⑧ 一途が故の、脆さ
「アンジー……」
彼女は呼ばれて我に返った。もぞ……と動き出す彼。彼女はそっと離れようとした。
がさがさと布の音がした。
彼は布団を背中に乗せたまま、彼女の身体の上にかぶさってきた。どさ……と力なく横になるふたり。今度はまた彼が彼女の上にかぶさった。
彼は彼女をぴったり抱きしめるのだった。
「アンジー……」
――あい……して、いる。
ぎこちない囁きだった。
「……!」
彼女の胸がいっぱいになった。身を削ってまで愛するも虚しく、言葉で傷つけられただろうに。
――その結果がこれだなんて。この人の愛情はどこまで一途なの。
その一途な気持ちが心身の崩壊で共に壊れるほど脆いとは思いたくなかった。
――応えなきゃ。
何とか彼の頬を挟んで引き寄せる。額を突き合わせた。
「ロン……あたしも……なの」
もう、痛かったこと、彼が酒に酔って無理やりしてきたことなど、この熱で燃え上がって消えてしまう。
惹かれ合うまま重なる唇。触れ合う音は毛布が受け止める。毛布の中に閉じこめられたように、ふたりは固く抱き合い、いつまでも貪り合った。
「あたしだってあいしてるの……あなたを……っ!」
「ずっと……いっしょだ、なら……っ」
燃え滾るような告白をし合うのもお酒のせいだ、とはもう思う余地もなかった。
「ごめん……っ」
「なんで謝る?」
「だって……」
「あい、してることは……罪か?」
「ちがうの……」
「……ならいい」
肉体の熱は、生きていることを知らせてくれる。
「まだ……離れないで、いて……」
彼女は彼の痩せた身体にすがり寄った。
――溶けて1つになってしまえばいいのに。
盲目だから。愛情がそのまま残っていれば後はどうにでもなっていいと。この時ばかりは盲目だからと開き直れた。我に返る時のことなど慮ることなく。
彼女が我に返った時、「やはり」彼はいなくなっていた。