⑥ クレイジーの雨
「君もなかなかクレイジーだよね」
「どういうことですか?」
「だって、酒に酔っていたとは言え乱暴された男に会いに行きたいだなんて」
「……乱暴じゃないんです。あたしは彼を愛しています。彼だってあたしを乱暴したんじゃなくてただ愛してくれただけ……」
「――君は確かに彼を愛している。そう認めるしかないね。だとしたらなおさらだよ」
「乱暴する狂った男を愛するからクレイジーだって言いたいんですか?」
「それもあるね。おまけにその男は首を切ろうとしたじゃない」
「でも」
至極冷静に彼女を諭してくれている。
十分それは分かったが、彼女は「どうしてそんな男を愛している?」と呆れられているような気がした。それにはどうしても納得が行かない。
なおも彼は彼女を制しようとする。
「――さらに言うと、そんなに愛していて会いたいと思うんだったら、そう思うまま行動すりゃいいだけの話じゃない。だって君の中の愛情は絶対なんだろう。だと言うのに、人から承認されることを欲している――矛盾だよ、だからクレイジーだって言いたいんだ」
「……それのどこがクレイジーですか?」
切り返される筋はあまりにもっともで、意地でそう聞き返すことしかできなかった。
「まあそういうとこだよ」
「でも会いに行きたいって言うと誰も認めてくれません。だからってあたしが勝手に病院に行ったらつまみ出されると思うんです」
「だろうね。クレイジーな女が来たって言って。話を聞く限り君は向こうに既にマークされてるだろうから」
「だから正当な理由を考えてるんです。――あたしが彼に会うのには正当な理由があるって。ただし『愛している』以外で」
「……それにね」
「何がそれに、なんですか」
「それだけ彼のことを愛していて間違いないのに、どうしておれみたいな他の男に会いに来たのか? それだけで十分クレイジーさ」
「あたしがクレイジーなのはもう十分分かりましたし認めるので、後はあたしが彼に会う理由を――あなたの意見を聞きたいんです」
「それでおれが『君は彼に会うべきだよ』と言うと思う?」
「え?」
「――、君がクレイジーである証拠なんて湧き出るように見つかるんだ」
ため息をつく彼。しかし顔を上げた時には悠然と微笑み倒している。「妹のような」彼女を宥めるように。
「何で周りの人が止めているか分かってないみたいだね。ただしおれは周りの人と同じように『会うべきでない』と言うけれど、その理由は周りの人のとはちょっと違う」
「……もう、いいです。なら……もう誰も……」
「まって、アンジー」
「そんなふうにあたしを呼ばないで」