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⑤ ベッドの上で



 しかし忘れようとするだけ無駄であった。多少彼女に素面が戻ってきただけあって、克明に脳に刻まれてしまっている。


――あたしお嫁に行けない……あの人のトイレ係になったなんて……もうとても……。


 大好きな人だからまだよかったものの。


――そうよ大好きな人……あたしはあの人のあれにとっくに触れてるんだわ……。


――それならあの人のお嫁になろうかしら。


 こんな時にそう考えてしまう自分に呆然とする。


――だいいち、なる約束なんだわ。


 洗面所が静かになって、中からびしょ濡れの服を着た彼が出てくる。


 床にへたり込んだ彼女を見るとなぜか嬉しそうに微笑んだ。


 とても正気ではなさそうだ。


「ロン……服着替えなきゃ……」


「――きれいになった」


「はあ!?」


「洗ったからきれいだ」


「何言ってんの」


「アンジー……ベッドがいい」


「べ――っ! なんなの!」


「ベッドでする」


「す、する!? だったらあたしも綺麗に洗えばよかっ――」


――違うでしょ! 


 慌てて自分の酔った頭を叱りつける。


――しっかりしなさい、アンジー!


 まだ彼女も完全に酔いを追い出していなかった。


 情けなくて涙ぐんだ。


 滑稽もとうに通り過ぎてほとほと呆れ果てた。


「ふく――」


 彼がそう言うなり彼女のブラウスに手を伸ばして来る。


「ああっ、やだっなに!」


「ふく――っ!」


 もう水を飲んだりトイレに行くなどの目的を果たした今、彼は彼女に向かうしかないかのようだった。


「ロン! だめ――っ!」


 慌てて立ち上がって逃げようとしたが、当然追いかけられる。


 どたどたっ、と彼らの激しい足音が乱れ響き、今度はベッドの上に着地していた。


「うう――っ!」


「アンジー」


 しきりに名前を呼ぶ彼が――なぜか憎めない。


 ぴたっと吸い付くように唇を奪われる。水で余計濡れて冷たくなった唇が激しく貪り始める。後ろに倒されて、がっしりと閉じこめられる身体。


 彼は肉体に触れて高揚してしまっているようだった。きっと彼女の生身の体が欲しかったはず。触感が悦なのだ。お酒の力もあって離れようとすれば喚くに違いない。


「ロ、ン――ぁっ……っ……」


 唇を拒むことはできない。身体に刻まれるのは「気持ちいい」という感触だから。快感だったから。


 もっと欲しいと身体は応えてしまう。


 酔っていて面倒でも、彼が大好きだから。


「アンジー……っ、もう、いっしょ、だ――っ!」


 キスはますます熱くなった。


 そのうち頬も、首も、じっとりと熱い唇に包まれた。


 自分の肌が残らず吸われるのではないか。


 拒めない。


 もう彼のことを止められない。


 快感は良心を突いて疼かせる。水風船を突くように。彼女の喉から切ない細い声が出た。


 そしてがっちり彼女を押さえ込む彼が苦しそうに、しかし溢れる熱をどっと押し出すように声を上げた。


「すき――っ、すき……っ! ずっと……っ、はなれない……どこも……!」



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