49/98
ワインレッド
彼女が我に返った時、「やはり」彼はいなくなっていた。
――――
――あの夜の出来事は夢だったのかもしれない。
現実味を持って彼女の頭に記憶されていたけれど、お酒のせいでどことなくぼんやりしていた。
何より彼は忽然と姿を消し、音沙汰もなくなってしまった。温もりが感じられない今、彼女は冷えた体を独りで温めるしかないのだ。
手っ取り早く温まる方法は布団にくるまること。
朝目が覚めてから――否、目が覚めて何となく朝だと思ってぼんやり過ごしていた。うとうとしかけた時に、電話がかかって来た。
「……もしもし」
「あぁ、よかった……アンジー、体調はどう」
「お父さ……、モーズレイさん、ロンは? ロンはあの後どんな様子ですか――」
「――いや、あのね。……あー、先に手短に言うよ」
――これは君のためなんだよ。アンジー……。
その瞬間から、世界は緋色に染まり始めた。緋色の糸が見えないように。