④ 再会してしまった2人
彼らは大学のカフェテリアにいた。
「……で、今更おれに何の用?」
「ごめんなさい。でも、時間作ってくれたんですね……」
リュックを背負って、スーツのジャケットを片手にやって来て――彼女の隣に座るのはかつて、交友関係のあった工学部の先輩――メリルだった。
数日して、彼女の方はどうにか落ち着きを取り戻したので1人で外に出る許可をもらった。――ただし、どこにいるのか携帯の位置情報を家族の携帯に知らせるようにして。
『今、実家に帰省しています。ちょっと困ったことがあって、相談したいのですが』と彼にメッセージを送って、あの時のような「予定された邂逅」をするために、ここで落ち合ったのだった。
「いま……仕事終わり、ですか」
「そう。ここの工学研究所で働いています」
「え――」
彼のことを知っているんじゃなかろうか。しかしそれなら、「君のボーイフレンドに会ったよ」などと言及するはずだ。違う研究所かもしれない。
「……君は?」
そんなことを話している余裕はなかったけれど、藪から棒に連絡をしてしまった手前、正直に答えた。同じように研究機関に勤めているが、ボストンで仕事をしているのだと。
「だから帰省って言ったんだね。――で、困ったことって何?」
学生の時に比べたら、自分たちは大人になったのだろうか。
メリルの落ち着きぶりは変わらない。彼女の話したいことをあっさり引き出してくれる力も。穏やかだけれど、冷静に聞いてくれるのも。食い入るように見つめてくれる海のような青い目も。
自分とて同じようなことで相談に来ている。
大人になるとは何だったのだろう。
分からないけれど、話したかったことをそのまま話した。
「ふーん。あの男とは今度こそ絶縁ってわけか?」
「でも彼と直接話したわけじゃありません。彼の家族から一方的に」
「――君は決して絶縁を認めていない」
「ええ」
「……じゃその指輪は当然反対の意思表明ってわけだよね」
「……」
「まさか他の男と既にってことはないだろうから」
「……はい」
じっと黙って聞いてくれたしよく見てくれるなと思った。
その上で、今度は彼が意見を返してくれる。気持ちよくまとめて。
「彼の家族が言ってきたんだね。――でもそれは彼が言っていたのを伝言した、ってことはないの?」
「ないです」
「言い切るね」
「じゃあ逆に彼が言っていた、って証拠があるんですか」
「……」
「あたしにはそんな証拠は提示されてません。――限りなくブラックに近くても、ブラックである証拠がないなら、それはホワイトです」
「……君のいる政治界の端くれではそんなもんか? おれは政治界にはグレーが存在すると思ってたよ」
「政治界にグレーは存在します」
「プライベートは別か」
「当然」
メリルって誰? →前作「1 学生時代の純愛」第3章をご参照ください。
呼んじゃいましたね、かの優しい工学部の男B……前作に引き続き問題児な予感です。