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② これは罰なの? 1



 彼女は携帯の画面をぼんやりと眺めていた。


――信じたくない。あんなに穏やかに、あたしと彼が寄り添い合う様子を見ていてくれたのにどうして。


「どして……」


 憑かれたように、チャットの画面を開く。


 ここ3日ほどメッセージを送っているのに彼から返事がない。


 懲りずにまたメッセージを送った。


『もう会えないの? お父さんがもう会うなって言うの。嘘でしょう? また会ってくれるでしょう? ……』




 彼から返事が来なくて、待つつもりで携帯を見つめていたら夕方になっていた。涙が伝った跡もすっかり乾いてしまった頃。


「……来ない」


 いつまでも静かな携帯。


 彼の父親が言ったことは本当だったのだろうか。


 まだ会えない状態なのだろうか。


 もしも本当に自分が彼を傷つけたとしたなら、それこそ直接謝るべきなのに。


――会いたい。


――彼の声を聞きたい。


――また抱きしめてほしい。


 窓の外を眺めて、見えもしない姿を探していた。


 彼自身から直接「会えない」と聞いていない。それなら、彼から直接「会えない」と聞くまでは納得できない。


「あいにいかなきゃ」


 乾いた唇を噛んだらしょっぱい血の味がした。




 彼女がリビングを通りかかった時、両親はほっとしたように娘を見ていた。


「よかった、アンジー、ずっと出て来ないから」


「っと――アンジー、どこ行くんだ?」


 慌てたような足音が聞こえ、見る間に父親に腕を掴まれていた。


「もうご飯の時間だよ、すぐにできるから」


「ううん……あいにいくの」


「――ご飯の時間だからまた今度にしなさい」


「ううん……」


――だいすきなひとに、あいにいくの。


 彼女の桃色の唇から落ちる呟きはおぼつかない。蛇口をほんの少しだけ捻った状態で滴る不規則な水のように。


「だいすきだから。あいたいから。……ごめんね、しなきゃ」


「アンジー」


 父親にやんわりと抱擁される彼女。父親はそれ以上行かせなかった。


「パパ……いやなの」


「お腹空いたろう」


「いや」


「まだ彼だって人に会える状態じゃないんだろうから、待ってやりなさい」


「いやっ!」


――あたしの家族までもが同じことをする。


 彼女には、両親がまるで自分を繭の中に閉じこめようとするようにしか見えなかった。彼のいない孤独の空間に。


――あたしが彼を傷つけたから、天が罰を下しているの……?


 抵抗する間に彼女の身体は震え出した。


「いやあああぁ……っ!」


「アンジー……だいじょうぶだから……っ、どうした……」




 直接会って彼の傷を癒すのはどうして許されないのか。


 彼を愛しているのに。


 そもそも、愛しているのに傷つけたからいけなかったのだろうか。


 どうしたら償えるのだろう。


 ぐるぐると考えがどこにも着地しないでめぐるように、見えない糸にぐるぐると首を絞められるような感覚が彼女を襲っていた。


 もがくものなら余計に絡まる糸だった。


――この糸の先に彼はいるかしら。


 夜中、彼女は全く眠れなくて窓の外を見ていた。


――ついこの間まで一緒にいたのに。


 つと左手に目をやる。


 銀色の指輪が光っている。


「――あいたい。あい、してる……」


 そっと口づけを落とした。


――夜中の白い月に、この想いを託せるかしら。彼に伝えてと。見たら分かるようにと。


 指輪の光は月の光と融け合っていく。


「……」


 返事をしない月がじわじわと視界から消えていくのをじっと見届けた。


 夜は更けていった。



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