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③ これは罰なの? 2



 彼女は数日間落ち着かなかった。


 寝不足だったせいもあって、歩く度にふらふらとしてしまう。どこかにぶつかって崩れてしまいそうだった。


「ロンに会うの」


 おまけにそう言って聞かない。1人で家から出たら最後どこに行くか分からなくて、両親は引き止めていた。


「ロンに会いに行くなんて言わないと約束しなさい。なら出ていいわ」


「いや! 会いに行くの!」


「困った娘だね……」


 彼女は帰省の間母親の職場でお手伝いをしていたので母親と一緒に出ることはできたが、1人で行動することは決して許されなかった。




 ある日、職場からの帰り道で彼女は母親の目を出し抜いてよその方向へ行こうと考えた。


 幸いローヒールのバレエシューズを履いているからヒールのようにこつこつと言わない。母親の横を歩きながら何とか頭を働かせて案を捻り出した。


 横目でいい場所がないか探す。建物の多い場所だったから、簡単に見つかった。


 わざと路地裏へ入る曲がり角の前で彼女はしゃがんだ。靴に小石が入ったふりをして靴を脱ぎ、ない小石を落とした。母親が振り返ってこちらを見ている。


 彼女が再び靴を履いて歩き出した時母親は前を向いた。その刹那に彼女はひょっと路地裏に入って違う道に出るべく走った。


 こういう時だからこそ監視の目は厳しい。


 すぐに後ろから自分を呼ぶ大声がした。


 追いかけて来る足音。


 追いつかれないだろうが、追いつかれたらと思うと平静ではいられなかった。心臓が早鐘を打ち、体力を奪っていく。


 道の端をと思っていたばかりに、ついにポシェットの紐が街灯に引っかかった。


「あ――っ!」


 慌てて解いて走ろうとした腕は母親にきっちり掴まれた。


「だめよ、それ以上は」


「やだ――!」


――悔しい。こんなことでまた捕まってしまう。


――閉じこめられる。


 彼女は悶えるがまま腕を振り切ろうとした。


「あたしのことなんて放っといて! 子供じゃないんだから!」


「おやめ」


「会いに行かなきゃ――会いに」


「ごめんね――」


――会いたいね。大好きだもんね。分かるのよ。


 母親も涙ぐんでいた。涙ながらに娘を抱きしめる。彼女ももう限界に達したように無抵抗になった。


「あいたい……っ――」


 数十年ぶりに母親の胸の中で大泣きした。


 そんなこともあって両親は彼女が彼に会いに行くことをどうしても許さなかった。




 絶望に暮れたまま迎えた幾度目かの夜。


 独りベッドの上にうずくまった彼女は、携帯の画面を震える手でぽちぽち操作していた。


 その画面には、メッセージが表示された。



『――いいですよ。その日は仕事終わりでよければ。夕方4時半に、大学のカフェテリアで会いましょう』



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