表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/98

① 穏やかに身を預けて



 メリルは次の日の夕方、研究所から帰ってきてからベッドの上に座って携帯を見ていた。


 すぐに疲れていたのか横になって寝入ってしまった。


 ふと気づいて目を開けると、自分の上に人の顔がある。


「――」


 今自分の家に滞在させている彼女だった。


「アンジー……?」


 かぶさっていたのは彼女で、その唇が今自分の唇と重なった。


 初めて彼女からキスをしてくれた。


 心なしか震えている。


 胸が熱くなり、彼女をぐいと抱き寄せた。


 もっと深いキスを返した。


 彼女の頭を抱きしめて、もっと熱い口づけにした。唇に触れるものは全て吸い寄せて貪った。


「おいで……」


 彼女がベッドのたもとに膝をついていると分かった。もっと傍に来てほしくて身体に手を伸ばした。抱き上げるようにして自分の身体の上に導いてやる。


「……」


 何も喋らない。


 震えていると思ったのは気のせいではなくて、身体が触れ合うといっそう震えているのが感じられる。


 彼女が怯えつつここにいるのだと分かった。


――怖いのだろう。もしくは罪悪感で震撼している。


 メリルという、言うなれば「他の男」に自らを許してしまうのが。


 緑の目はゆらゆら揺れる。今、ぽと、と涙を落とした。


「……だいじょうぶだから」


 彼は彼女の身体を抱きしめた。


「君は何も悪くない……。だいじょうぶ、おれが一緒にいるから……」


――おれが君を愛しているから。おれは何も拒まないから。


「いつまでだって待ってる……ね……」


 彼の首が濡れた。


 彼女の頭を抱いて、触れる髪に、額に、そっとキスをする。


 てっきりお腹が空いたと訴えてきたと思ったのだが、その後彼女は何をするわけでもなく、じっと黙って自分の腕の中に納まっていた。


 うとうとしかけた彼は、ふと外が真っ暗なことに気付くのだった。そこで初めて、さすがに夕飯時かと分かった。


「……ご飯食べようか」


「……」


 彼女を抱きかかえながら起きて、一緒にリビングに連れて行った。


「ちょっと待ってて。テレビでも見てて。簡単に用意しちゃうから」


 とは言え、冷蔵庫には大したものが残っていない。


――冷凍食品でも使おうか。


 パスタがあったので、それを2人分用意した。レタスとベーコンを冷蔵庫からごろごろ出してきてシーザーサラダにしてお皿に盛った。


 こうして若干やっつけ感のある夕食ができた。学生だった頃も、研究員として働き出してからも、冷凍食品は重宝していた。レストランに食べに行くのは面倒だったから尚更。


 彼女は紅茶を用意しながらテレビをぼんやり見ていた。


 隣に座ったところで、ドキュメンタリー番組らしきものが始まった。


「……あの街……」


「おれの地元だね」


「住みやすいって聞いて」


「……まあその通りだよ。行ったことある?」


「ない」


「気が向いたら行ってみなよ」


「はい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ