと飲み物の準備に取りかかった。
あまりウイスキーは飲まないが、今日はちょうどもらいものの瓶があるのを思い出して、飲んでやろうと持ってきた。四角くて黒いラベルが巻いてある瓶だ。
氷を入れたグラスをカンとテーブルに置いて、どぽぽ……とウイスキーを注ぎ入れる。意外と香しい甘めの香りがした。
つまみに例のローストナッツも食べようと思って、今日は袋ごと掴んで持ってきた。