⑦ 隠していた爪
「ううん。落ち着きなよ。大丈夫だから――」
彼女が立ち上がったところをメリルが捕まえて、胸に抱きしめた。
「――こんなに痩せて。随分悩んだね」
「……やめて」
「君がやって来たんだ。自分から。助けてくれって。だから、それに応じるまでだ」
「……うう……っ」
彼女はまた泣き出した。――好きでもなかったはずの男の広い胸に抱かれて。
「見てられない。君が自分の中にある絶対の愛に縛られて、自分を傷つけるのを」
「愛は絶対だからあたしは傷つかない……っ」
「家族が言っているのはそういうことだよ」
「じゃあ離して! 家族のところに行って、そんなことしないでってもう一度戦ってくる……!」
「今日はだめ」
「やだ! 離して……っ」
「GPS働いてるんだっけ。貸してごらん」
「いや――」
彼女を携帯を取り上げるメリル。そして彼はあっという間にその機能をシャットアウトしてしまった。
「家族に連絡してくれる? 話を聞いてくれるお友達のところにお世話になるからって。――ロナルド・モーズレイじゃないからって……。それから位置情報機能はまた後で復活させるから。病院でも大学でもなく、お友達のところらしき場所だったら向こうも納得するだろうね」
「どうしてそんなことするの!」
「どうして? ――今言わなかったっけ」
「そんな付け焼刃の理由なんか聞きたくない!」
「――」
耳元で強いため息が聞こえる。
「――嫉妬だよ」
「嫉妬? こんな時に何を考えてるの」
突き離そうとしたが無駄だった。腕が体に食い込んでいる。猛禽類の太くて鋭い爪のように。隠していた爪がついに出て来たように。
「1人でのこのこやってきた君を野放しにするほどおれってバカか?」
「……」
吐息が震えた。
違う。
下手な同情なんかより客観的な意見が欲しかっただけ。――メリル自身とのことは置いておきたかったのに。今は。
首を振るけれども、優しい腕が解けることはなかった。おまけにくらくらする。違う、と言いかけたがそれでは彼の問いに答えてしまう。
「うーん、あの男もなかなか優秀だってのは認めるけれど、おれだってそこまでバカじゃないと思うんだよね。それにたぶんあの男よりは気もまともだし優しいと思う」
「ロンのことそんな風に言わないで」
「分かった。言わないよ。もう言及しない。だから……」
――君も忘れたらどう。